『はじめての利他学』日本初「利他」の入門書!
NHK出版は「学びのきほん」シリーズより、若松英輔さん著『はじめての利他学』を刊行しました。
利他にとってまず一番大切なのは「自分を愛すること」
コロナ禍によって、さまざまな場でキーワードとしてあげられるようになった「利他」。先月、東京工業大学「未来の人類研究センター」がオンラインで開催した「利他学会議」には2日間で約3000人が参加しました。
「利他」というと、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。普通は「利他」を「利己」と正反対の意味としてとらえるでしょう。
しかし本書は、それに異を唱えるところから始まります。
「利己的ではないことが利他である」という考え方が、現代では一般的ではあります。しかし、「利他」を「利己」の対義語と考えるのは、あまり得策とはいえません。それは言葉の原義――もともとの意味――とも異なるのです。
では、「利他」の原義はいったいどこにあるのでしょうか。
日本で最初に「利他」という言葉を用いたのは、平安時代の仏教者・空海だと言われています。その空海について、著者の若松英輔さんはこのように考察します。
空海は単に「利他」と書くのではなく、「自利利他」と書いています。「利他」は「自利」と切っても切れない関係にある。さらにいえば、「自利」こそが「利他」の土壌であるとすら空海は考えていたのです。
「他者を利する」ということと、「自分を利する」ことは、決して反対のもの・別々のものではなく、切り離すことのできない一体のものだというのです。つまり、「利他」について大切なのは、自分と他者の「真のつながり」について考え、それを深めていくことなのです。
本書にはさまざまな人物が登場します。日本の仏教からは最澄と空海、中国の儒教からは孔子と孟子、それらを学び体現した人として近世日本を生きた二宮尊徳、中江藤樹、内村鑑三……。彼らはどのように生き、どのような利他の言葉を遺しているのか。彼らの「実感」を通して、私たちが「利他」に出会う道を探ります。
また最終章では、「利他」と「真のつながり」を別の側面から考えるために舞台を西洋に移し、エーリッヒ・フロムの『愛するということ』を読み解きます。本章では、利他にとってまず一番大切なのは、「自分を愛すること」だといいます。
自分で自分のことを愛することができれば、その人は自分を固有なものにできます。そして、そのうえで誰かのことを愛することができれば、その人は他人のことを固有な存在として認めることができます。自分自身が固有であると知ることは、他者が固有であると知ることです。それはすなわち自他ともに等しい存在であることを経験するということでもあります。
人種、国籍、年収、性別……さまざまな側面から個々人が分断される現代で、それでも私たちが他者とつながるために必要なこと。それはまず、自分を愛することである。自分を愛することで、他者を愛することができるようになる。これこそが、利他に通じる道なのではないか。そんな利他の核心に、日本を代表する批評家が迫ります。
本書の構成
第0章 なぜ今、「利他」なのか
第1章 利他のはじまり
第2章 「利」とは何か
第3章 利他を生きた人たち
第4章 利他のための自己愛
著者プロフィール
著者の若松英輔(わかまつ・えいすけ)さんは、1968年生まれ。新潟県出身。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。批評家、随筆家。
2007年「越知保夫とその時代 求道の文学」にて第14回三田文学新人賞評論部門当選、2016年『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』(慶應義塾大学出版会)にて第2回西脇順三郎学術賞受賞、2018年詩集『見えない涙』(亜紀書房)にて第33回詩歌文学館賞詩部門を受賞、『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋)にて第16回角川財団学芸賞、第16回蓮如賞を受賞。
その他の著書に『悲しみの秘義』(文春文庫)、『沈黙のちから』『詩集 美しいとき』(亜紀書房)、『詩と出会う 詩と生きる』『14歳の教室 どう読みどう生きるか』『考える教室 大人のための哲学入門』(NHK出版)など。
NHK出版 学びのきほん はじめての利他学 (教養・文化シリーズ) 若松 英輔 (著) 他者だけでなく、自分も利する「利他」の本質とは。 「利他」という言葉は「自分ではなく、他者のためにおこなうこと」だと捉えられがちだ。しかし、日本の起源から利他を見つめ直してみると、それとは全く異なる姿が見えてくる。空海の「自利利他」、孔子の「仁」、中江藤樹の「虚」、二宮尊徳の「誠の道」、エーリッヒ・フロムの「愛」……彼らは利他をどのようにとらえ、それをどう実践して生きたのか。彼らの考える利他は、現代とどう違うのか。「自分」があってこその利他のちからとは、どんなものなのか。日本を代表する批評家が、危機の時代における「自他のつながり」に迫る、日本初・利他の入門書。 |
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