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村上春樹さん×柴田元幸さん対話集『本当の翻訳の話をしよう』が文庫化 新たに7本の対談を追加収録

村上春樹さん・柴田元幸さん共著『本当の翻訳の話をしよう 増補版』

村上春樹さん・柴田元幸さん共著『本当の翻訳の話をしよう 増補版』

村上春樹さん・柴田元幸さん共著『本当の翻訳の話をしよう 増補版』が、新潮文庫より6月24日に刊行されます。

※本書はスイッチ・パブリッシングから刊行された同名書の文庫版ですが、新たに7本の対談を追加収録した増補版となっています。

 

「村上さん、なんでそんなに翻訳が好きなんですか」「暇があると、つい翻訳しちゃうんだよね」――そんな二人が「翻訳」という仕事について語り尽くした対談集

村上春樹さんと翻訳家の柴田元幸さん(東京大学名誉教授)は、村上さんが翻訳を手掛けた作品のチェックを柴田さんが行うことをはじめ、柴田さんの主宰する雑誌「MONKEY」に『職業としての小説家』(現在は新潮文庫刊)を連載したり、お二人で共同選書した新潮文庫内のレーベル「村上柴田翻訳堂」を刊行するなど、30年以上にわたって共同作業を行ってきました。『本当の翻訳の話をしよう』もその延長上にある対話集です。

 
村上春樹さんは

〈僕は小説を書くことがいちおう本職だが、「曲がりなりにも、こうして翻訳ができてよかったなあ」とよく思う。翻訳をすることで、ずいぶん多くの大事なことを――小説に関する大事なことを――学べたからだ。いくつになっても、学ぶべきことはいっぱいある。翻訳作業は僕に常にそのことを教えてくれる。
〉(本書あとがきより)

と語る通り、翻訳するという作業の中から自身の小説のスタイルを作ってきた作家と言えます。

柴田元幸さんという最良の聞き手を得た本書では、村上春樹さんがご自身の創作スタイルを、意外とも思えるほど饒舌に語っています。

 
—————

柴田 たしかに、文学というのは、その中では簡単に答えを出すものではじゃないですよね。

村上 小説は小説自体として浮かび上がってこないと力を持てないというのが僕の考えなんだけど、この『宇宙ヴァンパイア―』はなかなかうまく行っているんです。ダイナミズムがあります。エンターテインメントのフォームと思想って意外に合うんですよ。

(中略)

柴田 村上さんは、ご自身でこういう小説を書こうと思われますか。

村上 書かないですね。僕は思想的なことではなく、個人的に内在するもの、その源泉から出てくるものから物語を書いています。
〈コリン・ウィルソン『宇宙ヴァンパイア―』をめぐって〉

 
柴田 ラードナーの作品は、ページから声がぱっと立ち上がってきます。
村上 僕も小説を書くわけだけど、スタイルはまったくちがうにもかかわらず、彼のヴォイスの力強さには感心するんですよね。小説というのは耳で書くんですよ。目で書いちゃいけないんです。といって書いたあとに音読してチェックするということではなくて、黙読しながら耳で立ち上げていくんです。そしてどれだけヴォイスが立ち上がってくるかということを確認する。立ち上がってこないなと思ったら、立ち上がってくるまで書き直すんです。ヴォイスを聞き分ける耳のよさというものは、ある人にはあるし、ない人にはずっとない。そして自分で言うのもなんだけど、僕は耳が悪くない方だと思う。(※下線部、原文は傍点)

(中略)

村上 僕は「鏡」という作品を書いたことがありますが、あれは語りだけで書いた作品です。語りだけの作品って、いくつも書けるわけじゃないんですよね。僕の場合、「語り」は長編には必ず入ってきます。

柴田 『ねじまき鳥』の間宮中尉の語りだとか、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の灰田の語りなどですね。

村上 チェンジ・オブ・ペースなんです。長編小説にはそういうものが必要です。
〈リング・ラードナー『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』をめぐって〉

 
柴田 翻訳について今回まずおうかがいしようと思ったのは、二葉亭四迷のことです。村上さんが『風の歌を聴け』をお書きになったときに冒頭をいったん英語で書いていたように、二葉亭も『浮雲』第二編を書きはじめたとき、江戸的文章から逃れるためにロシア語で書いてみたそうです。自分を縛っているものの外に出る手段としての外国語の力を感じさせるエピソードだと思いますが、どう思われますか。

村上 小説文体というのがだんだんできてくると、その文体で書かないと小説ではないという決まりみたいなものができてしまうんです。僕がちょうど小説を書こうとした頃は、現代文学という縛りがあって、それじゃないと駄目、という雰囲気がありました。僕はそれを書くつもりがなかったし、書いても上手くいかなかったので、じゃあ英語で書いてみようと思った。そうすれば楽だろう、縛りから逃げられるだろうと思ったんです。それは二葉亭四迷も同じだったでしょうね。江戸の文章から抜け出すには別のシステムを持ってこないと抜け出せなかったのだと思う。僕の場合、翻訳と書くことが最初からやっぱりどこかでクロスしているんですね。
〈本書所収「翻訳の不思議」より〉

 
柴田 五〇年代というのは、何が正しいかが、ある程度わかっている気になれた時代だったということでしょうか。

村上 そうですね。生まれたときから、育っていく過程で良くも悪くもそういうものを植え付けられたところがあるんじゃないかな。僕は今だってそういうものが小説にはすごく大事だと思っているんです。モラリティをもってしないと描ききれない非モラルな状況があります。アイロニーをもってしか語れない幸福や安寧があり、ユーモアと優しさをもってしか語れない絶望や暗転がある。僕はそう思っていつも小説を書いています。
〈ジョン・チーヴァー『巨大なラジオ/泳ぐ人』をめぐって〉

 

本書の目次

まえがき 柴田元幸

OPENING SESSION 帰れ、あの翻訳

僕たちはこんな(風に)翻訳を読んできた(I)
饒舌と自虐の極北へ――フィリップ・ロス『素晴らしいアメリカ野球』をめぐって
ハーディを読んでいると小説が書きたくなる――トマス・ハーディ『呪われた腕』をめぐって

INTERLUDE 公開翻訳 僕たちはこんな風に翻訳している

僕たちはこんな(風に)翻訳を読んできた(II)
雑然性の発熱――コリン・ウィルソン『宇宙ヴァンパイアー』をめぐって
共同体から受け継ぐナラティヴ――マキシーン・ホン・キングストン『チャイナ・メン』をめぐって

INTERLUDE 日本翻訳史 明治篇 柴田元幸

僕たちはこんな(風に)翻訳を読んできた(III)
闇のみなもとから救い出される――ジェイムズ・ディッキー『救い出される』をめぐって
ラードナーの声を聴け――リング・ラードナー『アリバイ・アイク』をめぐって

INTERLUDE 切腹からメルトダウンまで 村上春樹

僕たちはこんな(風に)翻訳を読んできた(IV)
青春小説って、すごく大事なジャンルだと思う――ジョン・ニコルズ『卵を産めない郭公』をめぐって
一九三〇年代アメリカの特異な作家――ナサニエル・ウエスト『いなごの日/クール・ミリオン』をめぐって

INTERLUDE 翻訳の不思議

僕たちはこんな(風に)翻訳を読んできた(V)
小説に大事なのは礼儀正しさ――ジョン・チーヴァ―『巨大なラジオ/泳ぐ人』をめぐって
短篇小説のつくり方――グレイス・ペイリー『その日の後刻に』をめぐって

CLOSING SESSION 翻訳にプリンシプルはない

あとがき 村上春樹

 

著者プロフィール

 
■村上春樹(むらかみ・はるき)さん

1949(昭和24)年生まれ。京都市出身。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。

主な長編小説に『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。

海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、2016年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞を受賞。

 
■柴田元幸(しばた・もとゆき)さん

1954年生まれ。東京都出身。米文学者・東京大学名誉教授。翻訳家。アメリカ文学専攻。

『生半可な學者』で講談社エッセイ賞、『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞、トマス・ピンチョン著『メイスン&ディクスン』で日本翻訳文化賞を受賞。アメリカ現代作家を精力的に翻訳するほか、『ケンブリッジ・サーカス』『翻訳教室』など著書多数。文芸誌『Monkey』の責任編集を務める。

 

本当の翻訳の話をしよう 増補版 (新潮文庫)
村上 春樹 (著), 柴田 元幸 (著)

「村上さん、なんでそんなに翻訳が好きなんですか」「暇があるとつい翻訳しちゃうんだよね」そんな二人が語り尽くした対話全14本!

〝翻訳は塩せんべいで、小説はチョコレート。交互に食べて、あとは猫がいれば、いくらでも時間が過ぎちゃう〟という「翻訳家」村上春樹が、盟友・柴田元幸とともに語り合った対話全14本。海外文学から多くのものを受けとってきた二人が、翻訳という仕事の喜びと苦労を語りつつ、意外とも思える饒舌さで「作家」村上春樹の創作の秘密が明かされる、必読の対話集。7本の対話を追加した増補決定版。

 


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