本のページ

SINCE 1991

故・隆慶一郎さん『捨て童子・松平忠輝』上中下巻が刊行

新潮社は、故・隆慶一郎さんの傑作時代小説『捨て童子・松平忠輝』上中下巻を新潮文庫より刊行しました。

 

60歳を過ぎてデビューした著者の、誰もマネできない世界が展開!

今から40年近く前。歴史小説界に彗星のごとく登場し、読書界を震撼させた隆慶一郎さん。
デビュー作『吉原御免状』がいきなり直木賞候補となり、以後、読者・書店員の度肝を抜く作品を続々発表、圧倒的な存在感を残しました。歴史小説界の伝説的巨星、といって過言ではありません。

 
超弩級のエンターテインメント性は、いまなら「本屋大賞」になってもおかしくないほどの力強さ。その奔放で豪胆なストーリーに、酔い痴れ、読み痴れる『捨て童子・松平忠輝』上中下巻が新潮文庫より発売されました。

 
社会秩序に縛られることなく自由に生きる〈道々の者〉。その末裔に生まれた松平忠輝は、徳川家康の第六子にもかかわらず、途方もないエネルギーと異形の容貌を家康に恐れられ、捨てられてしまいます。帰る場所のない忠輝は、謀略を企む二代将軍秀忠と、執拗に命を狙う柳生に対峙していく道を選びます。命を狙われ、理不尽な仕打ちを受け、生来の孤独を抱えながら、忠輝はいかに生きることを決意したのか。

 
まるで格闘家のように鍛えられた肉体、柳生の必殺剣を封じる戦いのセンス、無駄な殺戮を嫌う心。烈しい戦いの中、彼を支えたのは、そうした強さだけではありませんでした。根っからの明朗さ、人の悲しみを感じとる優しさ、弱き者と愛する者を守る覚悟。そして、強いがゆえに、敵さえも惚れてしまう器の大きさ。出自の淋しさを心に秘め、嘆くことをせず、自由に生きようと願い、なによりも信義を重んじた忠輝。しかし、時代は裏切りと虚々実々の乱世でした。

 
愛するものの喪失の末、彼は変貌します。知的で涼しげな雰囲気を漂わせ、ラテン語やキリスト教を難なく理解し、西洋医学に通じ、敵方の秀頼とも心を許し合う友になる。そんな広々とした人物となっていきます。

 
しかしながら、大坂落城は目前に迫ります。徳川の血を引く忠輝が大坂城の秀頼を救うことなど、出来ようはずもありません。が、忠輝は大坂城に向かって全身で駆けます。砲声がとどろくなか、幼き日の思いを胸に、友・秀頼のもとに――。秀頼を潰そうとする家康、保身に走る淀君、姑息な秀忠。二人を阻むものは数えきれない。でも、敵味方を越えた魂が出会う時、大坂城に涙なくして読めないドラマが生まれるのです。

戦乱の世にあっても決して汚れることのなかった忠輝を、熱く強く濃く描き切った大作です。

 

著者プロフィール

(c) 新潮社写真部

(c) 新潮社写真部

隆慶一郎(りゅう・けいいちろう)さん(1923-1989)は、東京出身。東大文学部仏文科卒業。在学中、辰野隆、小林秀雄に師事する。編集者を経て、大学で仏語教師を勤める。中央大学助教授を辞任後、本名・池田一朗名で脚本家として活躍。映画「にあんちゃん」の脚本でシナリオ作家協会賞を受賞。

1984年『吉原御免状』で作家デビュー。1989年には『一夢庵風流記』で柴田錬三郎賞を受賞。時代小説界に一時代を画すが、わずか5年の作家活動で急逝。

 

捨て童子・松平忠輝(上) (新潮文庫)
隆 慶一郎 (著)

「色はあくまで黒く、目は逆しまに裂け、腕にはお魚の鱗がおありになる……」道々の者の末裔を母に持ち、徳川家康の第六子として生まれた松平忠輝だが、その異形と途方もないエネルギーを家康に恐れられ、捨てられてしまう。帰る場所のない忠輝は、謀略を企む秀忠と執拗に命を狙う柳生と対峙するが……。弱き者、そして愛する者を守るべく、虚々実々の乱世を“鬼っ子さま”が駆け抜ける!

「お前さまは力がありすぎます。これからは十の力を八まで隠しなされ」
「臨終の苦しい息の下で、休賀斎はそう忠輝に囁いている。」
「分ったよ。何でもいう通りにするよ」
忠輝は大粒の涙をぼろぼろこぼしながら叫んだ。
「爺いがいなくなったら、俺はどうしたらいいのか分らなくなってしまう。
だから死んじゃ駄目だ。俺、もう爺いをぶたないからさ。な、な」
〈このお方は生涯こうした極端な愛憎のはざまで生き続けることになろう〉(本文より)
誰よりも熱く濃く――。今を生きる人を鼓舞する男がここにいる。

捨て童子・松平忠輝(中) (新潮文庫)
隆 慶一郎 (著)

死闘と悲劇の末、若武者となった忠輝は、知的で明るく涼しげな雰囲気を漂わせ、ラテン語やキリスト教を難なく理解していった。さらに、浅草の診療所では医業に精を出し、人種や身分をこえて信頼を勝ち取っていく。そんな中、金銀山の富を背景に大久保長安はただならぬ野望を抱き始めていた。策謀渦巻く不穏な世で忠輝は、己の信念を貫き通そうとするが、宿命の日は刻々と近づいてくる……。

「浅草の診療所ですよ、上総介さまが通われているのは……」
越後福嶋七十五万石の太守が、百姓や職人、物乞いから浮浪人まで、この世のどん底にいる人間の身体を、自らの手で診察し治療しているのである。
「あのお方には殿様という気持が全くないのだ。ご自分を只の人間だとしか考えていられないんだね。どんな相手でも同じ人間だと思っている。だから紅毛人だろうと、物乞いだろうと何の差別もなさらないのだよ」(本文より)

捨て童子・松平忠輝(下) (新潮文庫)
隆 慶一郎 (著)

砲声が響き渡り大坂落城が迫るなか、幼き日の思いを胸に忠輝は秀頼のもとへ駆けつける。〈友との約束を守らずして、生きる価値などない! 如何なるときも清々しくありたいのだ。〉秀頼を見限る家康、保身に走る淀君、姑息な秀忠。二人を阻むものは数えきれないが、敵味方を越えた魂が今、通じ合うーー。戦乱の世にあっても決して汚れることのなかった忠輝を、熱く強く濃く描き切った傑作。

「約束したじゃないか。たとえ父上や兄上が大坂城を攻めることがあっても、わしだけは絶対にそんなことはしないって」
「あの時の約束を……」秀頼は泣きたくなった。どんな汚い手を使っても豊臣家を滅ぼそうという徳川一族の中に、十四歳の少年の日の約束を堅く守る男がいたのだ。
「会いたくなったんだよ。だから来たのさ」
秀頼は声もなかった。涙が頬を伝った。(本文より)

 
【関連】
試し読み | 『捨て童子・松平忠輝〔上〕』隆慶一郎 | 新潮社

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です