帚木蓬生さん〈医者の家、四代百年の物語〉『花散る里の病棟』が文庫化 解説は医家五代目・佐野史郎さん
作家であり現役医師である帚木蓬生さんが「開業医」の姿を叙情豊かに描く大河小説『花散る里の病棟』が文庫化され、新潮文庫より刊行されました。
地位でもなく知名度でもなく、医師が本来目指すべき目標とは、そして医師の力が最も問われる現場とは……患者に向き合う誠実さと、時代に翻弄される医療の姿を、構想十年かけて書き上げた「医家100年」の物語です。
「理想の医師」とは何か? 執筆10年、九州で四代続く町医者の家を通して、日本の「医療百年」の現場を描く!
「町医者こそが医師という職業の集大成なのだ――。
この文章には、著者の万感の想いが詰まっていると言ってよいでしょう。福岡県出身の帚木蓬生さんは、東京大学仏文科を卒業後TBSに入社、2年間、番組制作現場に身を置きました。しかし、医学への想い断ちがたく、退社して九州大学医学部を卒業、医学の道に進みます。
作家として数々の傑作を発表するかたわら、精神科医として地域の精神病院に勤務し、のちに福岡県中間市で小さな心療内科・精神科クリニックを開業しました。患者の多様な訴えや症状に耳を傾け、まさに開業医として「町医者」として、患者を支えてきました。開業したときに、白衣を脱ぐと決め、できるだけ患者の目線で、普段着の診療を続けてきました。
そんな著者が、開業医とはなにか、医師の目指すところはなにかという想いをこめて書き上げたのが、本書『花散る里の病棟』。4代100年の医家をめぐる大河小説です。
「虫医者」として頼りにされた初代。
軍医として戦線を彷徨った二代目。
地元で内科医院を開いた三代目。
先端医療に取り組む外科医として、パンデミックに直面した四代目。
時代の荒波を越え、地域に根ざし、つねに患者と共に戦い、涙し、喜ぶ開業医の心を、そして病と命の現場に真摯に向き合う姿を、抒情豊かに描きだして感動を呼ぶ稀有な物語。自らも医家の家に生まれた俳優の佐野史郎さんによる特別解説も収録。陰影に富んだ名解説です。
佐野史郎さん「解説」より
私は医師ではなく俳優。家業は分家した弟が同じ敷地内で継いでは いるものの、(略) 両親の命を受け墓は私が守ることに。ですが、大正生まれの父は疾(と)うに亡くなりましたし、母が他界したこともあり百五十年の歴史を閉じ、家じまいすることを決しました。
家を守り続けてきた祖先に対する想いは複雑ですが、それ故、なおさら、明治の終わりに開業してからの野北家の代々の物語が、虚実を超えて迫ってくるのです。
本書の目次
彦山ガラガラ 二〇一〇年
父の石 一九三六年
歩く死者 二〇一五年
兵站病院 一九四三―四五年
病歴 二〇〇三年
告知 二〇一九年
胎を堕ろす 二〇〇七年
復員 一九四七年
二人三脚 一九九二年
パンデミック 二〇一九―二一年
解説 佐野史郎
著者プロフィール
帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)さんは、1947年生まれ、福岡県出身。東京大学仏文科卒業後、TBSに勤務。2年で退職し、九州大学医学部に学ぶ。2023年8月現在は精神科医。
1993年『三たびの海峡』で吉川英治文学新人賞、1995年『閉鎖病棟』で山本周五郎賞、1997年『逃亡』で柴田錬三郎賞、2010年『水神』で新田次郎文学賞、2011年『ソルハ』で小学館児童出版文化賞、2012年『蠅の帝国』『蛍の航跡』の「軍医たちの黙示録」二部作で日本医療小説大賞、2013年『日御子』で歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』で吉川英治文学賞および中山義秀文学賞をそれぞれ受賞。
『国銅』『風花病棟』『天に星 地に花』『受難』『悲素』『襲来』『花散る里の病棟』といった小説のほか、新書、選書、児童書などにも多くの著作がある。
花散る里の病棟 (新潮文庫) 帚木 蓬生 (著) 町医者こそが医師という職業の集大成なのだ――。大正時代、「虫医者」として頼りにされた初代。軍医として戦線を彷徨った二代目。地元で内科医院を開いた三代目。先端医療に取り組む外科医として、パンデミックに直面した四代目。時代の荒波を越え、地域に根ざし、つねに患者と共に戦い、涙し、喜ぶ開業医の心とは。病と命の現場に真摯に向き合う姿を抒情豊かに描きだして感動を呼ぶ百年の物語。 |
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