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【訃報】作家・古井由吉さんが死去 『杳子』で芥川賞 同賞の選考委員も

「内向の世代」を代表する作家の古井由吉(ふるい・よしきち)さんが2月18日、肝細胞がんのため東京都内の自宅で死去しました。82歳。東京都出身。葬儀・告別式は近親者で営みました。喪主は妻の睿子(えいこ)さん。

 
古井由吉さんは、東京大学文学部独文科卒業、同大大学院修士課程修了。金沢大、立教大で教員を務める傍ら、現代ドイツ語作家の作品を翻訳を手掛け、1968年より小説も発表。1970年より作家専業に。個人の内面を見つめる作品を執筆し、黒井千次さんらとともに「内向の世代」と呼ばれました。

1971年『杳子(ようこ)』で芥川賞、1980年『栖(すみか)』で日本文学大賞、1983年『槿(あさがお)』で谷崎潤一郎賞、1987年『中山坂』で川端康成文学賞、1990年『仮往生伝試文(かりおうじょうでんしぶん)』で読売文学賞、1997年『白髪の唄』で毎日芸術賞を受賞。以後は賞を辞退。1986年から2005年まで芥川賞の選考委員。

 
著書に『円陣を組む女たち』『行隠れ』『山躁賦(さんそうふ)』『楽天記』『野川』『白暗淵(しろわだ)』『鐘の渡り』『ゆらぐ玉の緒』、『古井由吉作品』(全7巻)『古井由吉自撰作品』(全八巻)など。競馬ファンとしても知られ、『折々の馬たち』などのエッセイ集も。

 

杳子・妻隠(つまごみ) (新潮文庫)
古井 由吉 (著)

神経を病む女子大生〈杳子〉との、山中での異様な出会いに始まる、孤独で斬新な愛の世界……。現代の青春を浮彫りにする芥川賞受賞作「杳子」。都会に住まう若い夫婦の日常の周辺にひろがる深淵を巧緻な筆に描く「妻隠」。卓抜な感性と濃密な筆致で生の深い感覚に分け入り、現代文学の新地平を切り拓いた著者の代表作二編を収録する。

槿 (講談社文芸文庫)
古井 由吉 (著), 松浦 寿輝 (解説)

男の暴力性を誘発してしまう己の生理に怯える伊子(よしこ)。20年も前の性の記憶と現実の狭間で揺蕩う(たゆたう)國子。分別ある中年男杉尾と二人の偶然の関係は、女達の紡ぎ出す妄想を磁場にして互いに絡み合い、恋ともつかず性愛ともつかず、「愛」の既成概念を果てしなく逸脱してゆく。 濃密な文体で、関係の不可能性と、曠野の如きエロスの風景を描き切った長篇。谷崎潤一郎賞受賞。

白髪の唄 (新潮文庫)
古井 由吉 (著)

「白髪というものは、時によって白く見えたり黒く見えたりするものですね」―知りもしない唄をゆるゆると、うろ声を長く引いて唄うような気分。索漠と紙一重の恍惚感…。老鏡へ向かう男の奇妙に明るい日常に、なだれこむ過去、死者の声。生と死が、正気と狂気が、夢とうつつが、そして滑稽と凄惨とが背中合せのまま、日々に楽天。したたかな、その生態の記録。毎日芸術賞受賞。

 


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