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男が死んだ…女は整形し、過去を捨て、北陸へ逃げた――花房観音さん『果ての海』が文庫化

女が過去を捨て逃亡、北陸で別人生活、眼前には日本海と断崖絶壁……。松本清張『ゼロの焦点』も思い起こさせる、小説家・花房観音さんのサスペンス長編『果ての海』が文庫化され、新潮文庫より刊行されました。整形しすべてを捨ててでも、逃げ続けるその理由は何なのか。”逃げる女”の生き様を描く圧巻の物語です。

 

松本清張『ゼロの焦点』を彷彿とさせる、”逃げる女”の生き様サスペンス

殺人、愛人、逃亡、整形、偽名、温泉、海、断崖絶壁。物語のキーワードを挙げれば、2時間サスペンスドラマの効果音が頭の中で鳴り響きそう。『果ての海』は、北陸の温泉街を舞台に、“逃げる女”をテーマに描いた、サスペンス長編です。

 
【あらすじ】

階段の下で息絶えた男。愛人の鶴野圭子は、全てを捨てて逃げることを決めた。出会い系で知り合った元ホストの鈴木の伝手で整形し、美貌と「倉田沙世」という偽名を携え、福井の芦原(あわら)温泉へ。だが旅館の仲居やコンパニオンとして働くうちに厄介な人間関係に巻き込まれ、頼りの鈴木も音信不通となった。東尋坊での自死が頭をよぎるが、圭子には生きて逃げ続けなくてはならない理由があり――。

 

逃げて、別人として素性を隠して生きる

現実の世界でも、連続企業爆破事件で指名手配され約50年もの間逃亡した桐島聡(だと名乗り死亡した男)や、同僚への殺人罪で逃げ、整形して約15年の潜伏生活の末、時効寸前に福井県で逮捕された福田和子らが思い浮かぶ人も多いでしょう。

 
本作に文庫解説を寄せた政治学者の原武史さんも、圭子の姿に福田和子を連想したほかに、〈一人の女性が過去を封印したまま、東京の郊外から北陸に移り、別人として全く違う人生を歩み始める。この展開は、松本清張の傑作の一つで、長編推理小説の『ゼロの焦点』を思い起こさせる。〉

と指摘し、本作と『ゼロの焦点』とを比較しながら考察しています。

 
鉄道に詳しい原さんならではの視点で、今年3月には福井県敦賀まで延伸予定の北陸新幹線や、発展した車社会など移動手段から見る、清張が描いた時代との逃亡生活の違い、さらに圭子の生き抜こうとする意志がもたらす物語の温度感の違いも、併せてご注目ください。

 

著者プロフィール

花房観音(はなぶさ・かんのん)さんは、1971(昭和46)年生まれ、兵庫県出身。京都女子大学文学部中退後、映画会社や旅行会社などの勤務を経て、2010(平成22)年に「花祀り」で団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。2024年2月現在も京都でバスガイドを務める。

著書に『寂花の雫』『指人形』『偽りの森』『花びらめくり』『くちびる遊び』『ゆびさきたどり』『うかれ女島』『どうしてあんな女に私が』『果ての海』『京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男』、円居挽さんとの共著『恋墓まいり・きょうのはずれ』、中村淳彦さんとの共著『ルポ池袋 アンダーワールド』、エッセイ『シニカケ日記』など多数。

 

果ての海 (新潮文庫)
花房 観音 (著)

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男が死んだ。女は整形し、過去を捨て、北陸へ逃げた――。
松本清張『ゼロの焦点』も彷彿とさせる、?逃げる女”の生き様サスペンス!!!
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階段の下で息絶えた男。男の愛人だった鶴野圭子は、この殺人によって全てを捨てて逃げることを決めた。
圭子は出会い系で知り合った自称元ホストの鈴木太郎の手引きで整形し、「倉田沙世」という偽名とその嘘の経歴を携えて、福井の芦原温泉へ向かった。
旅館での仲居仕事に加え、「沙世」の美貌に目をつけたコンパニオン派遣会社社長の美加のスカウトで、コンパニオンの仕事も始めることになった圭子。
さらに、あわらミュージック劇場のストリッパー・レイラと親しくなり、だんだんとここでの人間関係ができていく中で、逃亡犯の身として?見つかる“不安も芽生えていく。
次第に厄介事にも巻き込まれはじめ、頼りの鈴木もなぜか音信不通になってしまった。
逃げて逃げても、その果てにあるのは逮捕か、あるいは死か。東尋坊での自死という選択も頭をよぎるが、圭子には、生きて逃げ続けなくてはならないある理由があった――。
「逃げる女」の生き様を描き切る、傑作サスペンス!!!

 
【関連】
試し読み | 花房観音 『果ての海』 | 新潮社

 


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