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『教室マルトリートメント』暴言や威圧的態度、能力を超えた過度な要求…教育現場に蔓延る“グレーゾーン”、子どもを傷つける「不適切な指導」に斬り込む!

川上康則さん著『教室マルトリートメント』

川上康則さん著『教室マルトリートメント』

川上康則さん著『教室マルトリートメント』が東洋館出版社より刊行されました。

 

教育者たちの不適切な指導は何故なくならない? その発生要因を、業界の構造的な問題から検討し、教師という職業が抱える「不安」に寄り添う

 
「体罰」や「連帯責任」だけではない。教室に蔓延る「不適切な指導」が、子どもの健康を害している――。現場を見つめる著者がくれる、改善のための数々のヒントたち。
――評論家・荻上チキさん

 
教育現場における教師の不適切な指導の報道が、連日あとをたちません。

それは、これまで、何がどう不適切なのか、「教育」や「指導」の定義や意味が非常に曖昧であったことが、要因の一つなのではないでしょうか。

学校で「指導」の名の下に子どもたちを傷つけるような関わりが、知らず知らずのうちに行われていることがなかっただろうか――そのような問題意識のもとに、本書は生まれました。

 

「違法ではないが適切ではない指導」が、子どもを傷つける

本書のタイトルである「教室マルトリートメント」という言葉は、筆者である川上康則さん(東京都立矢口特別支援学校主任教諭)の造語です。

教室内で行われる指導のうち、体罰やハラスメントのような違法行為として認識されたものではないけれども、日常的によく見かけがちで、子どもたちの心を知らず知らずのうちに傷つけているような「適切でない指導」のことを指しています。

 
例えば、事情を踏まえない頭ごなしの叱責、子どもたちを萎縮させるほどの威圧的・高圧的な指導などは分かりやすい例ですが、本書ではもう少し掘り下げて、褒めるべき時に褒めない、「子どもにナメられるから」という理由で笑顔を見せない、といったことについても、教室内を重い空気感で包んでしまう指導として取り上げます。

 

マルトリートメント=不適切なかかわり

「マルトリートメント」という概念は、海外ではチャイルド・マルトリートメント( child maltreatment )という表現で広く知られています。

mal(マル=悪い)+treatment(トリートメント=扱い)で、マルトリートメント。「不適切な養育」「避けたいかかわり方」などの意味で使われます。

 
日本の児童虐待防止法で定められた内容(身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待)よりも広い概念で語られ、子どもの将来のためによかれと思って行う「しつけ」や、大人が過去に受けてきたからという理由で行われる指導であったとしても、子どもの育ちにマイナスであれば許されていません。

 
マルトリートメントは、子どもの心にトラウマ(心的外傷)をつくるとされ、脳の一部の萎縮や肥大などの変形につながることも、小児神経科医の友田明美さんの研究によって報告されています(参照:友田明美さん著『子どもの脳を傷つける親たち』NHK出版新書 など)。

 
マルトリートメントは、基本的に親子関係の養育において扱われる概念です。
しかし、不適切な関わり方や本来であれば行われるべきでない指導といった視点から見てみると、教育関係者こそ、常に気を付けておくべき概念なのではないか――。本書では、そのような問題意識のもと、密室空間である教室で、「指導」の名の下に子どもたちを傷つけるような関わりが、知らず知らずのうちに行われていることがないか、検討していきます。

 
例えば、このような指導を見たこと・体験したことがないでしょうか。

◎強い叱責、懲罰、締め付けなどの指導がされている
◎教室ができていない子を報告し合うような監視社会化している
◎多くの子どもたちが黙って高圧的な教師に従っている
◎教師の一方的な語りが多く、子どもたちが発言できない空気感が教室を支配している
◎先生の顔色を見ながら子どもが動いている(考えて動けない)

 
あるいは、このような発言を聞いたこと・言われたことがないでしょうか。

◎「何回言われたら分かるの?」:質問形式での問い詰め
◎「やる気がないんだったら、もうやらなくていいから」(→本当は、やりなさい):本来の意図の裏を読ませる
◎「早くしないと、○○させないから」:脅しで動かす
◎「校長先生に叱ってもらうから」:虎の威を借る
◎「そんなこと1年生でもやりません」:下学年との比較
◎「ダメって言ったよね」:指導者に責任が無いことの強調
◎「じゃあ、もういい」「さよなら」:見捨てる

 
本書では、違法行為の一歩手前のレベルの「行き過ぎた指導」から、これまでは当たり前に行われていた指導だけれども、改めて考えると子どもの心を傷つける要素をもつ指導まで、幅広く「教室マルトリートメント」として整理していくことを試みます。

そして、教室マルトリートメントに陥らないための予防としての子どもたちとの信頼関係づくりの方法や子ども理解のために知っておきたい発達に関する知識を押さえていきます。さらに、自分が「教室マルトリートメントをしてしまっているかもしれない」という場合に、今すぐに実践したい立て直しから、常に行いたい教師としての自己検証のやり方まで、その改善方法を具体的に提案していきます。

 

何が、教師をそこまで追い詰めているのか

一方で、このような子どもの心を傷つける毒語、威圧的・支配的態度などの不適切な指導が発生する「要因」は、どこにあるのでしょうか。

その背景に目を凝らしていくと、職員室での人間関係、教師の労働環境、教育界の抱える構造的な問題が立ち現れてきます。

 
教師という職業に漂う「不安」。
特別支援学校教諭として、長年、障害のある子に対する教育実践を積み、公認心理士・臨床発達心理士でもある著者が、教師の不適切な指導、そしてその発生要因としての現代の教師が置かれている現実というテーマに真正面から向き合った渾身の一冊です。

 

本書の構成

序章 「違法ではないが、適切ではない指導」が学校を支配する

第1章 はりつめる教室
マルトリートメント(maltreatment)とは
「静かでおとなしいクラス」で、何が起きている?
処分の対象となっている「体罰」と「わいせつ行為」
特別支援学校における教室マルトリートメント
パニックやフラッシュバックを誘発する教師の毒語
教室で行われる「ネグレクト」
「社会的参照」と「忖度」の大きな違い
あらためて「教室マルトリートメント」を定義すれば

第2章 教師が子どもを傷つける
トラウマを考える三つのエピソード
罰や脅しはエスカレートする
恐怖、失敗、悲しい出来事は、記憶に残りやすい
罰や脅しによって植え付けられた感情の影響
デリケートな脳、日常的に起こり得るマルトリートメント
「熱心な無理解者」
「教室マルトリートメント」が子どもの育ちに及ぼす影響の仮説
トラウマとフラッシュバック
フラッシュバックに至る「因縁果」の法則
不穏・興奮状態への具体的な対応
成人後も苦しむことに
「逃れられなさ」の構造

第3章 圧は連鎖する
教室に吹かせている教師自身の「風」を感じ取る
「風」が続くと「圧」になる
圧の急激な降下がもたらす「ダブルバインド」と強い圧の連鎖
柔軟さと寛容さをもち合わせた教師でいるために
学校は予定調和の場ではない
教師はこうしてこじらせていく
こじらせ教師が醸し出す、独特の雰囲気
こじらせ教師化を予防する他者の視線
コミュニケーションとマルトリートメントの因果関係――保育現場の事例から
家父長制の雰囲気が強い職員室でのストレス
放課後の職員室のコミュニケーションをどう変えるか
教師間のパワーハラスメント
教師のストレスの源流
学校は「ジェンガ」で「交通整理員」不在の組織
過度な要求×自己裁量の少なさ×教師間のサポートの無さ

第4章教室マルトリートメントを防ぐ
教室マルトリートメントの根源は何か
「成功モデル」の追求を見直す
確実に変えられることから着手する
子どもの育ちは「促成栽培」ではない
プロクルステスのベッド
教師もまた「型に押しはめられている」
「認知バイアス」が能力を超えた過度な期待と要求を課す
そもそも「足並み」はそろわない
子ども理解とは、知識の伝授ではなく「体質改善」
ボディイメージ
「無理解」と「誤解」はマルトリートメントにつながりやすい
学習性無力感
子どもの「安全基地」でいること
ラポール(信頼関係)を築くこと
「子どものもがきの代弁者」になる

第5章 教室マルトリートメントを改善する
もしも「教室マルトリートメント」に陥っているのでは? と感じたら
プラン1 自身の「教師モデル」を振り返る
プラン2 教師としての「成長ステージ」を知る
プラン3 校内にいる「当面の師」と「当面の反面教師」から学ぶ
プラン4 自身の「子ども観」を振り返る・見直す・覆す
プラン5 授業内でのファシリテーション力を高める
プラン6 安心して「分からない」が言える学級・教室をつくる
プラン7 子どもを褒める回数を増やす
プラン8 子どもの心に傷を残す「毒語」を使わない
プラン9 職員室内の良質なコミュニケーションを増やす
プラン10 自ら学ぼうとする「学び手体質」をキープする

第6章 安全基地としての学校
教師が「笑顔」で「常にそこにいてくれる」という安心感
人の意欲の根っこには「愛情」が欠かせない
教師の「安全基地」はどこにある
「やりがい搾取」の原因は、学校に向けられた「欲しがり過ぎ」
そして、「♯バトン」まで渡された
「SOS」が出せない
現状に憤りつつも漂いながら、子どものための「防波堤」たれ
空白に耐える力―ネガティブ・ケイパビリティ

巻末対談 教師の傷を癒やし、教室マルトリートメントを断つ 友田明美×川上康則

終章 教室の空気を換えていきたいあなたへ

引用・参考文献

 

著者プロフィール

著者の川上康則(かわかみ・やすのり)さんは、東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。NHK Eテレ「ストレッチマンV」「ストレッチマン・ゴールド」番組委員。

立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。

著書に、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『子どもの心の受け止め方』(光村図書出版)など。

 

教室マルトリートメント
川上 康則 (著)

 


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