『ポストコロナの生命哲学』パンデミックで大注目の論客、福岡伸一さん・伊藤亜紗さん・藤原辰史さんがこれからを生きる指針を語る!
福岡伸一さん・伊藤亜紗さん・藤原辰史さん著『ポストコロナの生命哲学』(集英社新書)が、集英社より刊行されました。
コロナによる初の非常事態宣言後、新聞紙上などでいち早くウイルスとの共生を訴えた生物学者・福岡伸一さん、コロナ禍で注目された「利他」を学問として研究する美学者・伊藤亜紗さん、「パンデミックを生きる指針」が大反響を呼んだ歴史学者・藤原辰史さん。気鋭の研究者3人が、これからを生きる拠りどころとなる「生命哲学」について徹底討論します。
パンデミックで注目を集めた3人の論者が、これからを生きる拠り所となる哲学を語る!
コロナウイルスによる感染症拡大の中、医療が逼迫し、入院先もままならない事態が進行。命か経済かを問われる局面の中で、私たちの生命、生活が脅かされています。
今の政治、経済、社会、科学には、「いのち」に対する基本的態度――生命哲学の視点が抜け落ちているのではないか。そのような問題意識から、3人の論者がこの難局とどう向き合うのか論じました。
孤独や不安、格差や分断など、コロナ危機で顕在化した種々の問題を解きほぐし、ウイルスと共に生きていくための術を探ります。
<本書の内容より>
―――― 生物学者・福岡伸一さん
ポストコロナの時代の人間のあり方として重要なのは、自由を手放してはいけない、ということです。生物としての人間を人間たらしめている一つの本質は、ロゴス(言葉)の力によって遺伝子の掟から自由になったということです。人間にとって大事なのは、ホモサピエンスという種の存続よりも一つひとつの個体の生命だということであり、そのことが相互に約束されているのです。「産めよ、増やせよ」も大事だけれど、そこに貢献しない自由が認められ、種の保存に関わらない個体も生命として尊重される。人間だけが獲得できたそうした価値観が、基本的人権の基礎となる考え方へとつながっていきます。よく、基本的人権は生まれながらにして人間に備わった権利であると説明されますが、これはロゴスの力によってあえて約束したものなのですから、常に守り抜く努力が必要とされます。コロナの問題は、この基本的人権を揺るがせるピュシス(自然)の力によるものであり、今のようなときこそ心して個々の生命に価値があるということを守っていかないといけないと、私は思います。
―――― 美学者・伊藤亜紗さん
私は、今こそ「道徳」と「倫理」を区別することが重要だと考えています。この二つは似た言葉に思えるかもしれませんが、実はまったく違うベクトルを持った言葉です。まず道徳とは、「人を殺してはいけない」のように、状況によらない、普遍的な命令です。まさに小学校の道徳で習うような内容で、そこには迷いはありません。一方倫理とは、さまざまな制限のある具体的な状況下で、最善の行動を選ぶことです。 絶対的な命令に従うことが必ずしも正解とは思えないときに、何がベストなのか、探し求めることです。そこには「あれでよかったんだろうか」というじりじりした迷いがつきまとうし、その場で解をつくり出すという意味で創造的な行為です。SNSの発達によって、私たちは普通の人の普通の生活の様子を、何となく知ることができる状況に生きています。けれどもSNSに流れてくるのは断片的な情報であり、その人の生きている具体的な現実のすべてではありません。にもかかわらず、なまじ断片が流れてくるので、それが「○○すべきだ」という道徳的態度を誘発しているようにも思います。重要なのは、「○○すべきだ」と一般論を振りかざすことではなく、「この状況で何ができるだろう」「相手はどのような状況にあるのだろう」と探る倫理的な態度です。それには時間がかかります。忙しい日々のくらしの中で、いかにこの時間が確保できるかが重要であるように思います。
―――― 歴史学者・藤原辰史さん
新型コロナウイルスへの恐怖を理由に、テクノロジーで危機を乗り越えていこうという動きが強まっていった結果、監視システムを発展させて一人ひとりの生物学的情報を分析し、つなげていくというジョージ・オーウェル的社会がもたらされる可能性を見過ごしてはいけないと思います。戦時中、「欲しがりません勝つでは」というスローガンがありましたが、コロナ禍においても、人々の生活や感情を事細かに管理していくような権力のあり方が出てきたと思います。そうやって為政者が人々の一挙手一投足を監視していく恐怖に加えて、それにある種便乗する形で、いわゆる自粛警察的に、人々のあいだに監視装置が 充実していくということも危惧しています。
本書の構成
序 自然(ピュシス)の歌を聴け――福岡伸一
はじめに 顕在化した危機の中で――藤原辰史
第1部 論考・コロナが投げかけた問い
第1章 コロナは自然(ピュシス)からのリベンジ――福岡伸一
第2章 思い通りにいかないことに耳を澄ます――伊藤亜紗
第3章 コロナがあぶり出した社会のひずみ――藤原辰史
第2部 鼎談・ポストコロナの生命哲学
第4章 漫画版『ナウシカ』の問いかけ
第5章 共生はいかに可能か
第6章 身体観を捉えなおす
第7章 ポストコロナの生命哲学
おわりに ニューヨーク・京都・東京――伊藤亜紗
著者プロフィール
■福岡伸一(ふくおか・しんいち)さん
生物学者。青山学院大学教授。ロックフェラー大学客員研究者。
主な著書に『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』『生命海流』など。
■伊藤亜紗(いとう・あさ)さん
美学者。東京工業大学教授。
主な著書に『どもる体』、『記憶する体』、『手の倫理』など。
■藤原辰史(ふじはら・たつし)さん
歴史学者。京都大学准教授。
主な著書に『ナチスのキッチン』『分解の哲学』『縁食論』など。
ポストコロナの生命哲学 (集英社新書) 福岡 伸一 (著), 伊藤 亜紗 (著), 藤原 辰史 (著) 感染症拡大で混迷を極める世界を考える上で、示唆に富む視座を提供する3人が、今の政治、経済、社会、科学から抜け落ちている「いのち」に対する基本的態度――「生命哲学」を問う。 今こそ、「個々の生命に価値がある」ということを守らなければ――福岡伸一 耳を傾けることによって、自分の思い込みから自由になれる――伊藤亜紗 負の歴史を直視することで現在を生きる指針に変えられる――藤原辰史 新型コロナウイルスがもたらす危機の多くは、人類史にとって新しい危機ではない。 NHK BS1スペシャルで大反響を呼んだ「コロナ新時代への提言2 福岡伸一×藤原辰史×伊藤亜紗」の番組内容や未放送シーン、さらに新たな鼎談を加えて完全書籍化! |
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