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『ブラック霞が関』朝7時、仕事開始。27時20分、退庁。「このままでは国民のために働けない」――元厚労省キャリア、渾身の書

千正康裕さん著『ブラック霞が関』

千正康裕さん著『ブラック霞が関』

千正康裕さん著『ブラック霞が関』が、新潮社より刊行されました。

 

『ブラック霞が関』が国会質疑で登場! 河野大臣が「公務員の働き方改革」を求められる

11月26日に開催された参議院内閣委員会で質問に立った矢田わか子議員(国民民主党)が、手に取ったのが、前週に発売されたばかりの『ブラック霞が関』(新潮新書)。著者の千正康裕さんは、昨年まで厚労省キャリアだった人物です。

 
タイトルの通り、霞が関官僚たちの過酷な現状を赤裸々に綴った同書は、発売直後から官僚や元官僚、政治家等を中心に反響を呼んでいました。ネット書店のレビューには、官僚や元官僚とおぼしき人から「実態はこの通り」「よく書いてくれた」といった評が並びます。

 
質疑では矢田議員は「公務員の働き方改革」を議論するにあたって、『ブラック霞が関』を手に取り、河野大臣に質問を投げかけるところから始めました。

質問に立った矢田わか子議員(国民民主党)

質問に立った矢田わか子議員(国民民主党)

「大臣、この本、ご存じでしょうか」
矢田議員は、河野大臣にそう問いかけます。

座って頷く河野大臣に矢田議員はこう続けました。
「私も読ませていただいて涙なしには読めない本だと感じました。『石を投げれば長期休職者にあたる』『残業代は最低賃金を下回る』『約4割が過労死ライン』『形ばかりの女性活躍』……。
官僚の皆さんがやりがい、働き甲斐をもってやっていただくための仕組みを河野大臣にはぜひお願いしたい」

 
さらに、そのためには国会及び国会議員自身が変えなければいけない点もある、と矢田議員は指摘。これは長年、官僚に大きな負担となっている、国会議員の質問通告が「前日の17時」でいいのか、ということです。

その時間に「通告」された質問への答弁を官僚は翌日までに準備しなければいけません。しかもこの「17時」すら守られていないのが現実です。

 
『ブラック霞が関』にはこうあります。内閣人事局の調査によれば、質問通告がすべて出そろった時刻の平均は、前日の20時19分。そこから官僚は答弁を用意しなければならないのです。

 
「事前通告が前日の夕方から夜にかけてなされる限り、深夜から明け方までの対応が必要になり、官僚の睡眠時間は削られ続ける。中には、役所が気づいていない鋭い質問によって政策が動くこともあるが、単なる揚げ足取りのような質問もあるし、そもそも『待機児童対策について』とか『新型コロナウイルス感染症について』など、項目しか通告してこない国会議員もいる。

そういう項目だけの通告の場合、あわせて『問い合わせ不可』という指示を役所にしてくることが多い。具体的に何を議論したいのか、質問者の議員に確認することもできない。

そうなると様々な質問を想定して大量の想定問答を徹夜で作成することになる。何が精神的にきついかというと、こういう作業のせいで本来やらなければいけない政策を考える仕事が進まなくなることだ。

夕方から朝まで寝ずに国会答弁を作成した後、日中は本番でどんな質問が出ても対応できるように官僚は国会に同席する。夕方、役所に戻ってくると、フラフラだ。しかし、元々やらなければいけない仕事は何一つ進んでいない。そういう日々を続けると、自分の時間を国民のために使えている実感がなくなり、どんどん疲弊してくる」
(――同書より)。

 
矢田議員の呼びかけに対して、河野大臣も公務員の働き方改革を進めることに前向きな姿勢を示しました。

著書の中で、千正さんは、官僚が本当に国民のための政策の検討や執行に費やせる環境作りをすべきだ、と強く訴えています。決して官僚にラクをさせろということではありません。体や家庭を壊すような環境を放置していては、結局損をするのは国民ではないか、ということです。

「27時20分退庁」が恒常化しているような環境、すなわち「ブラック霞が関」状態を放置して良いはずがないのです。

 

本書の構成

まえがき

第1章 ブラック企業も真っ青な霞が関の実態 ~政策の現場で何が起こっているのか~
20年前の若手官僚の働き方/1年生は「窓口」に/「余裕」が生み出すコミュニケーション/今の若手官僚の働き方/管理職も幹部も異様な忙しさ/残業代は最低賃金を下回る/なくならないパワハラ/誰もが経験するカスハラ/形ばかりの女性活躍/女性のロールモデルがない/組織にも政策にもマイナス/定年延長が霞が関崩壊の引き金を引く/国会質問の意味/前日夜の質問通告が国会待機と深夜残業の元凶/激増する質問主意書/野党合同ヒアリングで答えられない官僚/目玉政策の後に残る作業/大量のコピー作業と配達に追われる若手

第2章 石を投げれば長期休職者に当たる ~壊れていく官僚たちと離職の背景~
誰もが長期休職のリスクを抱える/僕が休職したワケ/「タコ部屋」での生活に突入/ついに限界が来て胃潰瘍に/家族の犠牲と家庭崩壊/切迫早産や流産も/若手が求めているフィードバック/自分の仕事の意味が見えない/世の中は変わっているのに/離職した若手の思い/採用難に直面する霞が関/民間人と自治体職員にもしわ寄せが

第3章 そもそも官僚はなぜ必要なのか ~民間と大きく違う公務の本質~
「政策をつくる」という仕事/複雑な調整過程の意味/よい政策をつくるための3つのプロセス/中間組織の弱体化/官邸主導の内実/「これじゃない」政策ができるワケ/民間と公務の本質的な違い/官僚はいつの時代にも必要/霞が関の働き方改革は国民のためのもの/雇用主としての視点を/今一番力があるのは間違いなく国民

第4章 政策は現場から生まれる ~政策と人の生活の間~
初めての法律改正/年金は一番安心できる制度/「未納三兄弟」と「グリーンピア」/法律の先に何があるのか/霞が関の外で国の未来を考える/法律改正の残念な結末/役所の広報が弱い理由/児童虐待が教えてくれたこと/ベーシック・タイズ/NPOが教えてくれた仕事の意味/現場が官僚を育てる/山中教授のノーベル賞受賞/最後の法律改正に挑む/母親のがん/いい法律を作れば研究が進む/インドに行ってこい/ミッションの見えない仕事/欧米企業との扱いに差/霞が関より自由な空気/現場を歩いて見つけた政策のタネが芽吹く時/若い女性の問題に注目が/現場のニーズを先取りする

第5章 「できる上司」と「偉い人」が悩みのタネ ~霞が関の働き方改革の壁~
スーパーサイヤ人ばかりが引っ張る組織/頻発する不祥事/負のスパイラル/実務を考えない政策決定/やることばかり決定される/事業仕分けのカラクリ/霞が関も年功序列/小泉進次郎議員の評判/国会には逆らえない/重鎮議員の理解がカギ/公務員の美学と沈黙/清潔さを求めすぎると/倒産しないことの難しさ

第6章 本当に官僚を国民のために働かせる方法 ~霞が関への10の提言~
政府の改革/1.ペーパーレス化の推進/2.テレビ会議の活用/3.チャットなどビジネスツールの活用/4.テレワークの推進/5.煩雑な手続の簡素化/6.作業の外注/7.国家公務員の兼業推進/8.民間とのパートナーシップ/9.官僚自身の意識改革/10.霞が関全体の人員配置の適正化と柔軟化

第7章 本当に国会を国民のために動かす方法 ~永田町への10の提言~
国会の改革/1.委員会日程の決定と質問通告時刻の早期化・見える化/2.質問主意書のルール見直し/3.公務と関係ない発注の禁止/4.議員立法は執行体制もセットで/5.議論の場の効率的な設定/6.国会、政党の会議や議員レクの対応者の柔軟な設定/7.コミュニケーションのオンライン化/8.国会の入館証の大幅な増加/9.国会議員の研修/10.国会議員と官僚の交流

あとがき

 

著者プロフィール

(c)新潮社

(c)新潮社

著者の千正康裕(せんしょう・やすひろ)さんは、1975(昭和50)年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。2001年厚生労働省入省。社会保障・労働分野で八本の法律改正に携わり、インド大使館勤務や秘書官も経験。2019年9月退官。

株式会社千正組を設立し、コンサルティングを行うほか、政府会議委員も務める。

 

ブラック霞が関 (新潮新書)
千正 康裕 (著)

ブラック労働は今や霞が関の標準だ。相次ぐ休職や退職、採用難が官僚たちをさらに追いつめる。国会対応のための不毛な残業、乱立する会議、煩雑な手続き、旧態以前の「紙文化」……この負のスパイラルを止めなければ、最終的に被害を受けるのは国家、国民だ。官僚が本当に能力を発揮できるようにするにはどうすればいいのか。元厚生労働省キャリアが具体策を提言する。

 
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矢田わか子(国民民主党 比例区参議院議員)「参院内閣委員で、#国家公務員の働き方改革 について質疑。 | Twitter

 


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