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戦乱から逃れても、困難は待っている――それでも、生きていかなければならない…『おとなになれたら』が刊行

『おとなになれたら』(著:ニキ・コーンウェルさん、イラスト:牧野鈴子さん、訳:渋谷弘子さん)

『おとなになれたら』(著:ニキ・コーンウェルさん、イラスト:牧野鈴子さん、訳:渋谷弘子さん)

文研出版は『おとなになれたら』(著:ニキ・コーンウェルさん、イラスト:牧野鈴子さん、訳:渋谷弘子さん)を「じゅべにーるYA」レーベルより刊行しました。

 

「私たちは地獄から脱出してきたと思った。でも、地獄を道連れにしてきただけのことだった」

 
【あらすじ】

コンゴ民主共和国で、家族7人で平穏に暮らしていたテズの生活は、ある日一変した。隣国ルワンダで起こった大虐殺が、コンゴにも戦乱を及ぼしたのだ。学校が乗っ取られ、教師が殺され、それをかばったテズの父親も殺された。父を失った悲しみを癒す間もなく、一家は着の身着のまま逃げることを余儀なくされる。

着いたのはイギリス・ロンドン。肌の色、文化、何もかもが違う場所で、難民として申請を受け、眠るところすら定まらず暮らす毎日に、家族の心は荒んでいく。特に10歳のテズと、12歳のアディの仲には亀裂が生じた。それでも、住む場所を得るために、そしてまた学ぶことができるように、家族は過酷な日々を過ごしていく。

懸命に生きる一家を支える人たちも現れる。特に母の幼馴染で、同じく戦乱を逃れイギリスに住んでいたカイ一家との再会は、テズたちに希望を与える。しかしカイたちも、大きな傷を背負って難民となっていた。カイはコンゴで凌辱され、夫とは離婚し、戦乱を目の当たりにした息子のエトは精神を病んでいた。その傷はイギリスに来ても癒えることはなく、地域住民の差別の末、エトは命を落としてしまう。

やっとテズたち一家にアパートがあてがわれたが、そのあまりの劣悪さと、もう二度と会えないコンゴの人たちへの思いがごっちゃになって、母は起き上がれない。「私たちは地獄から脱出してきたと思った。でも、地獄を道連れにしてきただけのことだった」とカイは言う。それでも、一生懸命探せば幸せは見つかると信じるカイの言葉に、母はもう一度奮起する。

テズもアディも、イギリスの学校に通えることになった。テズは懸命に勉強して重機の運転士になり、戦乱を逃れた人たちが住める場所を作ろうと心に誓うのだった。

 

編集者より

「わたし、おとなになれたら先生になるの」。作中で12歳のアディはこう言います。
「おとなになれたら」……こんな言葉が、この日本にあるでしょうか。
おとなになることが難しい戦乱のコンゴ民主共和国から、イギリスに逃れたテズたち家族。命が助かって終わりではなく、難民となった人々はそこから更なる苦しみに立ち向かわなければなりません。戦争のニュースが絶えない今、必ず読んでほしい1冊です。

 

著者プロフィール

 
■作家:ニキ・コーンウェルさん

イギリスで書店を営むる両親のもとに生まれ、幼い頃から本に親しむ。児童養護施設で働いたのち、ソーシャルワーカーとなり、異文化・異人種の人たちと交わる。難民施設でボランティアをした経験をもとに物語を執筆する。フランス在住。作家、画家、詩人として創作活動をしている。

邦訳では渋谷弘子さんとのタッグが多く、『お話きかせてクリストフ』(第61回青少年読書感想文全国コンクール課題図書)、『きみの話を聞かせてアーメル』、『ソフィーの秘密』(以上、文研出版)などがある。2022年11月逝去。

 
■画家:牧野鈴子(まきの・すずこ)さん

熊本県出身。熊本短期大学教養科美術コース卒業。デザイン事務所勤務を経て画家となる。1983年、絵本『森のクリスマスツリー』(文研出版)でボローニャ国際児童図書展エルバ賞推奨。

主な作品に、『忘れないよ、リトル・ジョッシュ』(文研出版/第57回青少年読書感想文全国コンクール課題図書)、『少年の恋』(銀の鈴社)など多数ある。

 
■翻訳:渋谷弘子(しぶや・ひろこ)さん

東京教育大学文学部卒業。27年間群馬県の県立高校で英語を教えたのち翻訳の道に進む。群馬県在住。

主な訳書に『忘れないよ、リトル・ジョッシュ』(文研出版/第57回青少年読書感想文全国コンクール課題図書)、『お話きかせてクリストフ』(文研出版/第61回青少年読書感想文全国コンクール課題図書、以降「クリストフの物語」シリーズとして計3冊刊行)、『ここがわたしのおうちです』(さ・え・ら書房/第58回青少年読書感想文全国コンクール課題図書)、『いたずらっ子がやってきた』(さ・え・ら書房/第29回読書感想画中央コンクール指定図書)、『ぼくたちのスープ運動 小さな思いやりが世界を変える!』(評論社/令和4年度緑陰図書選定)などがある。

 

おとなになれたら (文研じゅべにーるYA)
ニキ・コーンウェル (著), 渋谷弘子 (翻訳), 牧野鈴子 (イラスト)

コンゴ民主共和国。家族7人で平穏に暮らしていたテズの生活は、ある日一変した。隣国ルワンダで起こった大虐殺が、コンゴにも戦乱を及ぼしたのだ。テズの父親も殺された。でも、その悲しみを癒す間もなく、一家は着の身着のまま逃げることを余儀なくされる。
着いたのはイギリス・ロンドン。難民認定には時間がかかり、何もかもが違う不慣れな場所で、眠るところすら定まらず暮らす毎日に、テズたちの心は荒んでいく。それでも、家族は過酷な日々を乗り越えていく――。

 


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