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史上初!現役書店員による芥川賞受賞!佐藤厚志さん『荒地の家族』が大増刷

佐藤厚志さん『荒地の家族』が大増刷

佐藤厚志さん『荒地の家族』が大増刷

1月19日に発表された第168回芥川賞を『荒地の家族』で受賞した佐藤厚志さんは、「丸善 仙台アエル店」の現役書店員ということでも話題を呼んでおり、地元仙台を中心に売り切れ店続出、版元の新潮社では注文殺到に対応すべく大増刷を実施しました。

 

「書いて、運んで、サインして」現役書店員が史上初の芥川賞受賞!

 
◆候補作の時点で地元の全テレビ局が取材、勤務書店では予約500冊超え

第168回芥川賞を受賞した佐藤厚志さん(40)は、仙台生まれの仙台育ちで、仙台駅前の「丸善 仙台アエル店」で勤務する現役書店員。市民の多くが立ち寄ったことがある「街いちばんの大型書店」の書店員さんが芥川賞を受賞したとあって、地元仙台はお祝いムード一色となりました。

 
そもそも芥川賞の候補に決まった時点で、地元テレビ各局が佐藤さんの書店員としての仕事ぶりをレポートし、すでに周囲はお祭りムード。あまりの反響の大きさに、選考会当日の1月19日には、丸善の隣にあるスープカレー店を貸切にして「待ち会」が行われ、関係者約30人が待機することとなりました。

 
一方の佐藤さんはというと、東京の丸善丸の内本店にあるラウンジスペース「丸善の三階」で、担当編集者と取材記者、丸善の社員あわせて7名ほどのこぢんまりした集まりで、電話が鳴る瞬間を静かに待っていました。そうする間にも、仙台アエル店での売り上げ状況が刻一刻と入ってきます。「店頭に積んだ200冊、もうすでに100冊売れましたよ」。芥川賞の長い歴史の中でも、自著の売り上げをリアルタイムで聞きながら受賞を待った作家は前代未聞ではないでしょうか。

 
受賞の報が入り、仙台アエル店の在庫はまたたく間に完売。その後も予約の電話が引きも切らず、1月21日には予約が300冊を突破しました。仙台アエル店の売上も普段より10%アップと、「芥川賞効果」がくっきりとあらわれました。1月26日に重版分が納品されて品切れ状態が解消されるまでの間、予約数は最終的に500冊を突破、同店史上最高の冊数を記録しました。

 
◆少しでも早く読者のもとへ「納品」

受賞翌日の1月20日。朝からテレビ局のコメント動画を撮り、昼間は文藝春秋での取材を受け、夕方にはNHKのニュース番組に中継生出演。へとへとのはずなのですが、佐藤さんは書店員としての職務も忘れていません。版元の新潮社内に『荒地の家族』の予備在庫が35冊残っていることを知ると、自ら発注して伝票とともに本を抱えて新幹線に乗り込み、仙台への帰路につきました。

移動の合間にも、すかさず愛用のポメラを取り出して、さっそく依頼された原稿を書きはじめます。書店員として働きながら執筆活動を続ける佐藤さんは、執筆時間がたっぷりあっても逆に集中が続かない性分だそうで、こま切れの短い時間が自分にはちょうど合っていると言います。

 
◆雑誌を並べて売り、サイン本を書く日々

仙台に戻った翌日の1月21日、本来は13時半からの勤務シフトでしたが、土曜日とあって混乱を避けるために、この日の勤務はお休みに。午前中に東北放送の情報番組を収録し、昼からは店長など同僚への挨拶を済ませ、17時半からは待ちわびていた地元メディアの前で「凱旋記者会見」に応じました。

 
翌日の日曜は休養をとって週明けの1月23日、佐藤さんは報道陣からカメラを向けられながら受賞後初出勤。同僚からくす玉を割っての歓迎を受けたあと、その日の新刊雑誌を店頭に並べるいつも通りの作業を淡々とこなしました。その後もおもにバックヤードでの作業を中心に、書店員としての日常生活を取り戻していきます。

そしてついに1月26日、待ちに待った重版1500冊が入荷されました!
刷り上がった本を大切なわが子のように箱から取り出す佐藤さん。この日は勤務の合間をぬってサインをしましたが、120冊が限界だったそうです。

2月からは週休を1日増やして執筆の時間を確保するとのことですが、これからも書店員を続けながら執筆していきたいと佐藤さんは言います。

 
受賞後第一作の「常盤団地第三号棟」は、「河北新報」毎週日曜朝刊で1月22日から連載が始まったばかり。郊外の団地に住む小学校3年生の主人公がさまざまな仲間や大人に出会って成長していく。佐藤さん自身、団地住まいだった時期もあり、自身の体験も交えた地域に密着した物語となりそうです。

 

『荒地の家族』について

◇「紛れもない、傑作である」
震災にここまでまっすぐに向き合い、直球で書き切った小説は今までなかったのではないか。
(芥川賞選考委員 堀江敏幸さんのコメントより)

◇「荒地の家族」には、死にさえ阻むことのできない沈黙が湛えられている。東日本大震災によって言葉をさらわれた人の固くつぐんだ唇に、指でそっと触れるような優しさがある。紛れもない、傑作である。
(芥川賞作家 柳美里さんの話 「河北新報」2023年1月20日朝刊より)

 
<あらすじ>

あの災厄から十年余り、男はその地を彷徨いつづけた。
元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点か――。
40歳の植木職人・坂井祐治は、災厄の二年後に妻を病気で喪い、仕事道具も浚われ苦しい日々を過ごす。地元の友人も、くすぶった境遇には変わりない。誰もが何かを失い、元の生活には決して戻らない。仙台在住の書店員作家が描く、被災地に生きる人々の止むことのない渇きと痛み。第168回芥川賞受賞作。

 

著者プロフィール

(C)新潮社

(C)新潮社

佐藤厚志(さとう・あつし)さんは、1982年生まれ、宮城県仙台市出身。東北学院大学文学部英文学科卒業。仙台市在住、丸善 仙台アエル店勤務。

2017年「蛇沼」で第49回新潮新人賞、2020年「境界の円居(まどい)」で第3回仙台短編文学賞大賞を受賞。2021年「象の皮膚」で第34回三島由紀夫賞候補。2023年「荒地の家族」で第168回芥川龍之介賞を受賞。これまでの著作に『象の皮膚』(新潮社)がある。

 

荒地の家族
佐藤 厚志 (著)

 


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