本のページ

SINCE 1991

ポール・オースターが「ポール・ベンジャミン」名義で発表した幻のデビュー作『スクイズ・プレー』が刊行

ポール・オースターさん

ポール・オースターさん

新潮社は、ポール・ベンジャミンさん著『スクイズ・プレー』(訳:田口俊樹さん)とポール・オースターさん『写字室の旅/闇の中の男』(訳:柴田元幸さん)を刊行しました。

 

ポール・オースターが別名義「ポール・ベンジャミン」で刊行した幻のデビュー作は私立探偵小説! 文庫最新刊『写字室の旅/闇の中の男』も同時刊行

「ポール・ベンジャミン」という聞きなれない名前。これは実はポール・オースターさんがデビュー前に使っていたペンネームのひとつ。

〈ニューヨーク三部作〉で小説家として成功する前のオースターさんが、生活のためにさまざまな別名で雑文や記事を書いていたことはつとに知られていますが、小説を世に出せるということで喜び勇んで引き受けた仕事が、本作『スクイズ・プレー』の執筆でした。アメリカ私立探偵作家クラブの賞であるシェイマス賞の最終候補作に入るほどの、本格的な私立探偵小説となりました。

 
こうして本作『スクイズ・プレー』は、自身のミドルネームを使った名義で発表することになったわけですが、のちに自身が脚本を手掛けた傑作映画『スモーク』(1995年)では、物語の舞台となる煙草店の重要な常連客として、俳優ウィリアム・ハートさん扮するポール・ベンジャミンという作家を登場させています。

 
また、〈ニューヨーク三部作〉の第一作『ガラスの街』(1985年)では、主人公でありウィリアム・ウィルソン名義でミステリーを書いている作家クインのもとに、ポール・オースター探偵事務所ですか? という奇妙な電話がかかってきます。しかも、ウィルソンの書くマックス・ワークを主人公とするミステリー・シリーズの第一作として、『スクイズ・プレー』という小説の題名まで、作中では言及されています。

 
そんな細かな作家の遊び心も含めて、ポール・オースター・ファンにとっても海外ミステリー・ファンにとっても意義深い作品の本邦初紹介ということになるでしょう。

 
また、『スクイズ・プレー』と同時に、オースターさんの中編『写字室の旅』と『闇の中の男』を合本した文庫版も刊行されました。オースター名義の『孤独の発明』で再デビューしてから今年は40年の節目の年ですが、成熟の極みを示す文庫最新刊もあわせてお楽しみください。

 

ポール・ベンジャミン名義『スクイズ・プレー』について

ポール・ベンジャミンさん著『スクイズ・プレー』

ポール・ベンジャミンさん著『スクイズ・プレー』

<『スクイズ・プレー』あらすじ>

私立探偵マックス・クラインが受けた依頼は、元大リーガーの名三塁手ジョージ・チャップマンからのものだった。キャリアの絶頂時に交通事故で片脚を失い、その後はセレブリティとして各界で活躍し、いまや議員候補にまでなった彼に脅迫状が送られてきたのだ。殺意を匂わせる文面から、かつての事故にまで疑いを抱いたマックスは、いつしか底知れぬ人間関係の深淵へ足を踏み入れることになる――。巻末に池上冬樹さんによる解説、ポール・オースター主要著作リストを収録。

 
【『スクイズ・プレー』解説者・池上冬樹さんコメント】

およそ三十年ぶりに読み返して、懐かしさ以上に全編ハードボイルド・スタイルに貫かれていることに、あらためて驚いた。ポール・オースターとしてデビューする前にポール・ベンジャミンの名前で書かれた私立探偵小説だが、おそろしいくらいにレベルが高い。エンターテインメントの作家としても十分に活躍できたのではないかと思えるほど、語りはなめらかだし、キャラクターも秀逸だし、先を読ませないプロットもいい。

 

ポール・ベンジャミンさん『写字室の旅/闇の中の男』について

ポール・ベンジャミンさん著『写字室の旅/闇の中の男』

ポール・ベンジャミンさん著『写字室の旅/闇の中の男』

<『写字室の旅/闇の中の男』あらすじ>

奇妙な老人が奇妙な部屋にいる。彼は何者なのか、何をしているのかーー。オースター作品に登場した人物が次々と現れる「写字室の旅」。ある男が目を覚ますとそこは9・11が起きなかった21世紀のアメリカ。代わりにアメリカ本土では内戦が起きている。闇の中から現れる物語が伝える真実。年間ベスト・ブックと絶賛された「闇の中の男」。傑作中編二作を合本。ここに新たな物語空間が立ち上がる。

 
【『写字室の旅/闇の中の男』訳者・柴田元幸さんコメント】

今回こうして一巻本にまとめたゲラを通読してみて、とにかくこの二作が「合体」して新しい第三の作品が生まれたことで、1+1以上の豊かさが生じている、ということは強く実感した。ぜひこの版で、二〇〇〇年代後半のオースター文学の主たる成果に触れていただければと思う。(訳者あとがきより)

 

スクイズ・プレー (新潮文庫)
ポール・ベンジャミン (著)

米文壇を代表する作家ポール・オースター。
ブレーク以前に別名義で発表していた幻のデビュー長篇は、レイモンド・チャンドラーの衣鉢を継ぐ、私立探偵小説の傑作だった!

ポール・オースター幻のデビュー作にして、〝卑しき街を行く騎士〟を描いた正統派私立探偵小説の傑作、ついに解禁。

写字室の旅/闇の中の男 (新潮文庫)
ポール・オースター (著)

闇の中から現れる物語が伝える真実
デビューから40年。円熟の極みを示す傑作中編を合本し、新しい物語が起動する。

「写字室の旅」
奇妙な老人「ミスター・ブランク」が、奇妙な部屋にいる。その部屋にあるものには、表面に白いテープが貼ってあり、ひとつだけ単語が書かれている。テーブルには「テーブル」という言葉。ランプには「ランプ」。老人は何者なのか、何をしているのか……。かつてオースター作品に登場した人物が次々に現れる、不思議な自伝的作品。

「闇の中の男」
ある男が目を覚ますと、そこは9・11が起きなかった21世紀のアメリカ。代わりにアメリカ本土では内戦が起きている。闇の中に現れる物語が伝える真実。祖父と孫娘の間で語られる家族の秘密。9・11を思いがけない角度から照らし出し、全米各紙でオースターのベスト・ブック、年間のベスト・ブックと絶賛された感動的長編。

訳者あとがきより
どちらも、「物語」ということが核になっていて、『写字室の旅』では、部屋に入れ替わり入ってくる人間たちはかつてその老人が物語の登場人物として世界に送り出した人物である(要するに、老人が作者で、入ってくる人たちは老人が創造した人物)らしいのに対して、『闇の中の男』において不眠に苛まれる老人が夜ごと考える物語は、どこか別の世界で現実に起きている出来事にほかならない。そのあたりも対照的であるような、しかし内的世界と外的世界の関係が錯綜しているという意味では共通しているような、単純には決めがたいつながりがある。が、今回こうして一巻本にまとめたゲラを通読してみて、とにかくこの二作が「合体」して新しい第三の作品が生まれたことで、1+1以上の豊かさが生じている、ということは強く実感した。ぜひこの版で、二〇〇〇年代後半のオースター文学の主たる成果に触れていただければと思う。

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です