本のページ

SINCE 1991

【第52回講談社絵本賞】富安陽子さん・松成真理子さん『さくらの谷』が受賞

第52回講談社絵本賞の受賞作が決定!

第52回講談社絵本賞の受賞作が決定!

講談社は4月19日、第52回講談社絵本賞の受賞作を発表しました。

 

第52回講談社絵本賞の受賞作が決定!

第52回講談社絵本賞の受賞作品は次の通りです。

 
<第52回講談社絵本賞 受賞作品>

文:/絵:松成真理子(まつなり・まりこ)さん
『さくらの谷』(偕成社)

 
受賞作の『さくらの谷』は、2019年の春に実父を亡くされた作者の富安陽子さんが、お父さまを葬送した夜に見た「幸せな夢」が基になっています。それは、毎年父親と見た山の桜の夢でした。目が覚めたとき、目から涙がこぼれていたけれど、とてもとても幸せな気持ちだったのだそうです。この絵本は、その夢語りから生まれました。

 
受賞者の富安陽子さんと松成真理子さんには、賞状と記念品および副賞として100万円が贈られます。

選考委員は、きたやまようこさん、高畠純さん、武田美穂さん、長谷川義史さん、もとしたいづみさん。

 

受賞者プロフィール

 
■文:富安陽子(とみやす・ようこ)さん

1959年生まれ。東京都出身。和光大学人文学部卒業。日本の風土にねざした神話や伝承をいかした和製のファンタジー作品を数多く発表している。

『クヌギ林のザワザワ荘』で日本児童文学者協会新人賞、小学館文学賞、「小さなスズナ姫」シリーズで新美南吉児童文学賞、『空へつづく神話』で産経児童出版文化賞、『盆まねき』で野間児童文芸賞を受賞。

ほかに「シノダ!」シリーズ、『やまんば山のモッコたち』『キツネ山の夏休み』『レンゲ畑のまんなかで』『ぼっこ』などの作品がある。

 
■絵:松成真理子(まつなり・まりこ)さん

1959年生まれ。大分県出身。京都芸術短期大学(現、京都造形芸術大学)卒業。イラストレーター、絵本作家。

『まいごのどんぐり』で児童文芸新人賞を受賞。自作の絵本に『じいじのさくら山』『せいちゃん』『ころんちゃん』『たなばたまつり』『きんぎょすくいめいじん』、絵を担当した作品に『雨ニモマケズ』『蛙のゴム靴』『手ぶくろを買いに』『ひまわりのおか』『ヒョウのハチ』などがある。

 

講談社絵本賞について

「講談社絵本賞」は、2018年まで開催されていた講談社出版文化賞の一部門「絵本賞」を引き継ぎ、絵本において新分野を開拓し、質的向上に寄与した優秀な作品に対して贈呈される絵本賞です。

 
なお、講談社出版文化賞は、1970年(昭和45年)に講談社が創業60周年記念事業の一環として創設。さしえ賞(挿絵)、写真賞(写真)、ブックデザイン賞(装幀)、絵本賞(絵本)の4部門で構成されていました。
4部門のうち、写真賞・さしえ賞・ブックデザイン賞については、2018年度で終了となり、絵本賞は「講談社絵本賞」と改称し、引き続き単独で運営されることとなりました。

 

さくらの谷
松成 真理子 (イラスト), 富安 陽子 (著)

かつて、わたしが一度だけ行ったことのあるふしぎな谷のお話です。
まだ山が枯れ木におおわれる春の手前、林の中の尾根道を歩いていたわたしは、のぞきこんだ谷を見ておどろきました。そこだけが満開の桜にうめつくされていたのです。
聞こえてくる歌声にさそわれてくだっていくと、谷底で花見をしていたのは、色とりどりの鬼たちでした。鬼なのに、ちっともおそろしいという気がしません。まねかれるまま、わたしは花見にくわわります。目の前のごちそうは、子どもだったころ、運動会の日のお重箱に母がつめてくれたのとそっくりです。
「かくれんぼするもの、このツノとまれ」
ふいに、一ぴきの鬼がとなえると、鬼たちはたがいのツノにつかまって長い行列になりました。列の最後の鬼のツノにつかまったわたしは、かくれんぼの鬼をすることになります。わたしは、林の中をかけまわってさがすのですが、なかなか鬼たちをみつけることができません。
そのうちに、だんだんふしぎな気持ちになってきました。わたしがおいかけているのは、ほんとうに鬼なのでしょうか。だって、いま、あの木のうしろにかくれたのは、わたしのおばあちゃんのようでした。こっちの木のかげには、おかあさんが。そこの木のうらには、おとうさんがかくれました。それは、みんな、みんな、もうこの世をさってしまった人たちなのでした。
でも、そうか。みんな、ここにいたのか。桜の谷であそんでいたのか──。
そうわたしが思ったとき、風がふきわたり、谷じゅうの桜がいっせいに花びらをちらします。
気がつくと、わたしはひとりぽつんと雑木林の中に立っていました。満開の桜はきえていましたが、ヤマザクラの枝さきに、大きくふくらんだ花のつぼみが見えました。どこかで、あの鬼たちの歌声が聞こえるようでした。

<参考>
富安陽子さんのエッセイ『童話作家のおかしな毎日』(偕成社)に収録されている一編「運動会」には『さくらの谷』につながる、お弁当のエピソードが掲載されています。

童話作家のおかしな毎日
富安 陽子 (著)

現実は小説より奇なり!
偕成社のホームページに連載された「日々彩々」と「ききみみずかん」を中心にまとめたエッセイ集。愛してやまない家族のこと、不思議な縁で結ばれたお父さんとお母さんのこと、戦争を乗り越えた富安家の人々のこと、そして童話作家になったきっかけなど、童話作家富安陽子のルーツのすべてがわかるエッセイ集です。 『さいでっか見聞録』と合わせてお読みください。作家・富安陽子の原点がわかります。カットは富安陽子さんご本人によるものです。カラー口絵付き。「あとがきにかえて」も必見です。

 
【関連】
2021年度 第52回「講談社絵本賞」決定のお知らせ〔PDF〕

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です