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『大久保利通 「知」を結ぶ指導者』「独裁者」という定説を覆す決定的評伝!

瀧井一博さん著『大久保利通――「知」を結ぶ指導者』

瀧井一博さん著『大久保利通――「知」を結ぶ指導者』

近代史研究のフロントランナーとして、角川財団学芸賞、大佛次郎論壇賞、サントリー学芸賞など数々の賞を受けてきた瀧井一博さんによる大作『大久保利通――「知」を結ぶ指導者』が新潮社より刊行されました。

志半ば、凶刃に斃れた悲劇の政治家が描き続けた日本の国づくりとは何だったのか――。人の才知を見抜き繋いだオーガナイザー、地方からの国づくりを図った地方創生論者、日本に埋もれた知を掘り起こして博覧会を開いたプロデューサー……。そして、これらを貫く確固たる理念。
ーー本書で描き直される新たな大久保像は現代の政治家、指導者にも通じる、重厚なリーダー論として読み説くことができます。

 

圧巻の528頁!「盟友・西郷隆盛を見捨てた男」として嫌われ続けた政治家の真の業績を掘り起こし、新たな光を当てる画期的考察

大久保利通といえば、マッチョな男性主義の権化のように思われてきました。彼は倒幕運動に強引な手腕を発揮し、策謀を施して王政復古のクーデタを牽引しました。明治維新後も廃藩置県を断行し、征韓論政変で政敵を追い落とし、西南戦争では盟友西郷隆盛を非情にも死に追いやりました。彼にまとわりつくのは、確固とした意志で自らの政治信念を貫徹する独裁的指導者のイメージです。

 
しかし、膨大に残された大久保の記録を深く読み解くと浮かび上がってくるのは、それとは別の、もう一つの大久保の姿でした。本当に彼は独裁者だったのか――。

 
例えば、大久保の肝煎りで創設され、その権力の根源とされた内務省ですが、そこでの政策立案の実態を綿密に考察すると、多くはそこに集った能吏たちが自由かつ自発的に策を練った結果であり、大久保が強靭な指導力を発揮したということは認められません。

 
しかし、だからといって、大久保は政治指導者として張子の虎だったというわけではありません。集った能吏の多くは大久保によってその才を見出された者たちで、大久保はひたすらに彼らの後景にまわり、その動きを見守っていたのです。この様を筆者瀧井一博さんは、かつての南アフリカ大統領、ネルソン・マンデラの言を引いて、次のように評します。

 
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「羊飼いは群れの後ろにいて、賢い羊を先頭に行かせる。あとの羊たちはそれについていくが、全体の動きに目を配っているのは、後ろにいる羊飼いなのだ」(ネルソン・マンデラ『自由への長い道』)
 つまり、マンデラによれば、指導者とは前衛に立って人々を引っ張っていく存在というよりも、むしろ群れの後ろに付き従って、群れの行き先を見通しながら、彼らを束ねていくものなのである。大久保の指導力というのも、羊飼いとしてのそれだったとはいえないか。
 (『大久保利通 「知」を結ぶ指導者』「まえがき」より)
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こうして新たに見出された「大久保利通像」を、本書は「理の人」「建てる人」「断つ人」「結ぶ人」の4つの視点で、詳細に考察します。

 

本書の構成

はじめに 「知の政治家」として

第一章 理の人

I 志士への道
バンカラ気風と読書会/騒乱の時代へ/久光が蒔いた「理の種」/藩の密命を帯びて

II 弛緩する朝幕体制
寺田屋事件/公武合体論、尊王攘夷論、開国論/確執の火種/過熱する京都の尊攘派/朝幕逆転/攘夷の綻び/八月一八日の政変

III 好敵手・慶喜
天下之公議/慶喜という「主役」/開成所と議政所/松平春嶽のラジカル「二院制」/西郷が見た長州征討/勝海舟の「共和政治」/幕滅亡之表

IV 連携する薩長――「共和」の国へ
面白キ芝居/慶応元年の「赤い糸」/条約勅許/衆議と公議/薩長同盟(密約)の成立/長州再征の阻止/「共和」政体へ/四侯会議

V 倒幕、そして王政復古
薩土盟約/玉を奪われては致し方無し/秘中之御話/奉還か、倒幕か/討幕の見合わせ沙汰書/王政復古というクーデタ/二段階のシナリオ構想/維新の一週間/破壊と創造/武力倒幕の覚悟

第二章 建てる人

I 東京遷都――一君万民の国造りへ
共和革命としての維新/王政復古の対外宣言/遷都論に込めた天皇観/かの地をもって「東京」と定める/東京城入城のメッセージ/日本国民を創り出す企て

II 廃藩置県
「大体」と「大権」/新政府内部の刷新/理ある公論の体現者であるために/政治指導体制の合理化と強化/西郷と木戸のツートップ制

III 政体調査としての欧米回覧の旅
木戸の勢い/雨降って地固まる/岩倉使節団/井上馨の懸念/西洋文明の衝撃/ビスマルクとの邂逅

第三章 断つ人

I 征韓論政変
外遊で見出した日本の課題/留守政府異変/太政官制潤飾の真意/緊縮財政の理/征韓論の消せない火種/内閣という闘技場へ/岩倉、大久保の「一ノ秘策」

II 立憲政体の構想と内務省の設立
西郷との別れ/立憲政体に関する意見書/君民共治の思想/内務省の目的/オール・ジャパンの布陣/民力活性化のために/衆善と衆智の国家構想

III 佐賀の乱
不平士族の蠢動/実ニ一箇之男子たる者なし

IV 台湾出兵と北京談判
一大事の困難/北京へ発った大久保/西郷からのエール/戦争回避の戦い/我が使命の本分/大久保の外交理念

第四章 結ぶ人

I 立憲政体の漸次樹立
凱旋で見た国民の姿/琉球処分/立憲政体への第一歩/板垣退助の暴走

II 衆智としての殖産興業――東北への勧業の旅
自立国家プロジェクト/プロデューサー大久保/牧羊と養蚕/明治九年の慶事と大事/富強の礎は東北にあり/衆智に突き動かされて

III 西南戦争
断たれた人/生きるための政策/大久保とリンカンの「国民/国家」

IV 勧業の夢――第一回内国勧業博覧会
夢の現場/博物館ノ議/学び合うための博覧会/知のリフレイン/扇形の聖地

終 章
大久保の思想/大久保が蒔いた種/二つの政治指導/見果てぬ夢

あとがき
大久保利通 関連略年
出典・注釈
人物索引

 

著者プロフィール

著者の瀧井一博(たきい・かずひろ)さんは、1967年生まれ、福岡県出身。京都大学大学院法学研究科博士後期課程を単位取得のうえ退学。博士(法学)。神戸商科大学商経学部助教授、兵庫県立大学経営学部教授などを経て、現在、国際日本文化研究センター教授。専門は国制史、比較法史。

角川財団学芸賞、大佛次郎論壇賞(ともに2004)、サントリー学芸賞(2010)、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト賞(2015)を受賞。主な著書に『伊藤博文』(中公新書)、『明治国家をつくった人びと』(講談社現代新書)、『渡邉洪基』(ミネルヴァ書房)他多数。

 

大久保利通: 「知」を結ぶ指導者 (新潮選書)
瀧井 一博 (著)

独裁と排除の仮面を剝ぎ取り、その指導力の源を明らかにする! 旧君を裏切り、親友を見捨てた「冷酷なリアリスト」という評価は正当なのか? 富国強兵と殖産興業に突き進んだ強権的指導者像の裏には、人の才を見出して繫ぎ、地方からの国づくりを目指した、もう一つの素顔が隠されていた。膨大な史料を読み解き、「知の政治家」としての新たなイメージを浮かび上がらせる、大久保論の決定版。

 


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