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『なぜ科学者は平気でウソをつくのか』コロナ捏造事件ほか、世間が騙された大事件を扱った捏造の科学史

小谷太郎さん著『なぜ科学者は平気でウソをつくのか』

小谷太郎さん著『なぜ科学者は平気でウソをつくのか』

小谷太郎さん著『なぜ科学者は平気でウソをつくのか』が、フォレスト出版より刊行されました。

 

フェイクニュースがはびこるなか、人は真実を判断できるのか?

本書は、科学者たちの発見を通してウソ(捏造)が暴かれるさまを描いています。それはまさに、人間がウソをつきバレるのと一緒です。

ただし、こと世間を騒がせたセンセーショナルな捏造は、その代償も大きなものになります。

 
たとえば、卑近な例で言えば、「新型コロナの治験データ改ざん」という事件が起こっています。

本書の第1章では、この「サージスフィア事件」という治験データ改ざん事件を取り上げています。「ヒドロキシクロロキン」という薬が効くとして、有名な医学誌に数名の博士・医師の論文が発表されたのです。

そこには10万人の治験データが採用されましたが、パンデミック発生から数カ月で10万人のデータを集められるでしょうか。

明らかな捏造です。この捏造はすぐにも見破られましたが、なぜ科学者たちはこうも大胆なウソをつくのでしょうか。

 
それには著者はこう綴ります。

「登場するのは誘惑に弱い人間で、あつかわれるのは過ちの瞬間です。彼ら彼女らの叶わなかった夢と野望が社会に波乱を及ぼすさまを、歴史上の事件として記述するのが目的です。」

 
著者は大学で教鞭をとるかたわら、科学の面白さを一般に広く伝える著作活動を展開しています。そして本書は、撤回された科学論文をできる限り入手し、一文一文読み込んでいます。

 
科学の発明・発見の裏には、ウソをついた科学者たちが数多く存在するのです。そんなウソ=捏造の科学者たちの巧みな企みと、やがてウソが暴かれてしまう過程、最後に発明・発見を撤回するにいたるまでを、面白おかしく描いています。

さらに、本書に登場する9人の科学者たちの事件を、社会を騒がせた影響度も含め、☆で評価していきます。

 

科学から捏造が消えない事実が、今を生きる私たちへの教訓となる

捏造する科学者はわずかです。しかし、わずかな人たちのウソは消えることはありません。大胆なウソもレベルもさまざま。そのウソが暴かれる瞬間もさまざまです。

 
試験管で核融合を起こしたとぶち上げたポンズ教授とユタ大は、アメリカ下院に2500万ドルの研究予算を要求しました。しかし常温核融合は研究者から囂々たる批判を浴び、ポンズ教授は失踪します。

史上最高の捏造研究者シェーン博士は、魔法のような性能を持つナノテク素子を次から次へと作製し、大量の論文を生産しました。しかし調査委員会がその試料を確認しようとしたところ、シェーン博士は1個も提示できませんでした。

まだ記憶に新しいSTAP細胞と、その先輩にあたる韓国の事件、ヒトES細胞は、もし本当ならば、難病を治し、医療を革新するはずでした。

マウスの皮膚移植に成功したといい張るサマーリン医師は、思い余ってマウスにペンでぶちを描き入れてしまいました。

 
日本勢も負けてはいません。石器掘りの神様こと藤村新一さんが地面を掘じくり返すと、数十万年前の旧石器が転がり出ます。世界最古の原人文化に考古学研究者は感激して議論しました(知的なはずの研究者や権威ある大学教授が幼稚な手口に騙されて狼狽するのも、捏造事件の「面白さ」です)。

 
なぜ科学者は、こうも大胆なウソを平気でつくのでしょうか。

著者はこうしたウソを糾弾するのではなく、むしろ人間ゆえの過ちとして温かい目線で彼らを追っていきます。

 
「人間は様々な動機から嘘をつきます。コミュニティの中で成功したい、承認されたい、利益が欲しいといった、利己的な理由からつく嘘があります。他人を操作したい、傷つけたいといった悪意のある嘘もあるでしょう。また、いくら考えても合理的に説明できない、不可解な嘘をつく人もいます。

嘘の中でも科学の捏造には際立つ特徴があります。捏造研究者は大発見を報告します。常識を覆し、人々の認識を変え、社会を変革する成果が得られたと主張します。そういう科学の新たな勝利に、私たちは感嘆し、胸躍らせます。

いい換えると、科学の捏造には『夢』があるのです。」

 

本書の構成

第1章 10万人のCOVID-19治験データ-サージスフィア事件

第2章 常温核融合-大学間の対抗意識から始まった誤りの連鎖

第3章 ナノテク・トランジスタ-史上最大の捏造・ベル研事件

第4章 ヒトES細胞-スター科学者の栄光と転落

第5章 STAP細胞-捏造を異物として排斥する「科学の免疫機能」

第6章 118番元素-新元素発見競争でトップを狙ったバークレー研事件

第7章 農業生物学-スターリンが認めたルィセンコ学説

第8章 皮膚移植-サマーリンのぶちネズミ

第9章 旧石器遺跡-暴かれた「神の手」の正体

 

著者プロフィール

著者の小谷太郎(こたに・たろう)さんは、1967年生まれ。東京都出身。東京大学理学部物理学科卒業。博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。

理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。

『見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』(三笠書房)、『宇宙はどこまでわかっているのか』(幻冬舎)、『宇宙の謎を探れ! 探査機・観測機器61』(ベレ出版)など著書多数。

 

なぜ科学者は平気でウソをつくのか (フォレスト2545新書)
小谷 太郎 (著)

◆科学者の大発見による光と影。人は大胆なウソほどだまされる!?
この本は、科学者たちの発見を通してウソ(捏造)が暴かれるさまを描いています。それはまさに、人間がウソをつきバレるのと一緒です。
ただし、こと世間を騒がせたセンセーショナルな発見(ウソ)は、その代償も大きなものになります。
昨今、ネットではフェイクニュースや誹謗中傷がはびこり、その匿名性から真実が見えなくなっています。
いっぽう、科学の世界では論文の精査によって、間違った論拠や改ざんされた画像が見破られてしまいます。それでも科学の世界に捏造が消えないと著者は主張します。

「捏造を根絶することはできません。しかしだからといって捏造はやり放題というわけでもありません。捏造は必ず発覚します。捏造された研究成果は自然科学の法則に反するため、追試は失敗し、他の研究結果と矛盾し、遅かれ早かれ否定されます。
つまり、科学は異物を排除する免疫機構を備えているのです。」

科学史というテーマでありながら、この科学が担う免疫機構は社会のウソに一石を投じるはずです。

「登場するのは誘惑に弱い人間で、あつかわれるのは過ちの瞬間です。彼ら彼女らの叶わなかった夢と野望が社会に波乱を及ぼすさまを、歴史上の事件として記述するのが目的です。」

著者は大学で教鞭をとるかたわら、科学の面白さを一般に広く伝える著作活動を展開しています。そして本書は、撤回された科学論文をできる限り入手し、一文一文読み込んでいます。
さらに、本書に登場する9人の科学者たちの事件を、社会を騒がせた影響度も含め、☆で評価しています。

この不可思議な科学の世界の光と影は、現代社会の見えない真実への教訓となるのではないでしょうか。

 


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