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『事件現場清掃人 死と生を看取る者』殺人事件、自殺、孤独死、ゴミ屋敷…誰かがやらなければならない”後始末”を請け負う事件現場清掃人の姿を描くノンフィクション!

高江洲敦さん著『事件現場清掃人 死と生を看取る者』

高江洲敦さん著『事件現場清掃人 死と生を看取る者』

高江洲敦さん著『事件現場清掃人 死と生を看取る者』が、飛鳥新社より発売中です。

 

人生の道半ばで倒れた部屋の”主”たちの死に様から見えてくる、日本の現在と未来の姿とは?

殺人事件、自殺、孤独死などのあった”事故物件”を回復させる特殊清掃を請け負う事件現場清掃人。SNSの発達による社会の無縁化、人々の孤立が進み、そこへ追い打ちをかけるように新型コロナ禍が襲った日本では、先の見えない不安で自殺者が増加しています。

 
本書は、3000件以上に及ぶ事故物件の「後始末」を請け負ってきた事件現場清掃人・高江洲敦さんが「死の現場」から見続けた、壮絶な死と生、そして愛の物語です。

 
なお、装画を担当した花沢健吾さんは、自著『アイアムアヒーロー』の取材で高江洲さんに同行し、実際に事件現場の清掃を体験しています。

知られざる事件現場の間取り図を多数掲載。現場写真も多数掲載されていますが、こちらは閲覧注意!

 

本書「はじめに」より

「特殊清掃」という仕事をご存じでしょうか。

 
孤独死などの変死体があった部屋の原状回復を行う清掃業のことです。

 
私が特殊清掃を生業とするまでの経緯を描いた著書『事件現場清掃人が行く』が飛鳥新社から出版されたのは2010年4月のことです。その後、同書は幻冬舎アウトロー文庫として文庫化され、いくつかのメディアで注目されたことから、この仕事が世間に知られることとなりました。

 
前著から10年が経ち、この間、日本の社会は大きく変わりました。2008年のリーマン・ショックを端緒とした経済の混乱が続く中、2011年には東日本大震災が起こり、その後も各地で地震や豪雨が頻発。社会不安が高まる中で、2020年には新型コロナウイルスによるパンデミックという厄災に世界が襲われました。

 
その一方、テクノロジーの発達によって、人々の暮らしも様変わりしました。スマートフォンが爆発的に普及したことでSNSを介したコミュニケーションが一般化し、AIやロボットは今では至るところで活用されています。
その結果、人と社会、人と人との関係が根本から変わりつつあるように感じるのです。
この10年の変化がもたらしたもの、それは人々の「孤立」だと私は思います。
経済不安の中、社会に居場所を見出せない人が増えています。SNS上の表面的で脆弱な関係で人々はつながるようになり、直接的なコミュニケーションは希薄になりました。少子高齢化には歯止めがかかりません。
特殊清掃の現場には、そういった世相が色濃く反映されています。

 
本書には、さまざまな特殊清掃の現場の様子が記されています。描かれているのは、ひっそりとこの世を去った人々の記録であり、その意味で本書の真の主人公は、特殊清掃の現場に住んでいた故人なのです。
そして何より、この10年で私自身が大きく変わりました。さまざまな特殊清掃の現場を体験する中で芽生えてきた、故人の声なき声を伝えるという使命感。それが本書を執筆する大きな動機となりました。
ページをめくればきっと、あなたにも故人たちの声が聞こえてくるはずです。

――事件現場清掃人 高江洲 敦

 

【本文より抜粋】紐で囲われた遺体跡のある家

◆誰かが遺体跡の周りに……

ある日、私の元に一本の電話が入りました。依頼内容は、「嫁の実家で父が亡くなったので清掃してほしい」というものでした。さっそくうかがってみると、立派な一軒家で、ふたりの遺族が私を迎えてくれました。ひとりは亡くなった父親の娘。もうひとりはその義理の兄で、この男性が私に電話をかけてきた依頼主でした。
しかし、どうも妙です。状況としては、母親はすでに他界しており、父と娘で二人暮らしをしていたところ、父親が自宅で病死したということなので、いわゆる孤独死ではありません。そのとき、残された娘はどうしていたのでしょうか。彼女は30代で、誰もが知る大企業に勤めていましたが、話を聞いてみてもどうにも受け答えが食い違うのです。
たとえば「お父様はどこで亡くなられたのですか?」と聞くと、案内した場所に人の形にして置かれた紐を指差して、自慢気にこう言うのです。

 
「ドラマだと、死体の周りにチョークで線を描くでしょう? なのに警察が手を抜いてやらなかったから、私が紐を買ってきて、お父さんの周りを囲んだんです」

 
遺体があったのは1階の居間で、紐で囲われたところには人型の黒い染みが残されていました。おそらく死後数週間は経っていたのでしょう、腐敗臭が家中に広がっていて、たくさんのハエの死骸も床に転がっているのです。
こんな状況で一体何を言っているのか、私にはとても理解できませんでした。

 
依頼してきた義兄に詳しく話を聞いてみると、こんな事情がわかりました。父親と連絡が取れず心配して様子を見に行ったところ、居間で倒れるように亡くなっていました。ところが娘は「しばらく前からお父さんが動かなくなった。お風呂も入っていないから臭いんだよ」と言ったのだそうです。要するに、この娘は精神疾患を患っているのでした。
大企業の社員として働いていたので、発症したのはおそらく入社後、もしかすると仕事の重圧が原因だったのかもしれません。2階にあった彼女の部屋は几帳面に整理整頓されていて、本棚に並ぶ参考書からは、学生時代には成績優秀であったことが見て取れました。
しかし、精神疾患を患ってからは、親のサポートなしでは生活するのが難しかったのでしょう。父親がなんらかの原因で突然死してしまい、そのことを認識できないまま、娘はしばらくの間、朽ちていく遺体とともに暮らしていたのです。
義兄がいて気にかけていたから、この状況が周囲の知ることとなりましたが、もしも誰も気づかないままだったとしたら、さらなる悲劇が起きていたかもしれません。

 

本書の構成

プロローグ 事件現場清掃人の仕事

第1章 誰ひとり偲ぶ人がいない孤独な死― 関りを拒絶した無縁社会の姿

第2章 自ら命を絶つ人々― からだの寿命とこころの寿命

第3章 生きづらさの果てに― 繊細すぎる魂と不安が命を奪う

第4章 遺族たちの愛― 与え続けた者が死後与えられるもの

第5章 死後の世界― 相続、供養、お墓… 遺族の現実

第6章 生まれくる命― 故人から子どもたちへの恩送り

エピローグ 日本から孤独死がなくなるとき

 

著者プロフィール

著者の高江洲敦(たかえす・あつし)さんは、1971年沖縄生まれ。料理人、内装業者、リフォーム会社等を経て自殺・孤独死・殺人現場などを扱う「事件現場清掃会社」を設立。

2010年に『事件現場清掃人が行く』(飛鳥新社)を発刊。2016年フジテレビ『ザ・ノンフィクション』で放送された「特殊清掃人の結婚~“孤独死”が教えてくれたこと」がNYフェスティバルで金賞を受賞。誰からも偲ばれずに逝く孤独な死をなくすこと――を自らの使命に課し、今日も精力的に活動を続けている。

 

事件現場清掃人 死と生を看取る者
高江洲 敦 (著)

職業: 事件現場清掃人
仕事: 誰にも看取られずひとり亡くなった者たちの、この世に生きた痕跡を完全に消し去ること。

「事件現場清掃とは、その人の死に至るまでの人生を追体験するような仕事です。
そういう意味では、どの現場も決して生やさしいものではありません。
そんな中でも、私自身がもっとも苦しい思いをした現場のお話をしましょう…」

東日本大震災、度重なる災害、そして新型コロナ禍…
不安と孤独に蝕まれる現代の日本で、心ならずも倒れた部屋の主たち。
その”痕跡”から見えてくる、壮絶な生と死と、愛の物語。

閲覧注意!
本物の“事故物件”の間取り図・写真を多数掲載!

表紙イラスト: 花沢健吾

 


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