ドイツで110万部超!近未来サイエンス・ディストピア小説『メトーデ 健康監視国家』が刊行
ユーリ・ツェーさんによる近未来サイエンス・ディストピア小説にしてサスペンス小説『メトーデ 健康監視国家』(訳:浅井晶子さん)が河出書房新社より刊行されました。
極端な健康志向のその先にあるものは? 国家が個人の身体にまつわる全てを管理する究極の健康監視システム〈メトーデ〉は、はたして人々を幸福に導くことはできるのか?
不朽の名作、ジョージ・オーウェル『1984』の再来と呼ばれ、コロナ禍の管理社会を予言したとも言われる『メトーデ 健康監視国家』(原題:CORPUS DELICTI. Ein Prozess)は、2009年にドイツの作家ユーリ・ツェーさんが発表したディストピア小説です。
『1984』における体制を象徴する存在〈ビッグ・ブラザー〉は、本書『メトーデ 健康監視国家』では健康監視システムである〈メトーデ〉(Methode=手段)。健康が人間の究極の幸福として絶対視され、そのために科学は無謬の正義であるという価値観のもと、個人は積極的に自己の身体情報という究極の個人情報を差し出し、国家に監視、管理をゆだねる社会に人々は生きています。まるで「健康」が宗教の対象となったかのような世界です。
新型コロナウイルス対策の一環で、市民の管理、監視を強めた現実社会を批判する小説のように感じられますが、著者ユーリ・ツェーさんが本書を書いたのは2009年。マスクの着用、建物や身体の消毒などの具体的な描写からは、私たちが体験したコロナ禍社会の記憶を呼び起こし、現実の世界と見まごうほどです。私たちが生きる現実の社会と本書で描かれるディストピア世界が紙一重の違いでしかないという衝撃を体感しつつ、サスペンスフルな展開にどんどん引き込まれていきます。
執筆の動機を、国家による個人の管理、監視の強化とそれを自ら求める社会の風潮に対する危機感だとする著者、ユーリ・ツェーさん。
個人の身体に対する責任と権利は個人にあるのか、
それとも身体は国家が社会という全体のために管理すべきものなのか。
病を得ることは、社会に負担をかける「罪」なのか。
社会から病と死を徹底的に排除した後、個人の生にはどんな意味が残るのか。
本書は、コロナ社会を経験した後の世界に切実な問いを投げかる近未来サイエンス・ディストピア小説であり、最後の場面まで驚きが連続するサスペンス・エンターテインメント小説です。
【あらすじ】
「個人の幸せは健康であること。それは義務である。」
21世紀半ばのドイツ。この国では、身体の健康維持・強化を基盤とする〈メトーデ〉という体制が敷かれている。政治システムの変遷の最終地点に位置する究極のシステムであるとされており、科学に基づいているゆえに誤りがなく、正義であると考えられている。また、身体とその健康への信仰によって、従来の宗教を乗り越え、代替するものともされている。
このシステムのもとに生まれた現在40歳以下の人間は、病気や身体的痛みの経験がない。一方で、煙草やアルコールはもちろんのこと、コーヒーやお茶までも禁止、町は無菌状態に保たれて、菌や害虫を拾う可能性のある森など自然地帯には立ち入り禁止、市民の食事や睡眠、運動量にいたるまでが、国家によって細かに管理されている。また、結婚は免疫システムによるマッチングで、犯罪の物的証拠は体内に埋め込まれたチップやDNAにのみ重きを置く。
体制に何の疑問も抱いたことのないミーア・ホルは30歳の女性で、生物学者として働いている。ミーアの弟モーリッツ・ホルは、つい最近デート相手を暴行、殺害したとして有罪判決を受け、刑務所で自殺した。DNA検査をはじめとするあらゆる科学捜査の結果が有罪を示しているにもかかわらず、モーリッツは無実を主張し続けた。さらに〈メトーデ〉のもとでは自殺も犯罪であるため、モーリッツ・ホル事件は二重の意味で〈メトーデ〉に対する一個人の反抗として、大スキャンダルになったのだった。
はたしてこの事件の行方はどうなって行くのか……。
<海外の書評など>
現代社会に蔓延する、健康とフィットネスへの狂気じみた熱狂に、ユーリ・ツェーは焦点を当てる。
――ゲネラル・アンツァイガー紙
人生と社会のあらゆる領域を完璧なものにすることへの強迫が生み出しうる危険を明らかにしてみせる。ユーリ・ツェーのおもな懸念は、身体にあらゆる信頼を置くシステムのもとでは顧みられることのない人間の精神に向けられている。
――ティーテル・マガジン誌
ユーリ・ツェーは、女性版ジョージ・オーウェルとなった。
――ドイツラジオ
著者プロフィール
■ユーリ・ツェー(Juli Zeh)さん
1974年生まれ、旧西ドイツのボン出身。2001年、デビュー作『Adler und Engel(鷲と天使)』が35か国語に翻訳される大成功をおさめ、現在ドイツで最も高い人気と実力を誇る作家のひとり。
著書に『人間の彼方』(東宣出版)、『シルフ警視と宇宙の謎』(早川書房)、『Unterleuten(ウンターロイテン)』『Spieltrieb(ゲームへの衝動)』などがある。国際法の分野で博士号を持つ現役の法曹家でもある。
■訳:浅井晶子(あさい・しょうこ)さん
1973年生まれ、大阪府出身。京都大学大学院博士課程単位認定退学。
訳書にJ・W・タシュラー『誕生日パーティー』、C・リンク『誘拐犯』『裏切り』『失踪者』など多数。J・エルペンベック『行く、行った、行ってしまった』で2021年度日本翻訳家協会賞翻訳特別賞受賞。
メトーデ 健康監視国家 ユーリ・ツェー (著), 浅井 晶子 (翻訳) 独110万部のベストセラー!健康が義務とされ、科学最優先の健康維持システム<メトーデ>が国民を管理。近未来ディストピア小説。 |
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