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SINCE 1991

これは「君」の自伝――ポール・オースターさん『冬の日誌/内面からの報告書』が刊行

ポール・オースターさんの回想録『冬の日誌/内面からの報告書』(訳:柴田元幸さん)が新潮文庫より刊行されました。本書は2017年に連続刊行された二冊の単行本を合本したものです。

 

ポール・オースターさんが自らの精神と肉体と語りあった回想録『冬の日誌/内面からの報告書』

オースターさんは1947年生まれ、現在は76歳。日本でもとりわけ人気の高いアメリカ文学の巨匠ですが、本作の原著は2012年と2013年に刊行された作品。人生の冬にさしかかった自らの精神と肉体を考古学的に掘り起こし、回想録にもかかわらず「君」という二人称によって語ったり、幼い頃に見た映画の筋書きを長々と盛り込んだり、最初の妻へあてたラブレターをそのまま使うなど、この著者らしい企みに満ちた作品になっています。同時に親しみやすく、誰にとってもこのような物語があったと思える温かなメモワールともなっています。全米各紙や朝日新聞、東京新聞、毎日新聞などの読書面で取り上げられました。

 
「完璧な宝石のように美しく切り出された回想録」
――ニューヨーク・タイムズ

「深く美しい本」
――ワシントン・ポスト

「静かに胸を打つ」
――パブリッシャーズ・ウィークリー

 
【あらすじ】

君がまだ3歳か4歳だった頃、君と地面はもっと近かった。君の父親がついた小さな嘘。母親が打った特大のホームラン。心揺さぶられた映画。性の目覚め。学生運動。パリでの暮らし。妻との出会い。外見はまるで変わっても、君はまだかつての君なのだ――。人生の冬にさしかかった著者が、身体と精神の古層を掘り起こし、自らに、あるいは読者に語りかけるように綴った、温かで幻想的な回想録。

 
<本文より>

いま語れ、手遅れにならないうちに。そして期待しよう、もう語るべきことがなくなるまで語りつづけられるようにと。何といっても時間は終わりに近づいている。もしかしたらここは、いつもの物語は脇へ置いて、生きていたことを思い出せる最初の日からいまこの日まで、この肉体の中で生きるのがどんな感じだったか、吟味してみるのも悪くないんじゃないか。

 

訳者あとがきより

何も知らなかったぶん、いまより新しかった世界と対峙し、あるときは高揚の瞬間を、あるときは苦悩の時間を生きていたかつての「君」を、共感と、同情と、いくぶんの羨望とが混ざりあった思いで著者は眺めている。その感慨豊かな視線を共有できることが、この本を読む上での大きな楽しみである。ポール・オースターの愛読者にとっては、なるほどこういうものを食べて育ってこんな場所に住んでいた人がああいう本を書くわけか、という発見も楽しいだろうが、かりにオースター作品をまったく知らなくても、人が自分の過去を発掘する営みの中身濃き実例として、大いに刺激を受けられる一冊ではないかと思う。

 

本書の目次

冬の日誌

内面からの報告書
 内面からの報告書
 脳天に二発
 タイムカプセル
 アルバム

訳者あとがき

 

著者プロフィール

 
■著者:ポール・オースターさん

1947年生れ。コロンビア大学卒業後、数年間各国を放浪する。1970年代は主に詩や評論、翻訳に創作意欲を注いできたが、1985年から1986年にかけて、『ガラスの街』『幽霊たち』『鍵のかか った部屋』の、いわゆる「ニューヨーク三部作」を発表。一躍現代アメリカ文学の旗手として脚光を浴びた。

他の作品に『ムーン・パレス』『偶然の音楽』『リヴァイアサン』『ティンブクトゥ』『幻影の書』『ブルックリン・フォリーズ』『写字室の旅/闇の中の男』『冬の日誌/内面からの報告書』などがある。

 
■訳者:柴田元幸(しばた・もとゆき)さん

1954年生まれ、東京都出身。米文学者・東京大学名誉教授。翻訳家。アメリカ文学専攻。

『生半可な學 』で講談社エッセイ賞、『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞、トマス・ピンチョン著『メイスン&ディクスン』で日本翻訳文化賞を受賞。アメリカ現代作家を精力的に翻訳するほか、文芸誌「Monkey」の責任編集を務める。

 

冬の日誌/内面からの報告書 (新潮文庫)
ポール・オースター (著), 柴田 元幸 (翻訳)

 
【関連】
試し読み | ポール・オースター、柴田元幸/訳 『冬の日誌/内面からの報告書』 | 新潮社

 


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