謎の病との闘いを追った幻のノンフィクション『死の貝』が文庫化
謎の病との闘いを追った幻のノンフィクション、小林照幸さん著『死の貝』が文庫化され、新潮文庫より刊行されました。
謎の病と闘った人たち
山梨県の甲府盆地や広島県の片山地方、福岡県と佐賀県の筑後川流域では、腹に水がたまって妊婦のように膨らみ、やがて動けなくなって死に至る「謎の病」が存在していました。原因や治療法もわからず、現地では多くの人たちが恐怖し、そして苦しんできました。
やがて、この病に立ち向かうため、医師や住民ら、多くの人たちが奮闘を始めます。そして原因が未知の寄生虫であることがわかり、じつに百年以上の時間をかけ、撲滅へ向けた取り組みが続けられていきます。本書は謎の病との闘いを追った圧巻のノンフィクションで、さながら「プロジェクトX」のような内容です。
なお、Wikipediaの「地方病(日本住血吸虫症)」では本書が主要参考文献として挙げられており、その記述の多くが本書に由来していますが、今回の文庫化に際し、新章を加えるなど大幅な増補をしています。Wikipediaにはまだ書かれていない、本書ならではの情報も満載です。
Wikipedia三大文学が新潮文庫にそろう
吉村昭さん『羆嵐』(新潮文庫)、新田次郎さん『八甲田山死の彷徨』(新潮文庫)に続き、本作『死の貝 日本住血吸虫症との闘い』にて「Wikipedia三大文学」が新潮文庫でコンプリートしました。
Wikipedia三大文学とは、読み始めると思わず引き込まれてしまう秀逸なWikipedia記事のことで、八甲田雪中行軍遭難事件(明治35年に起きた世界最大規模の山岳遭難事件)、三毛別羆事件(大正4年に発生した日本史上最悪の熊害事件)、そして地方病(日本住血吸虫症)が知られています。
SNSやネットで度々バズって話題となるトピックですが、じつは「三毛別羆事件」は吉村昭さん『羆嵐』、「八甲田雪中行軍遭難事件」は新田次郎さん『八甲田山死の彷徨』(いずれも新潮文庫)にそれぞれ詳細が書かれており、今なおベストセラーとして売れ続けています。
残る「地方病(日本住血吸虫症)」についてまとめられているのは小林照幸さん『死の貝 日本住血吸虫症との闘い』です。本作は1998年に文藝春秋社から単行本が出されましたが、その後絶版となり、プレミア価格の中古本以外は手に入らない状況が続いていました。それがこの度初の文庫化が決まり、新潮文庫より刊行されました。
なお、今回の発売に合わせ新潮社では、『羆嵐』『八甲田山死の彷徨』『死の貝 日本住血吸虫症との闘い』3冊を並べた「三面販売台」を用意。全国の書店で、Wikipedia三大文学を扱った3冊が一堂に会することになります。
著者プロフィール
小林照幸(こばやし・てるゆき)さんは、1968(昭和43)年生まれ、長野県出身。ノンフィクション作家。1992(平成4)年に『毒蛇』で第1回開高健賞奨励賞、1999年に『朱鷺の遺言』で第30回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。信州大学卒業。明治薬科大学非常勤講師。
著書に『パンデミック 感染爆発から生き残るために』『死の虫 ツツガムシ病との闘い』『大相撲支度部屋 床山の見た横綱たち』『熟年性革命報告』『ひめゆり 沖縄からのメッセージ』『全盲の弁護士 竹下義樹』『車いす犬ラッキー 捨てられた命と生きる』など多数。
死の貝:日本住血吸虫症との闘い 小林 照幸 (著) Wikipedia三大文学として知られる「地方病(日本住血吸虫症)」。 腹に水がたまって妊婦のように膨らみ、やがて動けなくなって死に至る―― |