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「第60回文藝賞」受賞!小泉綾子さん『無敵の犬の夜』が刊行

今年8月31日に発表された「第60回文藝賞」を受賞した小泉綾子さん著『無敵の犬の夜』が河出書房新社より刊行されました。

なお、第60回文藝賞の優秀作に選ばれた、図野象さん著『おわりのそこみえ』佐佐木陸さん著『解答者は走ってください』も同時刊行。

 

著者が10代を九州で過ごした経験から生まれた、北九州の少年の逆襲劇!

1962年創設以来、多くの新人作家を輩出してきた「文藝賞」(主催:河出書房新社/本社:東京都渋谷区)は、今年が第60回となります。記念すべき第60回受賞者は小泉綾子さんの「無敵の犬の夜」に決定しました。

受賞のことばを伝える小泉綾子さん

受賞のことばを伝える小泉綾子さん

選考委員を務めた角田光代さん、島本理生さん、穂村弘さん、町田康さん、満場一致の受賞作となった本作は、北九州の片田舎で暮らす中学生が、東京のラッパーを倒しにカチコミへ向かうという破格の青春爆走劇です。

思春期に抱える世界からの疎外感、北九州弁の中高生たちが繰り広げる言葉の応酬とその生命力、そもそも彼はなぜ東京ヘカチコミに向かうのか――? など読みどころにあふれ、頁をめくる手が止まらない、一気読み必至!と、雑誌「文藝」2023年冬季号(10月6日発売)掲載直後から多くの反響を呼んでいます。

受賞会見の小泉綾子さん

受賞会見の小泉綾子さん

贈呈式に先立って行われた記者会見で小泉綾子さんは、本作を執筆したきっかけについて「白石和彌監督の任侠映画『孤狼の血』に衝撃を受け、3回見た。その後すぐに福岡県田川市に向かい、比較的治安の悪い立地のホテルにこもって書いた」と驚きのエピソードを語りました。

また影響を受けた作家については「夏目漱石の『坊っちゃん』や『抗夫』などが好きで『どうしたらこんなものが書けるのだろう』と思いながら書いてきたが、本作を書く中では今までにない手応えを感じていた」と述べました。

 
<「文藝賞」小泉綾子さん 受賞の言葉(「文藝」2023年冬季号からの抜粋)>

創作は孤独だ。言葉の配置に細心の注意を配り、浮かばれない過去と対峙し、自分を救ってくれた名作に励まされながら魂を削り書き上げたところで、誰にも読んでもらえないかもしれない。だけどそれでも書くことは私の使命だ。そう信じるしかない。そして「無敵の犬の夜」の主人公のように、人生の不公平さを糧にあらぬ方向に向かって一発デカい花火を打ち上げようとする、そんなふうに生きる人間に私はいつまでもあこがれる。

 
【『無敵の犬の夜』あらすじ】

「強くなったらもう誰も俺をバカにしない。恐れられ尊敬される世界。最高やん。きっといつか、もしかしたら」
北九州の片田舎。幼少期に右手の小指と薬指の半分を失った男子中学生・界(かい)は、学校へ行かず、地元の不良グループとファミレスでたむろする日々。その中で出会った「バリイケとる」男・橘さんに強烈に心酔していく。
ある日、東京のラッパーとトラブルを起こしたという橘さんのため、ひとり東京へ向かうことを決意するが――。
どこまでも無謀でいつまでも終われない、行き場のない熱を抱えた少年の切実なる暴走劇!

 
<書店人から絶賛の声!>

「小泉さんは原始の感情、或いは発展途上の知識と感情の不均衡と言うべきか、を描くのが途轍もなく上手い。一見空疎な文章だが、物語に呼応するかのようなエネルギーを感じる。それは青春小説によくある嘘っぱちのみずみずしさではなく、もっと野卑で、じっとしてると汗が流れてくるようなむさくるしさだ。小泉さんの描く物語はとにかく世界の中心で愛を叫べない若者へのレクイエムみたいなところがあって、この崖っぷちの咆哮が、私の胸を鷲掴みにする。あらゆる未完成をこの人には書いて欲しいし、私はそれを読んでいたい。」
――紀伊國屋書店浦和パルコ店 竹田勇生さん

 

選考委員の言葉

「すべての人物が衝動に突き動かされて瞬間をマジで生きる様が描かれて、この作者の世界観、人間観が広く深いものであることが知れる。」
――町田康さん

 
「この現実世界の中心にかかわりたくてあがいていながら、まったくかかわることができずにいる、絶望と意識もされない絶望が、絶妙に描き出されている。」
――角田光代さん

 
「思春期の葛藤は時に人を殺したくなるほど肥大する。その切実さが丁寧に描かれている。」
――島本理生さん

 
「主人公の世界と自分の直結を夢見る感覚はテロリスト的。」
――穂村弘さん

 

著者プロフィール

photo:宇壽山貴久子

photo:宇壽山貴久子

小泉綾子(こいずみ・あやこ)さんは、1985年生まれ、東京都出身。10代を九州で過ごす。2022年「あの子なら死んだよ」で第8回林芙美子文学賞佳作を受賞。2023年「無敵の犬の夜」で第60回文藝賞を受賞。

 

文藝賞について

文藝賞は、1962年に文芸誌『文藝』で創設された公募の新人文学賞です。河出書房新社が主催。

日本における新人作家の登竜門とされ、第一回受賞作である高橋一巳さん『悲の器』をはじめ、田中康夫さん『なんとなく、クリスタル』、山田詠美さん『ベッド タイム アイズ』、綿矢りささん『インストール』、白岩玄さん『野ブタ。をプロデュース』、山崎ナオコーラさん『人のセックスを笑うな』、宇佐見りんさん『かか』、遠野遥さん『改良』など、実力と才能を兼ね備えた作家を多数輩出しています。

ちなみに、創設当時の『文藝』の編集長は坂本一亀さんで、音楽家・坂本龍一さんの父。

 
なお、今年の「文藝賞」は第60回を迎え、受賞作は、小泉綾子さん「無敵の犬の夜に」に、優秀作は、本作の佐佐木陸さん「解答者は走ってください」、図野象さん「おわりのそこみえ」の2作に決定しました。この3作は11月22日にそれぞれ単行本を発売しました。

受賞会見【左から佐佐木陸さん 小泉綾子さん 図野象さん】

受賞会見【左から佐佐木陸さん 小泉綾子さん 図野象さん】

 

無敵の犬の夜
小泉 綾子 (著)

【驚異の”満場一致”受賞!】
選考委員 角田光代・島本理生・穂村弘・町田康 絶賛!!

「この先俺は、きっと何もなれんと思う。夢の見方を知らんけん」北九州の片田舎。中学生の界は、地元で知り合った「バリイケとる」男・橘さんに心酔するのだが――。第60回文藝賞受賞作。

「任侠映画」「坊っちゃん」はたまた「少年漫画」!?
――無謀で泥臭くも美しい“鉄砲玉文学”、爆誕!

 
【関連】
文藝の案内|河出書房新社

 


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