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「第60回文藝賞」優秀作!佐佐木陸さん『解答者は走ってください』が刊行

今年8月31日に発表された「第60回文藝賞」で優秀作に選ばれた佐佐木陸さん著『解答者は走ってください』が河出書房新社より刊行されました。

 

穂村弘さん、驚嘆! 型破りな展開と移り変わる世界線が物語と現実の境界を突破する、破格のデビュー作!

今年で第60回を迎える文藝賞(主催:株式会社河出書房新社)は、1962年の創設以来、多くの新人作家を輩出してきました。応募総数2,018作品の中から、角田光代さん、島本理生さん、穂村弘さん、町田康さんによる選考のもと、第60回の文藝賞受賞作として1作品、文藝賞優秀作は2作品が選ばれ、このうち本作、佐佐木陸さんの「解答者は走ってください」は、文藝賞優秀作として選ばれました。

 
クイズ大会、グラミー賞受賞、国家転覆、ギターケース爆弾……。本作は、型破りな展開から始まり、現実と物語、作者と登場人物といった規定の境界線を軽々と破壊して読者を挑発する大胆な意欲作です。

 
先日開催された文藝賞贈呈式で選評を述べた穂村弘さんは、「我々は現実世界の中に閉じ込められているが、自分を閉じ込めた造物主や神、運命について普段うっすらと考えていて、ひどい目に遭うとこれを強く意識する。一方で小説の主人公たちは、小説の中にいることや作者のことをなぜ知覚しないのかと疑問を持っていた。この作品はこのような小説の枠を壊そうとするすごく難しいことに挑んでいる。そのスリルに惹かれた。」と絶賛。

同じく町田康さんも「(佐佐木さんには)虚構を突破していく力がある。この小説にはいろいろな要素があるが、それらを書くことができるのは、作者自身がそれをまとめる怒りや悲しみといった磁力を持っているからだ。」と評しています。

 
<『解答者は走ってください』あらすじ>

数日前のことも憶えておらず、生まれてから部屋を出たことのない怜王鳴門(れおなるど)は、ある日「パパ上」のノートパソコンに届いた自分の過去についての物語を読み始め、喪失していた自分と世界の歴史を知ることになる。

驚異の記憶力でクイズに耽溺した過去の自分や、クイズチームで共に無双したはずの「サッちゃん」と「パパ」、そして言語を獲得した血統犬の「ベリアル」は、一体どこへ――?

型破りな展開と複数の世界線が現実と物語の境界を破壊する、究極のマルチバース小説。

 

選考委員による選評(「文藝」2023冬季号からの抜粋)

 
◆穂村弘さん

「解答者は走ってください」を今回もっとも推した。これは小説を書くことについての小説、つまりメタ小説だと思う。(中略)小説の作者と登場人物の関係は造物主と人間の関係と相似的ではないか。その時、作家がより良い神であるとはどういうことか。一方、世界に閉じこめられた側の実感として、その外部の情報を暗示的にしか感受できない様子はリアルだと思う。

 
◆町田康さん

四層の世界からなる意欲的な作品で好意的に読んだ。そこではいくつかの事が描かれて在るが、まとめて言うと、物語によって救われる者と物語に描かれる者を同時に描くことによって、救済の無効性と物語の罪深さを描こうとしている。

 

佐佐木陸さんによる受賞の言葉(文藝賞贈呈式、同記者会見より)

第60回の節目に受賞することができて嬉しい。これまでの幸運な偶然の積み重ねによって書くことができた。

魂を超えたいという衝動があって書いている。それを継続していくことは難しいが、周りの人の支えや力添えがあったからこそ書くことができた。かつて手塚治虫が「アイデアだけはバーゲンセールをしてもいいくらいある」と言ったが、これは自分も同じ。小説を実現していくことは大変だが、書くことの意欲は大いにある。

 
※文藝賞贈呈式は、2023年11月13日(月)、明治記念館にて開催されました。

 

著者プロフィール

(photo:宇壽山貴久子)

(photo:宇壽山貴久子)

佐佐木陸(ささき・りく)さんは、1990年生まれ、埼玉県出身。2023年、本作「解答者は走ってください」で第60回文藝賞優秀作を受賞。

 

文藝賞について

文藝賞は、1962年に文芸誌『文藝』で創設された公募の新人文学賞です。河出書房新社が主催。

日本における新人作家の登竜門とされ、第一回受賞作である高橋一巳さん『悲の器』をはじめ、田中康夫さん『なんとなく、クリスタル』、山田詠美さん『ベッド タイム アイズ』、綿矢りささん『インストール』、白岩玄さん『野ブタ。をプロデュース』、山崎ナオコーラさん『人のセックスを笑うな』、宇佐見りんさん『かか』、遠野遥さん『改良』など、実力と才能を兼ね備えた作家を多数輩出しています。

ちなみに、創設当時の『文藝』の編集長は坂本一亀さんで、音楽家・坂本龍一さんの父。

 
なお、今年の「文藝賞」は第60回を迎え、受賞作は、小泉綾子さん「無敵の犬の夜に」に、優秀作は、本作の佐佐木陸さん「解答者は走ってください」、図野象さん「おわりのそこみえ」の2作に決定しました。この3作は11月22日にそれぞれ単行本を発売しました。

 

解答者は走ってください
佐佐木 陸 (著)

この世界は破壊すべきである、○か×か? 過去の記憶がない怜王鳴門にある日届いた「きみの物語」。読者を挑発する究極のマルチバース小説! 第60回文藝賞優秀作。穂村弘驚嘆!

我々も現実世界に閉じ込められた登場人物だ。小説の枠組み自体が問題視され、登場人物が複数の階層を貫いて行動する本作を、もっとも推した。
――選考委員・穂村弘

「お前は、この世界を壊すのか」
「うん」「すべてを無へ帰す」
「なんのために」
「パパのために」
(本文より)

クイズ大会、国家転覆、そしてギターケース爆弾――。
型破りな展開と、移り変わる世界線が、物語と現実の境界を突破する、破格のデビュー作!

 
【関連】
文藝の案内|河出書房新社

 


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