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「第60回文藝賞」優秀作!図野象さん『おわりのそこみえ』が刊行

今年8月31日に発表された「第60回文藝賞」で優秀作に選ばれた図野象さん著『おわりのそこみえ』が河出書房新社より刊行されました。

 

町田康さん、喝采! 「私は人生のゲームオーバーを、ただ待っている」地獄へと爆進する25歳の美帆を軽やかな文体で活写する衝撃のデビュー作!

今年で第60回を迎える文藝賞(主催:株式会社河出書房新社)は、1962年の創設以来、多くの新人作家を輩出してきました。応募総数2,018作品の中から、角田光代さん、島本理生さん、穂村弘さん、町田康さんによる選考のもと、第60回の文藝賞受賞作として1作品、文藝賞優秀作は2作品が選ばれ、このうち本作、図野象さんの「おわりのそこみえ」は、文藝賞優秀作として選ばれました。

 
本作は、買い物依存、性依存から生活、人間関係に破綻をきたす主人公・美帆(25歳)を中心に繰り広げられる中篇小説。憂鬱なバイト先、元同級生のストーカー、マッチングアプリで出会う男たち、不仲な両親、死んでもいい友達と生まれて初めての本物の友達――、劇的な展開、刹那的な感覚が軽やかに活写された、圧巻の著者デビュー作です。

 
先日開催された贈呈式で選評を述べた穂村弘さんは「物語のドライブ感が素晴らしく、この先どうなってしまうんだ、とページを次々とめくりたくなる作品」「詩的な言葉の逸脱感のようなものが(漂っていて)、物語の魅力と細部の言葉そのものの魅力が両立している」と絶賛。

同じく登壇した町田康さんは「人間の瞬間のマジというか、言葉でつくろっていない瞬間の気持ちを言葉で表している」「普通、小説でなかなか書かれへん」と喝采をおくりました。

 
<『あわりのそこみえ』あらすじ>

日当7,500円のバイトに遅刻しないため2,000円払ってタクシーに乗り、スマホで消費者金融のアプリとマッチングアプリを交互に見る生活を送る、買い物依存で性依存の美帆。両親は貧乏で不仲、バイト先で再会した元同級生の宇津木は、筋金入りのストーカー。アプリで知り合ったアメと刹那的なセックスをし、ほとんど知らないベトナム料理屋の店員ナムちゃんが「唯一の友達」。その人生の歯車は、あるひとつの死をきっかけに急激に加速して――。地獄へと爆進する美帆と、全員が常識外れの登場人物たちを、軽やかな文体で活写する衝撃の問題作。

 

選考委員による選評(一部抜粋)

 
◆角田光代さん

文章に勢いがあり、性交と買いものに依存し、死を願うが、それらがすべてファッションだとうそぶく語り手の美帆も生き生きと書けている。美帆の望む幸福もちっぽけなものでしかなく、なのにそのちっぽけな希望すらも、ちっぽけでしょぼい現実が壊していく、その連鎖がリアルに描かれている。

 
◆島本理生さん

その瞬間だけの救いと許しを求めてそれ以外の全てを粗末にする主人公の行動の破綻ぶりに説得力があり、個人的に嫌いになれない魅力があった。「人がちゃんと正しいことをできるのは、健康なときだけ。みんながしている善行も、それは元気だからできるんだよ」という点で一見つぎはぎだらけの主人公はまさに一貫していた。

 

図野象による受賞の言葉(文藝賞贈呈式、同記者会見より)

(作品が)活字になったものを見て、いろんな人が読んでくれていることの実感がようやくわき、その人たちの時間を無駄にしないようにしなきゃと強く思いました。これからも頑張って書こうと思います。

※文藝賞贈呈式は、2023年11月13日(月)、明治記念館にて開催されました。

 

著者プロフィール

図野象(ずの・しょう)さんは、1988年生まれ、大阪府出身。2023年、本作「おわりのそこみえ」で第60回文藝賞優秀作を受賞。

 

文藝賞について

文藝賞は、1962年に文芸誌『文藝』で創設された公募の新人文学賞です。河出書房新社が主催。

日本における新人作家の登竜門とされ、第一回受賞作である高橋一巳さん『悲の器』をはじめ、田中康夫さん『なんとなく、クリスタル』、山田詠美さん『ベッド タイム アイズ』、綿矢りささん『インストール』、白岩玄さん『野ブタ。をプロデュース』、山崎ナオコーラさん『人のセックスを笑うな』、宇佐見りんさん『かか』、遠野遥さん『改良』など、実力と才能を兼ね備えた作家を多数輩出しています。

ちなみに、創設当時の『文藝』の編集長は坂本一亀さんで、音楽家・坂本龍一さんの父。

 
なお、今年の「文藝賞」は第60回を迎え、受賞作は、小泉綾子さん「無敵の犬の夜に」に、優秀作は、本作の佐佐木陸さん「解答者は走ってください」、図野象さん「おわりのそこみえ」の2作に決定しました。この3作は11月22日にそれぞれ単行本を発売しました。

 

おわりのそこみえ
図野 象 (著)

「感動、アホか。そんなもんはいらんのじゃ、暈け。これは効いた。効きまくった」(選考委員・町田康)。美帆、25歳。買い物依存で性依存――。第60回文藝賞優秀作。

「私に明日なんて必要ないし、夜は明けないほうがいい。」(本文より)
スマホで消費者金融のアプリとマッチングアプリを交互に見る生活を送る、美帆、25歳。今を生きるため人生を手放し、地獄の底の絶望と希望へと爆進する、衝撃の問題作。町田康、喝采!

 
【関連】
文藝の案内|河出書房新社

 


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