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夏目漱石作品を「身体性」と「葛藤」を軸に読みなおす!阿部公彦さん『別冊NHK100分de名著 集中講義 夏目漱石』が刊行

NHK Eテレで好評を博した「100分de名著 夏目漱石スペシャル」を書籍化した、阿部公彦さん著『別冊NHK100分de名著 集中講義 夏目漱石 「文豪」の全身を読みあかす』がNHK出版より刊行されました。

 

漱石の心身の「葛藤」に刮目し、読者の共鳴を誘う、鮮烈な集中講義全5講

2019年に放送されたNHK100分de名著「夏目漱石スペシャル」では、『三四郎』『夢十夜』『道草』『明暗』の4作品を、「怖いけど、おもしろい」「つらいけど、笑える」と漱石作品の多面性の魅力を語り、評判となりました。

 
今回、「集中講義」としての刊行に際し、著者・阿部公彦さんは、誰もが知るデビュー作『吾輩は猫である』について1講加筆し、「猫」に観察される苦沙弥先生の、胃弱を抱えながらも飽くなき「食」「養生」にこだわる姿勢から、漱石の「生への執着」という視点を示します。

そこから本書で取り上げる上記の作品について「身体性」をテーマとして捉えなおす加筆をさらに施し、そのデビューから絶筆までの「漱石という“文豪”」を「読み証し」「読み明かす」、意欲的なガイドブックとなっています。

 
★NHK出版デジタルマガジンにて、本書の一部を公開:https://mag.nhk-book.co.jp/article/39668

 

本書「あとがき」より

漱石は様々な顔を持つ作家です。妻と子供のいる家庭人である一方、こだわりのある趣味人、教師、読書家、勉強家、漢詩を書く人、そして弟子のたくさんいる「先生」であり、学者であり、かつ官僚のような所もあった。この『集中講義』はそんな多面的な漱石について、いくつかの作品とそこについてまわるテーマに的を絞って理解を試みるものでした。

 
選んだ作品は『吾輩は猫である』、『三四郎』、『夢十夜』、『道草』、『明暗』の五つ、(中略)漱石は作品ごとに新しいチャレンジを試みた人で、通して読んでも五冊を貫く指針のようなものはそう簡単には見えてきませんが、そのときどきに漱石が抱えていた葛藤が滲み出していることはわかります。漱石が直面していたのは生活上の困難であることもあれば、より深い内面の悩み、小説を書いていく上での試行錯誤もありましたし、心身の不具合も見逃せません。

 
次にあげるのはいずれも漱石が何らかの形で言及したり、表現したりしているわかりやすい〝お悩み〟の一覧です。
  生徒が生意気だ。
  日本の英語教育はうまくいっていない。
  自分が大学で受けた英文学の教育に不満がある。
  英文学研究とは何か、何だかよくわからない。
  ロンドンに留学させてもらうこととになったけど、英語の勉強をしてこいと文部省の役員がいうのが嫌だ。
  ロンドンに行ったが英語がうまくしゃべれない。
  ロンドンに行ったが、気が滅入って困る。
  東大の先生になったが、学生があまり懐いてこない。
  授業の準備がたいへんだ。
  大学の先生をするのは嫌だ。
  大学で教えるより、「吾輩は猫である」など書いている方が楽しい。
  妻との関係がうまくいかない。
  胃腸の調子が悪い。痔になった。
  もっと甘いものが食べたいが、妻が「だめ」と言う。甘い物を隠された。
  金が足りない。

 (中略)

漱石は近代作家としては典型的で、自分自身の葛藤を何らかの形で組み込むことで作中人物やテーマの組み立てや、展開などに活かしています。漱石は決して私小説作家と言えるタイプの人ではありませんでしたが、その作品はどの一節をとっても漱石の生理や身体の痕跡がこびりついています。おそらくそのような形で言葉に身体性をあたえることができたからこそ、彼の作品は多くの読者に訴えたのでしょう。

 

本書の構成

はじめに─夏目漱石と「出会う」ために

第1講『吾輩は猫である』の「胃弱」

第2講『三四郎』と歩行のゆくえ

第3講『夢十夜』と不安な眼

第4講『道草』とお腹の具合

第5講『明暗』の「奥」にあるもの

あとがき

 

著者プロフィール

阿部公彦(あべ・まさひこ)さんは、東京大学教授。1966年生まれ、横浜市出身。東京大学文学部卒業。同大学修士課程を経て、ケンブリッジ大学で97年に博士号取得(博士論文はWallace Stevens and the Aesthetic of Boredom 「ウォレス・スティーヴンズと退屈の美学」)。現在、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授。

1998年に小説「荒れ野に行く」で早稲田文学新人賞、2013年『文学を〈凝視〉する』(岩波書店)でサントリー学芸賞を受賞。英米文学研究と文学一般の評論に取り組む。

著書に『英詩のわかり方』『英語文章読本』『英語的思考を読む』(以上、研究社)、『小説的思考のススメ』『詩的思考のめざめ』(東京大学出版会)、『名作をいじる』(立東舎)などの啓蒙書、『モダンの近似値』『即興文学のつくり方』(以上、松柏社)、『善意と悪意の英文学史』(東京大学出版会)、『幼さという戦略』(朝日選書)などの専門書がある。近著に『事務に踊る人々』(講談社)、『ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う』(共著、集英社新書)など。また、翻訳に『フランク・オコナー短編集』、マラマッド『魔法の樽 他十二編』(以上、岩波文庫)などがある。

 

別冊NHK100分de名著 集中講義 夏目漱石: 「文豪」の全身を読みあかす (教養・文化シリーズ)
阿部 公彦 (著)

漱石の心身の「葛藤」に刮目し、読者の共鳴を誘う、鮮烈な集中講義全5講。
そのデビュー作から絶筆までを五感を駆使して「読み証し」「読み明かす」。2019年3月「夏目漱石スペシャル」に大幅に加筆。

 
【関連】
『吾輩は猫である』のおもしろさとは? 夏目漱石を読みあかす【別冊NHK100分de名著】 | NHK出版デジタルマガジン

 


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