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昨年急逝、津原泰水さん最後の長編小説『夢分けの船』が刊行

昨年10月2日、58歳で急逝した津原泰水さん最後の長編小説『夢分けの船』が河出書房新社より10月12日に刊行されます。音楽と青春と幽霊が奏でる、切なくも美しい青春の物語です。

 

舞台は現代、文体は明治・夏目漱石(新仮名)という挑戦 執筆開始から15年・530枚の長編小説

 
四国から東京へ。
映画音楽の勉強のため、専門学校へ通うこととなった修文(よしふみ)は、引っ越し先・風月荘704号室にまつわるある噂を聞く。
「出るよ、茲(ここ)」――久世花音(くぜ・かのん)……かつて修文と同じく「音楽」という「夢」を追い続け、ある日、自らの命を絶った3代前の住人の幽霊の話を。
“かのん”が影を落とす部屋から始まる、切なくも美しい青春の物語。

 
『夢分けの船』について、生前、津原泰水さんはTwitter(現X)で次のように書かれています。

 
〈『夢分けの船』は嘗て河出書房新社のウェブサイトに連載していた青春小説の完成版で、舞台は現代、文体は明治(新仮名)という試みです。本作の為に明治文学に埋もれました。特に漱石。単に珍奇な試行というのではなく、言語表現の移ろいと共に消失してしまった感情表現を呼び戻す意図があります。〉
(2016年6月14日)

 
〈安易に「現代の青春小説を漱石の文体で」と始めたが、パスティシュではないから当然津原泰水が入り込む。何の為にもどかしい明治文体に変換しているのか分からなくなるが、書いた物を読み返してみると、つまらない恋が、身悶えするほどもどかしいんだこれが。〉
(2016年12月17日)

 
本作は2008年1月より、河出書房新社ホームページ内「WEBマガジン」で連載をスタートしました。2009年4月の更新を最後に休載。7年の歳月を経て、執筆分を改稿の上、「文藝」2016年秋季号に掲載し、連載を再開しました。その後、「文藝」2020年春季号にて連載完結。

 
闘病の中、改稿に向かい合おうとされていましたが、津原さんは昨年10月2日に急逝されました。この度、ご遺族と話し合いの上、「文藝」掲載分を初出として、最低限の誤字・脱字、一部ルビを加筆の上で刊行されます。

 
ブックデザインは、生前、津原さんが自ら企画立案した宇野亞喜良さんとの共著『五色の舟』(Toshiya Kameiさん 英訳)のデザインをした大島依提亜さん。

装幀写真は、連載スタート時に津原さんと相談の上、本作用に撮り下ろし。撮影は横山孝一さん、モデルは絵理子さん。2007年秋口、津原さんも同行し、葛飾区の水元公園で撮影されたものです。

 

桐野夏生さん、大森望さん、斉藤壮馬さんが推薦! 全国書店員より感動の声、続々!

◆桐野夏生さん
この風変わりで魅力的な小説は、いかなるジャンル分けも拒むであろう。
孤高の作家、津原泰水がそうだったように。

◆大森望さん
こんな青春小説、見たことない。
日本語の天才が超絶技巧を軽やかに駆使して書き上げた、21世紀の『坊つちやん』。

◆斉藤壮馬さん
聴いたこともないのに、読んだこともないのに、いつかどこかで触れたような音が、物語が鳴っている。
人はそれを、たとえば青春と呼ぶのかもしれない。

『夢分けの船』店頭用パネル

『夢分けの船』店頭用パネル

世界をひとつひとつじっくりと自分のスケールで確かめていく。この時間が青春で、文章を読みくだき、味わうこと自体がとても楽しかったです。いつでも、どこでも、明治でも今でも変わらない。
(啓文社 コア福山西店 川﨑さん)

「いつの時代の物語だろう?」と、ふわふわした気持ちで読みました。最後まで読んで納得。舞台は現代で、文体は明治だったんですね。作品の雰囲気とストーリーがマッチしていて、都会に出てきた主人公の青春が、色がついて見えるようでした。
(TSUTAYA サンリブ宗像店 渡部知華さん)

たまになんだかよく分からない。そんなシーンがある。それこそ津原さんっぽいなと思います。読んでいると自分もちょっと文学にふけっている、そんな気分になりました。『歌うエスカルゴ』のような楽しさもありつつ、新しい津原文学を感じました。亡くなったことがつくづく悲しいです。
(喜久屋書店 高岡店 荒谷さん)

古風な文体で描かれるのは夢という船に乗った時代の若者たち。眼の痛みからくる可視化された音楽世界が美しく、このまま音楽の世界へと修文は羽ばたくのかと思いきや、思いがけない展開がショックでした。“花音”の亡霊が同じ部屋に住む修文の人間関係にまとわりつき、幽霊譚の謎が徐々に明らかになるところも面白い。自分は、夢の船からいつ降りてしまったのだろうかと学生時代を思い出しました。
(ジュンク堂書店 名古屋栄店 西田有里さん)

何かと希求し、仲間と出会い、得たいと思うものに近づいては遠ざかり、やがてそれぞれの道を歩き出す。過ぎ去るものと、それでも人物の中に兆すもの。その美しさがまさに、思い描く「青春小説」そのものでした。作品ごとの企みに満ちた構成も、文体の魔術師と呼ばれるにふさわしい唯一無二の文章も、まるでその場に居合わせているかのような軽妙な会話も大好きです。この先も二十年、三十年と津原さんの新作を読めると思っていたので、本当にさみしいです。
(福岡金文堂 行橋店 富山さん)

間違いなく現代が舞台であるのに、セピア色のフィルターがかかったかのような、ノスタルジックな読み心地に、心が囚われる。現代文学の青春時代と、青春小説が見事にリンクし、青春のまたとない煌めきと共に美しく昇華したように感じる。確かに音楽は何処でも続けることはできる。しかし、若き時に東京で一時、志を同じくする仲間と同船した日々はかけがえのなく、何事にも代え難いものであることを身をもって知る者として、修文の選択は自身の青春時代の終わりとそのまま重なり、切なく胸に迫ってきた。
(ジュンク堂書店 旭川店 松村さん)

独特の読後感とともに、我々がどこかに置いてきてしまった、「青春への憧れ」をもう一度思い出させてくれる作品でした。王道的な青春小説のようで、どこか幻想的で不穏さも見え隠れする津原文学の完成形をこの作品に見た思いがした。
(書原 つつじヶ丘店 坂本さん)

津原泰水ファンはタイトルを目にした時点で「五色の舟」を思い出して、頁を開く前から一筋縄ではいかない登場人物たちと、最大の注意をはらっていても味わい尽くせない軽やかなのに重みのありすぎる文章に翻弄されて、改めて津原泰水という作家と同じ時代を過ごせたよろこびをさみしさと一緒にかみしめることになるでしょう。
(本のがんこ堂 野洲店 原口さん)

同じ夢を持つ人たちとの出会いや憧れのような淡い恋、そして現実。レトロな文体が何とも言えない味になって心に沁みてきました。
(BOOKSジュピター 林さん)

 

全国一部書店にて購入者へ「特別書皮」(ブックカバー)進呈!

『夢分けの船』刊行を記念し、全国一部書店にて、本書購入特典として「特別書皮」(ブックカバー)が進呈されます。

 
津原泰水さんが『夢分けの船』執筆時に使用していた「創作ノート」を全面にあしらった意匠(デザイン)は、本作連載中の「文藝」デザイナー・現在は「スピン/spin」のデザイナーである佐々木暁さんが手掛けました。

 
「OKブリザードH/T」という、ほのかに透ける紙に、津原さん直筆の文字を「銀」色で印刷。本を包み込んだ時、うっすらとカバーの緑が浮き上がるプレミアムなブックカバーが完成しました。

 
※配布書店は河出書房新社SNS、各書店の告知にてご確認ください。
※予定数が無くなり次第、配付終了となります。

『夢分けの船』特別書皮(意匠:佐々木曉さん)

『夢分けの船』特別書皮(意匠:佐々木曉さん)

 

著者プロフィール

津原泰水(つはら・やすみ)さんは、小説家。1964年生まれ、広島県出身。青山学院大学卒業。1989年に少女小説家〈津原やすみ〉としてデビュー。

1997年、〈津原泰水〉名義の長篇ホラーである『妖都』(早川書房)を発表。2011年の短篇集『11 eleven』が第2回Twitter文学賞国内部門第1位、収録作の「五色の舟」はSFマガジン「2014オールタイム・ベストSF」国内短篇部門第1位、また同作は近藤ようこさんにより漫画化され、第18回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門大賞を受賞した。現在は、欧米や中国でも作品が紹介されている。

著書に『綺譚集』(東京創元社)、『11 eleven』(河出書房新社)、『ブラバン』(新潮社)、『バレエ・メカニック』『ヒッキーヒッキーシェイク』(早川書房)、『歌うエスカルゴ』(角川春樹事務所)、共著に宇野亞喜良さん絵、津原泰水さん作、Toshiya Kameiさん英訳『五色の舟』(河出書房新社)などがある。2022年10月2日逝去。

 

夢分けの船
津原 泰水 (著)

幽霊が出ると噂される風月荘704号室を舞台に、「音楽」という夢の船に乗り合わせた人が奏る、切なくも美しい著者最後の青春小説。

ブックデザイン:大島依提亜
装幀写真:横山孝一
写真モデル:絵理子

 


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