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ひとり出版社「風鯨社」から故・駒沢敏器さん『ボイジャーに伝えて』が刊行

駒沢敏器さん著『ボイジャーに伝えて』

駒沢敏器さん著『ボイジャーに伝えて』

ひとり出版社・風鯨社から、2012年に亡くなった駒沢敏器さんの長編小説『ボイジャーに伝えて』が刊行されました。

 

『ボイジャーに伝えて』について

『ボイジャーに伝えて』は、2005年7月~2007年6月の2年間、小学館の小説雑誌『きらら』にて連載されていた小説です。連載終了後、単行本化のための編集のさなかに駒沢敏器さんが逝去したことにより、そのままお蔵入りとなっていたものです。

 
この小説の主人公は、世界中の自然音を録音しながら音の向こうの世界を見出そうとする公平と、レコーディングスタジオで働く恭子。2人が出会ったことにより、物語が始まります。

 
~風にゆれる稲穂を山形で録音しているときに、田んぼの持ち主が面白いことを言いました。「山の神が風になって、稲穂のなかで遊んでいる」と言うのです。僕が探しているものは、もしかしたらそのようなものかもしれません。自然の音に宿っている何か。それを知ることができれば、僕は日本を実感できるのかもしれません。~
(本文より)

 
セント・ギガ(実在したフィールドレコーディングを中心にしたラジオ局)に感銘を受けて自然音を採取し録音作品を作り始めた公平は、見えない音の向こう側にある世界を見出そうと日本を旅し、沖縄にたどり着きます。その旅路の中で恭子という女性と出会う。2人はお互いの存在を通して、それぞれが自分自身のあり方について真摯に模索し続けるという物語です。

『ボイジャーに伝えて』は、世界中を巡りながら紀行文を書いてきた駒沢さんの抱えていたテーマや思想が、フィクションという形で展開された小説なのです。

 
見えない世界を旅する。そのための自然をもっと理解すること。主人公公平が大切なことを今教えてくれる。

~「死を、いま生きている対極に置くんじゃなくて、いのちをいのちたらしめているものとして、自分の中に親密に取りこんで、その死との関係性のなかで生きることが、人生を充実させるように思ったんだ。」~

 
~「きみがいて、いつかそこへ僕は戻る。そういうことを頭に置かないで、録音の旅ができるだろうか。自分のしていることを伝える相手がいないまま、それでも何かをすることは可能だろうか。不在がもたらしてくれる何かがあるとしたらそれだ、と僕は思う。」~
(本文より)

 

著者・駒沢敏器さんについて

著者の駒沢敏器(こまざわ・としき)さんは、ルポルタージュやトラベローグ、小説を中心に、音楽、建築、料理とジャンルを超えて執筆をしていた作家です。

数多くの著作や翻訳を残し、いまでも多くのファンに愛されています。例えば1994年に出版した『伝説のハワイ』は、のちに英訳されハワイ大学の教科書にも使用されるなど、物事の本質や裏面を見抜く鋭い文章で今もなお読む人を魅了し続けています。

 
【プロフィール】

1961年生まれ、東京都出身。雑誌『SWITCH』の編集者を経て、作家・翻訳家に。2012年逝去。

主な著書は、小説に『人生は彼女の腹筋』(小学館)、『夜はもう明けている』(角川書店)、ノンフィクションに『語るに足る、ささやかな人生』(NHK出版/小学館文庫)、『地球を抱いて眠る』(NTT出版/小学館文庫)、『アメリカのパイを買って帰ろう』(日本経済新聞出版)、翻訳に『空から光が降りてくる』(著:ジェイ・マキナニー/講談社)、『魔空の森 ヘックスウッド』(著:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/小学館)、『スカルダガリー』(著:デレク・ランディ/小学館)など。

 
<Morgen Roteについて>

駒沢敏器さんが高校時代に仲間たちと発行し始めたミニコミ雑誌。同じ市内在住の片岡義男さんのポストに毎号投函していたことから片岡さんと知り合い、彼の紹介でスイッチ・パブリッシングに入社したことから、駒沢敏器さんの創作人生が始まりました。

駒沢さんが逝去した際に仲間たちが作成し、数多くの関係者が寄稿した追悼特別号は、Morgen Roteウェブサイト(https://www.tearecipe.net/morgen/special.html)から読むことができます。

 

風鯨社より「今回の出版について」

風鯨社は、女性ひとりで始めたばかりの小さな出版社です。

駒沢敏器さんのファンだった私は、連載「ボイジャーに伝えて」を毎号楽しみに読んでいて、単行本化を心待ちにしていました。しかしその日がこないまま、駒沢さんは亡くなられてしまいました。

ずっと「あの作品が読みたい」と思っていたところ、ご縁で駒沢さんのご親友の平田公一さんと知り合うことができ15年ぶりに読んだ作品は、あの時からまったく色あせることなく、むしろあの時よりももっと鮮明に、心の中に飛び込んできました。

「あぁ、あの人に読んでほしい、この人にも読んでほしい」と知人友人の顔が次々と浮かび、この作品をこのまま眠らせておくのはもったいない。今読むべきメッセージもふんだんに込められている。なんとか世に出せないだろうかと動き出したところ、駒沢さんが作家を志すきっかけとなった冊子「Morgen Rote」を一緒に発行していた平田さんから、当時の担当編集者 稲垣伸寿さんを紹介していただき、このたびの出版となりました。

 
没後10年、「人生は彼女の腹筋」の装丁も手がけた鈴木成一デザイン室に今回も装丁をしていただき、仮フランス装の素晴らしい装丁で『ボイジャーに伝えて』は書籍として出来上がりました。

 
私は、ひとりの読者として、ずっと読みたかった本がついに手元に現れた喜びで胸がいっぱいです。

 
<風鯨社について>

2020年5月、代表の鈴木さんが出版業界未経験のままひとりで始めた出版社。2021年12月に1冊目となる『自分らしさを見つけるための手相の本』を出版。『ボイジャーに伝えて』は2冊目となる。2022年8月に神奈川・小田原に書店「南十字」開業予定。

★風鯨社HP:https://fugeisha.com/
★風鯨社Twitter:https://twitter.com/fugeisha
★南十字(書店)twitter:https://twitter.com/minamijujibooks

 

ボイジャーに伝えて
駒沢 敏器 (著)

「I’m here.」「I’m glad you are there.」
私はここにいる。
あなたがそこにいてよかった……。

世界の本質を鮮やかに描いた慧眼の作家 駒沢敏器が遺した幻の長編小説が、没後10年を経てついに刊行。

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「人が遠い旅を求めるのは、自分のいる場所を知りたいからじゃないだろうか。どこまでも遠くへ行くと、 最後には自分の内面にまで戻ってくるような気がするんだよ」

「死を、いま生きている対極に置くんじゃなくて、いのちをいのちたらしめているものとして、 自分のなかに親密に取りこんで、その死との関係性のなかで生きることが、 人生を充実させるように思ったんだ」
(本文より)

世界の自然音を録音しながら音の向こうの世界を見出そうとする公平と、レコーディングスタジオで働く恭子。
セント・ギガ(実在したフィールドレコーディングを中心にしたラジオ局)に感銘を受けて自然音を採取し録音作品を作り始めた公平は、見えない音の向こう側にある世界を見出そうと日本を旅し、沖縄にたどり着く。その旅路を見守る恭子。2人は、お互いの存在を通してそれぞれ自分自身のあり方について真摯に模索し続けていく。

世界中を巡りながら紀行文を書いてきた駒沢氏の抱えていたテーマや思想が、フィクションという形で展開された作品。

 


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