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【第9回斎藤茂太賞】小坂洋右さん『アイヌの時空を旅する』が受賞 選考委員特別賞に高田晃太郎さん『ロバのスーコと旅をする』

一般社団法人「日本旅行作家協会」(会長:下重暁子さん/会員数180人)は、紀行・旅行記、旅に関するエッセイおよびノンフィクション作品の中から優れた著作を表彰する「第9回斎藤茂太賞」の受賞作を発表しました。

また同時に、旅の持つさまざまな魅力を読者に伝えてくれる優れた書籍を選出した第6回「旅の良書」も発表されました。

 

第9回斎藤茂太賞が決定!

第9回斎藤茂太賞の選考会が5月28日、学士会館にて開催され、受賞作が次の通り決定しました。

 
<第9回斎藤茂太賞 受賞作品>

【斎藤茂太賞】
小坂洋右(こさか・ようすけ)さん
『アイヌの時空を旅する ―奪われぬ魂』(藤原書店)

 
【選考委員特別賞】
高田晃太郎(たかだ・こうたろう)さん
『ロバのスーコと旅をする』(河出書房新社)

 
審査員は、下重暁子さん(作家/日本旅行作家協会会長)、椎名誠さん(作家/日本旅行作家協会名誉会員)、大岡玲さん(作家/東京経済大学教授)、芦原伸さん(ノンフィクション作家/日本旅行作家協会専務理事)、種村国夫さん(イラストレーター・エッセイスト/日本旅行作家協会常任理事)。

第9回斎藤茂太賞の授賞式は東京・内幸町の日本プレスセンター内 レストラン・アラスカにて7月25日(木)に開催予定。

 
なお、第9回斎藤茂太賞の最終候補作は以下の3作品でした。

【最終候補作品】
◎小坂洋右さん『アイヌの時空を旅する――奪われぬ魂』(藤原書店)
◎高田晃太郎さん『ロバのスーコと旅をする』(河出書房新社)
◎石澤義裕さん『今夜世界が終わったとしても、ここにはお知らせが来そうにない。』(WAVE出版)

 

「第9回斎藤茂太賞」選評

 
◆下重暁子さん(作家・日本旅行作家協会会長)

今回はこれまでの同賞の選考でいちばん難しかったように思う。それぞれの作品が際立った特徴をもっており、一長一短あったということだろうか。ただ、私が作品評価のよりどころとするのは、読み終わったあとの印象のインパクトだ。その点で最も心に残ったのは間違いなく『アイヌの時空を旅する――奪われぬ魂』だった。学術的資料や分析、解説が多用され、紀行文としてはたやすく読めるものではないが、実際の歴史事件の現場に立ったことでその息遣いが伝わってくる。優れたノンフィクションとはこうした臨場感だろう。候補3作品の中で、試読を重ねてきた24名の実行委員の評価が最も高かったのが本作品と知り、同感とともに納得した次第である。

 
◆椎名誠さん(作家・日本旅行作家協会名誉会員)

直感的に今年の斎藤茂太賞に選ばれるのは『ロバのスーコと旅をする』だと思った。おもしろさ、読みやすさではナンバーワンだからである。これまでの同賞の受賞作の路線から外れていないように思える。だが、旅の形はさまざまであっていいとはいうものの、文学賞を決定するのはやはり文章力だろう。とすれば3作品のなかでは『アイヌの時空を旅する』が傑出している。ただ、大岡玲委員からも『ロバのスーコと旅をする』も旅のユニークさ、作家の純粋な視線に捨てがたい魅力があるとの発言があり選考委員特別賞をおくることが決まった。

 

斎藤茂太賞について

「斎藤茂太賞」は、長年にわたり世界と日本の旅行文化の発展に貢献した、日本旅行作家協会創立会長の故・斎藤茂太さんの功績をたたえ、その志を引き継ぐために2016年に創設。前年に出版された紀行・旅行記、旅に関するエッセイおよびノンフィクション作品の中から優れた著作を表彰する文学賞です。

 
<斎藤茂太さん プロフィール>

斎藤茂太さんは、1916年(大正5年)、歌人の斎藤茂吉の長男として東京に生まれます。精神医学者としても活躍。日本旅行作家協会の創立会長を長らく務めました。2006年(平成18年)11月20日逝去。作家の北杜夫さんは弟。

日本精神病院協会会長、アルコール健康医学協会会長、日本ペンクラブ理事などを歴任。

著作に『茂吉の体臭』(岩波書店)、『モタさんの“言葉”』(講談社)、『精神科の待合室』(中央公論社)、『モタさんのヒコーキ談義』(旺文社)、『モタさんの世界のりもの狂走曲』(角川学芸出版)など。

 

旅の持つさまざまな魅力を読者に伝えてくれる優れた書籍を選出した第6回「旅の良書」も発表!

「旅の良書」は、基本的に中学生以上を対象として、旅の持つさまざまな魅力を読者に伝えてくれる優れた書籍を選出するものです。斎藤茂太賞の選考過程でセレクトしたすべての作品を対象として、斎藤茂太賞の選考システムを活用して斎藤茂太賞実行委員会が選考・選出し、日本旅行作家協会の理事会の承認を経て認定します。

今年が第6回目の発表となり、日本旅行作家協会選定の「旅の良書」マークを、選ばれた「旅の良書」の版元へ無償で提供します。

 
<第6回「旅の良書」選出作品>

■『今夜世界が終わったとしても、ここにはお知らせが来そうにない。』(石澤義裕さん/WAVE出版)
リモートワークをしながら軽自動車で世界中を旅する夫婦のワクワクドキドキ満載の足掛け7年の旅。旅メディアでも大反響の異色の旅エッセイ。

 
■『まんぷくモンゴル!公邸料理人、大草原で肉を食う』(鈴木裕子さん/産業編集センター)
「あなたモンゴルでも行く?」このひと言で、在モンゴル日本国大使館の公邸料理人になった元給食のおばちゃんだった著者が綴る美味しくて魅力あふれるモンゴル紀行。

 
■『地霊を訪ねる ─もうひとつの日本近代史』(猪木武徳さん/筑摩書房)
日本近代史の舞台を旅し、それぞれの土地が生み出し育んだ多彩な人々を論じた歴史紀行エッセイ。読むたびに新しい発見に出会う知的紀行の傑作。

 
■『草軽電鉄物語 高原の記憶から』(芦原伸さん/信濃毎日新聞社)
かつて軽井沢の駅前と群馬県の名湯草津温泉間の55.5kmを、浅間山麓を越えて結んでいた草軽電気鉄道。その廃線跡をたどりながら古きよき時代に思いをはせる旅。

 
■『旅する桃源郷』(下川裕治さん/産業編集センター)
知る人ぞ知る旅の達人・下川裕治が、これまでの旅で出会った「桃源郷」を自らの人生と重ねながら綴る、旅の魅力を改めて問う珠玉の紀行エッセイ。

 
■『イラク水滸伝』(高野秀行さん/文藝春秋)
最古にして現代最後の湿地帯カオスといわれるイラクの湿地帯。その権力に抗うアウトローやマイノリティの集まる混沌の地への想像を超える驚きの旅。

 
■『海のプール――海辺にある「天然プール」を巡る旅』(清水浩史さん/草思社)
海辺の岩場を掘り、あるいはコンクリートで囲ってつくられた海のプール。北海道から沖縄そして豪州まで、ノスタルジックで野趣あふれる海のプール探訪記。

 
■『ラダック旅遊大全』(山本高樹さん/雷鳥社)
インドの山岳地帯ラダック、ザンスカール、スピティについて紹介するきわめて優れたガイドブック。長年この地方を旅して取材してきた著者なればこそ書けた至高のガイド。

 
■『アジア発酵紀行』(小倉ヒラクさん/文藝春秋)
日本の発酵食のキーともいえる「糀」(麹ではなく糀)のルーツを求めて、中国南部雲南省からネパール、さらにインド北東部まで。壮大な発酵文化を訪ねる旅。

 
■『世界中で言葉のかけらを ─日本語教師の旅と記憶』(山本冴里さん/筑摩書房)
複数言語の意義を訴える日本語教師が、中国雲南省、セルビア、フランス、ブルガリア、ハンガリー、エストニアなど世界の各地を旅して体験した言葉をめぐる旅の記録。

 

アイヌの時空を旅する〔奪われぬ魂〕
小坂 洋右 (著)

カヤックやカヌーや山スキー等で歴史を追体験し
アイヌ民族の世界観や自然観に迫るルポルタージュ

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【目次】
序章 クナシリ・メナシの戦いが「最後の抵抗」だったのか
第1章 モンゴル帝国を恐れさせた強者たち ――カヤック知床一周
第2章 物語世界で暴れまくる ――「敵地」アムールランド滞在記
第3章 人にも鮭にも川は「道」ではなくなった ――太平洋から日本海へ漕ぎ通す
第4章 奪われることのなかった「心の中の聖域」 ――羆吼ゆる山と熊戻渓谷
第5章 「理不尽から逃げる」という生き方――大雪山雪中行
第6章 今も誰かが闘い続けている

謝辞/注/参考文献/人名索引

ロバのスーコと旅をする
高田 晃太郎 (著)

ロバと歩いて旅したい。新聞記者の職を辞し、「私」は旅に出た――。雌ロバ、スーコとの旅路で一躍話題を集めた著者が、朗らかなロバ達と歩いた日々、出会い、別れ、葛藤をしなやかに綴る。

 
【関連】
一般社団法人日本旅行作家協会 – 旅のスペシャリスト集団

 


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