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【第8回斎藤茂太賞】デコート豊崎アリサさん『トゥアレグ 自由への帰路』が受賞

一般社団法人「日本旅行作家協会」(会長:下重暁子さん/会員数180人)は、紀行・旅行記、旅に関するエッセイおよびノンフィクション作品の中から優れた著作を表彰する「第8回斎藤茂太賞」の受賞作を発表しました。

また同時に、旅の持つさまざまな魅力を読者に伝えてくれる優れた書籍を選出した第5回「旅の良書」も発表されました。

 

第8回斎藤茂太賞が決定!

第8回斎藤茂太賞の選考会が5月25日、学士会館にて開催され、受賞作が次の通り決定しました。

 
<第8回斎藤茂太賞 受賞作品>

デコート豊崎アリサ(でこーと・とよさき・ありさ)さん
『トゥアレグ 自由への帰路』(イースト・プレス)

 
審査員は、下重暁子さん(作家/日本旅行作家協会会長)、椎名誠さん(作家/日本旅行作家協会名誉会員)、大岡玲さん(作家/東京経済大学教授)、芦原伸さん(ノンフィクション作家/日本旅行作家協会専務理事)、種村国夫さん(イラストレーター・エッセイスト/日本旅行作家協会常任理事)。

第8回斎藤茂太賞の授賞式は東京・内幸町の日本プレスセンター内 レストラン・アラスカにて7月27日(木)に開催予定。

 
なお、第8回斎藤茂太賞の最終候補作は以下の4作品でした。

【最終候補作品】
◎デコート豊崎アリサさん『トゥアレグ 自由への帰路』(イースト・プレス)
◎横道誠さん『イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記』(文藝春秋)
◎松鳥むうさん『むう風土記』(エイアンドエフ)
◎大石始さん『南洋のソングライン ―幻の屋久島古謡を追って』(キルティ)

 

[選評] 下重暁子さん(作家・日本旅行作家協会会長)より

私は死ぬときは砂漠でと心に決めている。かつて、半年間のエジプト暮らしのなかで、毎日砂漠を眺めながら過ごし、五感を通して砂漠のもつ魅力に浸ったからだ。砂の匂いが好き。砂嵐のあとの何もかもが洗い清められた景色が好き。そんな私だから、砂漠のキャラバンを題材にした旅行記を手にして、心が躍らないわけがない。そして、この『トゥアレグ 自由への帰路』は期待を裏切らないどころか、圧倒的なできばえに心から拍手を送り、「今回はこれで決まり!」と確信した。

 
まず、文章がうまい。日本語の微妙な表現については、お母さんの指導を受けたとあるが、好感のもてる素直な表現で綴られている。描かれる世界は、塩を運ぶラクダのキャラバンだけでなく、アフリカ大陸のど真ん中で起こっているさまざまな問題へと広がっていく。相当危ない目にも遭っていると思うのだが、本書からはそれがほとんど感じられない。実際はどうだったのか、会ったときに聞いてみたい。

 
随所に挿入された写真がこれまたすばらしい。たぐいまれな感性と表現力に恵まれた方なのだろう。なによりも最大の評価点は、キャラバンの暮らしに舞い戻ることによって、ほんとうの自由とは何かについて考え、この重いテーマを本書を通じて現代人につきつけていることだ。それはジャーナリストとしての彼女の矜恃であり、私たちはこの問いかけを無視するわけにはいかないだろう。

 
さて、最終選考に選ばれたのは4冊だが、今回この4冊は全く傾向が違っていて選評にあたってはそれぞれに楽しませていただいた。まず『むう風土記』は、珍味・奇食の旅である。ところが筆者の手にかかると、何やら珍しいおいしそうな郷土食となり、つい手を伸ばしたくなるから不思議だ。好奇心が筆になってしっかり聞き取って書いている。ただこの手の類書は数多くあり、特出すべきところまで達していないところに物足りなさを感じた。まだまだ若いと思われる作者の今後に期待したい。

 
『イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記』は、非常にユニークは作品で審査員の間でも賛否が分かれたが、私はむしろそこに豊かな感性を感じとった。訪れる都市とそこで作者が思い出し紹介する文芸作品の一節が何ともいえない相乗的な効果でその都市の印象記となっていて魅力的である。しかしことさら自分が自閉スペクトラム症であることを強調しすぎる感があった。

 
『南洋のソングライン ―幻の屋久島古謡を追って』は、屋久島にわずかに残る「まつばんだ」という民謡のルーツを訪ねる物語である。現地の仲間と共同作業で音源を追う筆者の姿が爽やかで、発見のひとつひとつが謎解きのドラマのようでもある。このルポルタージュと並行して古謡「まつばんだ」を歌い継ぐ動きも活発化してきているという。地域の見直し、そして活性化の時代を象徴するような作品ともいえるかもしれない。

 
最後に、小さな出版社そして地方の出版社が力量のある作品を出版している現実を今回の選考会で知ることができた。これは高く評価したいことである。

 

斎藤茂太賞について

「斎藤茂太賞」は、長年にわたり世界と日本の旅行文化の発展に貢献した、日本旅行作家協会創立会長の故・斎藤茂太さんの功績をたたえ、その志を引き継ぐために2016年に創設。前年に出版された紀行・旅行記、旅に関するエッセイおよびノンフィクション作品の中から優れた著作を表彰する文学賞です。

 
<斎藤茂太さん プロフィール>

斎藤茂太さんは、1916年(大正5年)、歌人の斎藤茂吉の長男として東京に生まれます。精神医学者としても活躍。日本旅行作家協会の創立会長を長らく務めました。2006年(平成18年)11月20日逝去。作家の北杜夫さんは弟。

日本精神病院協会会長、アルコール健康医学協会会長、日本ペンクラブ理事などを歴任。

著作に『茂吉の体臭』(岩波書店)、『モタさんの“言葉”』(講談社)、『精神科の待合室』(中央公論社)、『モタさんのヒコーキ談義』(旺文社)、『モタさんの世界のりもの狂走曲』(角川学芸出版)など。

 

旅の持つさまざまな魅力を読者に伝えてくれる優れた書籍を選出した第5回「旅の良書」も発表!

「旅の良書」は、基本的に中学生以上を対象として、旅の持つさまざまな魅力を読者に伝えてくれる優れた書籍を選出するものです。斎藤茂太賞の選考過程でセレクトしたすべての作品を対象として、斎藤茂太賞の選考システムを活用して斎藤茂太賞実行委員会が選考・選出し、日本旅行作家協会の理事会の承認を経て認定します。

今年が第5回目の発表となり、日本旅行作家協会選定の「旅の良書」マークを、選ばれた「旅の良書」の版元へ無償で提供します。

 
<第5回「旅の良書」選出作品>

■『水中考古学 地球最後のフロンティア』(佐々木ランディさん/エクスナレッッジ)
日本ではまだマイナーな沈没船や水中遺跡などから歴史を紐解く水中考古学。その魅力と価値を実際の遺跡や研究成果を交えて分かりやすく紹介するノンフィクション。

 
■『2000日の海外放浪の果てにたどり着いたのは山奥の集落の一番上だった』(坂本治郎さん/書肆侃侃房)
社会になじめず海外放浪の旅に出た著者がたどり着いたのは、山奥の古民家だった。本当の豊かさを模索する人へ贈る、新たな人生のヒントが見つかる物語。

 
■『旅のことばを読む』(小柳淳さん/書肆梓)
旅の楽しみを普段の暮らしの中でも味わいたいと感じる筆者が、これまでに出会ってきた旅のことば=本を紹介しながら綴る旅のエッセイ。

 
■『北海道廃線紀行 ─草原の記憶をたどって』(芦原伸さん/筑摩書房)
戦後、産業構造が変容し約4割もの鉄道が消滅した北海道の廃線跡を訪ね、地域の栄枯盛衰やそこに生きた人々の息遣いを活写する1冊。

 
■『旅は旨くて、時々苦い』(山本高樹さん/産業編集センター)
30年以上にもわたり世界各地を旅してきた著者が旅先で出会った数々の「食」を旅の日々とともに綴る紀行短編集。

 
■『ニッポンの鉄道150年 蒸気機関車から新幹線、リニアへ』(野田隆さん/平凡社)
2022年に開業から150年の節目を迎えた日本の鉄道。鉄道旅のエキスパートがその歴史をおもなトピックで振り返る。

 
■『日本全国タイル遊覧』(吉田真紀さん/書肆侃侃房)
タイル偏愛歴18年の著者が、北海道から沖縄まで、タイル探しの旅で出会った珠玉のタイルを紹介するビジュアル紀行文。タイルへの愛と魅力がつまった1冊。

 
■『天路の旅人』(沢木耕太郎さん/新潮社)
第二次大戦時、密偵として中国大陸の奥深くまで潜入した西川一三氏の旅は、敗戦後も終わることなく続けられた。彼の果てしない旅と人生を描き出した大型ノンフィクション。

 
■『イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記』(横道誠/文藝春秋)
自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症とを併発した文学研究者が世界を旅した回顧録。圧倒的に美しく、知的興奮に満ちた当事者紀行である。

 
■『むう風土記』(松鳥むうさん/エイアンドエフ)
イラストエッセイストである著者が現代の日本では失われつつある食文化や伝統行事などを求め各地を旅する。魅力的で愛らしいイラスト満載の紀行エッセイ。

 
■『南洋のソングライン ―幻の屋久島古謡を追って』(大石始さん/キルティ)
沖縄、薩摩半島、そして屋久島へ。屋久島の生活のさまざまな場面で歌われていた幻の古謡「まつばんだ」の謎を追うノンフィクション。

 

トゥアレグ 自由への帰路
デコート豊崎アリサ (著)

本当の自由はどこにあるのか?

「本物の世界」を求めて、遊牧民の暮らすアフリカに旅に出たら、
そこで待っていたのは放射能に汚染された砂漠だった。

 
サハラ砂漠の遊牧民トゥアレグ族の日常は、生死を賭けた大冒険だった。ラクダを購入し、ソーラーパネルを担いで、サハラ砂漠で1000年以上前から続く塩キャラバンに帯同、ニジェールでラクダを保有し、「本物の世界」を体験できる砂漠ツアーを主催する著者。トゥアレグと結婚し、日本、フランス、アフリカと3つの拠点を行き来しながら20年以上にわたり取材をして見えてきたトゥアレグの実態と魅力とは。この時代に、トラックではなく、わざわざラクダを使って交易をするのはなぜなのか? 本当の自由はどこにあるのか?

 
各氏、推薦!

「砂漠のブルーズ」で注目されたトゥアレグ族。ラクダでサハラを横断するキャラバンに同行するドキュメンタリーを撮ったアリサは、放射能汚染や近代化に脅かされる彼らの世界の行方を勇気ある取材で記録しています。
ピーター・バラカン[ブロードキャスター]

テネレ砂漠に霞む『風の樹』を見おさめると、砂嵐に追い立てられるようにオレは走り去った。その一週間後の『風の樹』を目撃した人と、20年後に大駱駝艦の楽屋で会ったのは奇跡である。
篠原勝之(KUMA)[ゲージツ家]

「サハラ砂漠の最深部で、ラクダの塩キャラバンに同行した記録の美しさに息を呑んだ。著者はトゥアレグの人に「ティシューマルト(放浪する女)」と言われた日系フランス人女性。フランス語が通じない人々の中にもタマシェク語で接しながら入っていく。
石田昌隆[フォトグラファー]

 
【関連】
JTWO日本旅行作家協会

 


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