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【第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞】小川真利枝さん『パンと牢獄』と小松由佳さん『人間の土地へ』が受賞

第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞が決定!

第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞が決定!

一般財団法人「山本美香記念財団」は、優れた国際報道を担うジャーナリストを顕彰する「第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞」の受賞者・受賞作品を発表しました。

 

第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞が決定!

第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞は、5月5日に選考会が開催され、本年度は本賞に2作品の顕彰を決定、下記の受賞者に贈呈することとなりました。

 
<第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞 受賞者・受賞作品(賞:賞金20万円、受賞盾)>

◎小川真利枝(おがわ・まりえ)さん(ドキュメンタリー作家)
『パンと牢獄 チベット政治犯ドゥンドゥップと妻の亡命ノート』(集英社クリエイティブ)

小川真利枝さん

小川真利枝さん

◎小松由佳(こまつ・ゆか)さん(フォトグラファー)
『人間の土地へ』(集英社インターナショナル)

小松由佳さん

小松由佳さん

 
受賞者の小川真利枝さんは、1983年フィリピン生まれ、千葉県育ち。早稲田大学教育学部卒業。ドキュメンタリー作家。2007年テレビ番組制作会社に入社、2009年に退社し、フリーのディレクターに。ラジオドキュメンタリー「原爆の惨禍を生き抜いて」(2017年/文化庁芸術祭出品、放送文化基金賞奨励賞)、ドキュメンタリー映画「ソナム」(2014年)、「ラモツォの亡命ノート」(2017年)、ラジオドキュメンタリー「10年目の福島からあなたへ~詩人・和合亮一が刻む生きることば」(2021年/NHK放送総局長特賞)ラジオドキュメンタリー『原爆の惨禍を生き抜いて』(2017/文化庁芸術祭出品、放送文化基金賞奨励賞)などを制作。今回の受賞作が初めての著作。

同じく受賞者の小松由佳さんは、1982年秋田県生まれ。2006年、世界第2位の高峰「K2」に日本人女性として初登頂(世界では女性8人目)し、植村直己冒険賞などを授賞。草原や沙漠など自然と共に生きる人間の暮らしに惹かれ、旅をするなかで知り合ったシリア人男性と結婚。2012年からシリア内戦・難民をテーマに撮影。著書に『オリーブの丘へ続くシリアの小道で ふるさとを失った難民たちの日々』(河出書房新社)。

 
選考委員は、岡村隆さん(編集者、探検家)、笠井千晶さん(ドキュメンタリー監督・ジャーナリスト)、河合香織さん(ノンフィクション作家)、高山文彦さん(作家)、吉田敏浩さん(ジャーナリスト)。

 
授賞式は、5月26日(水)18時より日本記者クラブで開催。なお、コロナウイルス感染症の影響で延期された昨年度の第7回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」の授賞式も併せて行ないます。
※入場は報道および関係者のみ。また、授賞式、受賞者へのインタビューなどは後日、YouTubeにて配信予定。

 

「第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞」選考委員講評

難しい選考だった。少し視点をずらして見れば、どれが大賞であってもおかしくない候補作がそろった。したがって、選考会は主にその「視点」をめぐっての議論となった。

 
小川真利枝さんの「パンと牢獄」が文章表現に最も優れ、チベット難民女性の苦悩と、それとは裏腹のダイナミックな動きを追うことで問題の世界的広がりを示し、生き方への共感を呼んだ。

 
また、小松由佳さんの「人間の土地へ」はシリア内戦や難民の生活実態を、自身が当事者となったことで、その背景文化まで遡って内側から丹念に描いた稀有な作品であることがともに評価され、二作同時受賞となった。

 

山本美香記念国際ジャーナリスト賞について

山本美香記念国際ジャーナリスト賞は、2012年8月20日、シリア取材中に凶弾に倒れたジャパンプレス所属のジャーナリスト・山本美香さんの遺志を継ぐべく創設。

世界中で起こっている様々な紛争や抑圧、災害や貧困などの下で暮らす様々な人々の生きる姿を伝える優れた国際報道を担うジャーナリストの支援、育成を目的とします。

 
世界の不正義や不条理に対して何がどのように不正義で不条理であるのか、伝聞ではなく自分自身の目と耳でとらえ、世界中に発信しようとするタフな行動力。
また、それらの国々や地域において、生死のはざまをそれでも懸命に生きていこうとする人びとの姿を深い共感をもって世界中に伝えようとするヒューマニスティックな視座。

――本賞はその二つを併せ持つ国際報道をおこなったジャーナリストを選考の対象とし顕彰を行ないます。

★一般財団法人山本美香記念財団ウェブサイト:http://www.mymf.or.jp/

 

パンと牢獄 チベット政治犯ドゥンドゥップと妻の亡命ノート
小川 真利枝 (著)

チベット人の真意を映す映画を撮影したことで、中国で囚われの身になり、獄中で「国際報道自由賞」を受賞したドゥンドゥップ・ワンチェン。
インドのダラムサラで道端のパン売りから始め、ついにはアメリカに亡命して、家族を養い、夫の釈放を待ち続けた妻ラモ・ツォ。
この夫婦と4人の子どもたちの、十年の軌跡を追ったノンフィクション。

2017年12月25日、あるチベット政治犯が、故郷のチベットからスイスを経て米国への亡命に成功した。
このニュースは、ニューヨークタイムズを皮切りに、驚きをもって世界中で報じられた。
男の名はドゥンドゥップ・ワンチェン。2008年、北京五輪開催直前に、チベット人にインタビューした映画『恐怖を乗り越えて』をつくり、国家分裂扇動罪で懲役6年を宣告された。
作品は世界中で上映され、彼は獄中にいながらにして「国際報道自由賞」を受賞する。
しかし、拷問をふくむ過酷な獄中生活を終えたのちに彼を待っていたのは、軟禁生活だった。
一方、夫の活動について何も知らなかった妻ラモ・ツォは、チベット亡命政府のあるインド・ダラムサラで夫逮捕の知らせを受け取り、難民となった。
読み書きのできなかった彼女は、道端のパン売りから始め、子どもたち4人とともにしなやかに逞しく生き抜いていく。
家族は、再び共に生きることができるのか――?

チベット文化に魅かれて滞在していたインド・ダラムサラで、道端でパンを売るラモ・ツォに出会い、彼女とその家族を十年間追い続けた著者のデビュー作。

人間の土地へ
小松 由佳 (著)

世界で最も困難な山、K2に日本人女性として初登頂した著者と、今世紀最大の人道危機、シリア内戦に翻弄された沙漠の男。
平和な沙漠の民が内戦の大きな渦に巻き込まれていく様を二人の目を通し、内側から描いたノンフィクション。

角幡唯介、ヤマザキマリ 絶賛!

角幡唯介
「小松さんが山を下りてから
どういう生き方をしているのか気になっていた。
混迷のシリアで人間の生の条件を見つづけた彼女の記録は、
とても貴重だ」

ヤマザキマリ
「登山で知った自然界の過酷を、
シリアの混乱と向き合うエネルギーに昇華させ、
全身全霊で地球を生きる女性の姿がここにある」

 
世界第2の高峰K2に日本人女性として初めて登頂した小松由佳。
標高8200メートルでビバークを余儀なくされた小松は、命からがら下山し、自分が大きな時間の流れの中で生かされているにすぎないと知る。
シリア沙漠で出会った半遊牧民の男性、ラドワンと恋に落ち、やがて彼の大家族の一員として受け入れられる。
平和だったシリアにも「アラブの春」の波は訪れ、百頭のラクダと共に長閑に暮らしていた一家も、否応なく内戦に巻き込まれていく。
徴兵により政府軍兵士となったラドワンだが、同胞に銃は向けられないと軍を脱走し、難民となる。しかし安全を手にしたはずのヨルダンで、難民としての境遇に悩み、再び戦場であるシリアに自らの生きる意味を求めようとする。
小松とラドワンは、お互いの文化の壁に戸惑いながらも、明日の希望に向かって歩み続ける。

 
【関連】
第8回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」 決定 | 財団法人 山本美香記念財団(Mika Yamamoto Memorial Foundation)

 


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