半藤一利さんが孫娘の編集者に託した最後の原稿『戦争というもの』が刊行
半藤一利さん著『戦争というもの』が、PHP研究所より5月13日に刊行されました。
本書は、1月12日に亡くなった、作家で昭和史研究の第一人者・半藤一利さんの最後の連載を書籍化したものです。著者自らが企画し、若い世代に向けて太平洋戦争下で知られた名言・スローガンを紹介しながら、開戦から終戦に至る日本と日本人のあり方をもとに、自身の戦争体験を踏まえて「戦争というもの」の本質を解説します。
入院先から孫の編集者に託した1枚の企画書
2019年8月、転倒して骨折・入院した著者は、翌年にコロナ禍が発生すると、肉親の見舞いもままならないなか、1枚の企画書を孫でPHP研究所の文芸編集者・北村淳子さんに託します。半藤さんが執筆する条件は「北村自身が担当すること」、 仮タイトルは「孫に知ってほしい太平洋戦争の名言 37」とありました。
2020年は「数え年で太平洋戦争開戦80年にあたる」という趣旨のもと、月刊誌『歴史街道』での連載が決定。『歴史街道』編集長、副編集長のバックアップの元、特例で文芸編集者である北村さんが担当となり、2020年8月号から12月号まで連載されました。
令和を生きる世代へのメッセージ
2021年1月12日に、半藤さんは90歳で逝去します。出版に向けた加筆もままならず、言葉の数は当初案の「37」から「14」となりましたが、開戦から終戦までをたどりながら、わかりやすい語り口でつづられています。
少年時代に東京大空襲で自宅を焼かれ、炎に追われて九死に一生を得た戦争体験を踏まえ、「なぜあの戦争は起きたのか、なぜ多大な犠牲者を出して悲劇的な敗北に終わったか」を、1950年代から戦争指導者の生き残りに取材し、膨大な文献を渉猟して答えを探し続けた作家・半藤一利さん。昭和史研究・戦史研究の第一人者として、長年にわたり数多くの作品を世に問うてきた著者が憂えていたのは、日本と米国の大戦争を知らない人が少なからずいるという現実でした。
本書は、「令和」を生きる世代に送る著者からの最後のメッセージです。
<本書「まえがき」より>
その惨たる三年八カ月の間に、教訓になるようないい話があるべきはずはない、と思われますが、あながちそうでもない。そんなものはないといい切るのは、人間は歴史から何も学ばないことを告白するにひとしいと考えます。
太平洋戦争で亡くなった三百二十万人の人たちはいまのなお、わたくしたちに語りかけています。すなわち戦争が悲惨、残酷、そして非人間的であるということを。さらに、空しいということを。
本書で採用された戦時下「14の名言」
◇一に平和を守らんがためである(山本五十六)
◇バスに乗り遅れるな(大流行のスローガン)
◇理想のために国を滅ぼしてはならない(若槻礼次郎)
◇大日本は神国なり(北畠親房)
◇アジアは一つ(岡倉天心)
◇タコの遺骨はいつ還る(流行歌「湖畔宿」の替え歌)
◇敗因は驕慢の一語に尽きる(草鹿龍之介)
◇欲しがりません勝つまでは(国民学校五年生の女子)
◇太平洋の防波堤となるのである(栗林忠道)
◇武士道というは死ぬ事と見付けたり(山本常朝)
◇特攻作戦中止、帰投せよ(伊藤整一)
◇沖縄県民斯く戦へり(大田実)
◇しかし――捕虜にはなるな(西平英夫)
◇予の判断は外れたり(河辺虎四郎)
通読すると、1941年12月から1945年8月に至る太平洋戦争の流れや、「戦争」がどのようにして起こり、なぜ悲惨な結末を迎えたのかが俯瞰して理解できます。
著者プロフィール
著者の半藤一利(はんどう・かずとし)さんは、1930(昭和5)年、東京生まれ。東京大学卒業後、文藝春秋に入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長、専務取締役などを経て、作家となる。
1993(平成5)年『漱石先生ぞな、もし』で新田次郎文学賞、1998年『ノモンハンの夏』で山本七平賞、2006年『昭和史 1926-1945』『昭和史 戦後篇 1945-1989』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。
『決定版 日本のいちばん長い日』『聖断―昭和天皇と鈴木貫太郎―』『山本五十六』『ソ連が満洲に侵攻した夏』『清張さんと司馬さん』『隅田川の向う側』『あの戦争と日本人』『日露戦争史』など多数の著書がある。
戦争というもの 半藤 一利 (著) 『昭和史』や『日本のいちばん長い日』など、数々のベストセラーを遺した昭和史研究の第一人者・半藤一利が、最後に日本人に伝え残したかったこととは――。 本書では、太平洋戦争下で発せられた軍人たちの言葉や、流行したスローガンなど、あの戦争を理解する上で欠かせない「名言」の意味とその背景を、著者ならではの平易な文体で解説する。 「戦争の残虐さ、空しさに、どんな衝撃を受けたとしても、受けすぎるということはありません。破壊力の無制限の大きさ、非情さについて、いくらでも語りつづけたほうがいい。いまはそう思うのです。 |
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