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【第7回山本美香記念国際ジャーナリスト賞】坪井兵輔さん『歌は分断を越えて』が受賞 奨励賞に大矢英代さん『沖縄「戦争マラリア」』

一般財団法人「山本美香記念財団」は5月20日、優れた国際報道を担うジャーナリストを顕彰する「第7回山本美香記念国際ジャーナリスト賞」の受賞者・受賞作品を発表しました。

 

第7回山本美香記念国際ジャーナリスト賞が決定!

第7回山本美香記念国際ジャーナリスト賞は、5月5日に選考会が開催され、本賞と奨励賞の2作品の顕彰が次の通り決定しました。

 
<第7回山本美香記念国際ジャーナリスト賞 受賞者・受賞作品>

■山本美香記念国際ジャーナリスト賞(賞:賞金30万円、受賞盾)

坪井兵輔(つぼい・ひょうすけ)さん〔ジャーナリスト/48歳〕
『歌は分断を越えて 在日コリアン二世のソプラノ歌手・金桂仙』(新泉社)

※在日コリアン二世のソプラノ歌手の歩みを丹念に描いた著書

坪井兵輔さん

坪井兵輔さん

■奨励賞(賞:賞金10万円)

大矢英代(おおや・はなよ)さん〔ジャーナリスト・ドキュメンタリー映画監督/33歳〕
『沖縄「戦争マラリア」―強制疎開死3600人の真相に迫る』(あけび書房)

※沖縄戦において強制疎開させられ、マラリアで命を落とした八重山諸島の人々の歴史を掘り起こした著書

大矢英代さん

大矢英代さん

 
本賞を受賞した坪井兵輔さんは、1971年大阪府出身。阪南大学国際コミュニケーション学部准教授(ジャーナリズム論)。慶応義塾大学経済学部卒業後、MBS毎日放送に入社。記者およびディレクターとして、テレビ・ラジオで報道番組の制作を担当。同社ベルリン支局特派員、TV報道局ドキュメンタリー専属ディレクター等を務め、2017年より現職。

奨励賞を受賞した大矢英代さんは、1987年千葉県出身。琉球朝日放送記者を経て、フリージャーナリスト、映画監督。ドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』(2018年・三上智恵さんとの共同監督)で文化庁映画賞優秀賞、第92回キネマ旬報ベスト・テン文化映画部門1位など多数受賞。2018年フルブライト 奨学金制度で渡米。以降、米国を拠点に軍隊・国家の構造的暴力をテーマに取材を続ける。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース修士課程修了(2012年)。現在、カリフォルニア大学バークレー校ならびに早稲田大学ジャーナリズム研究所客員研究員。

 
選考委員は、川上泰徳さん(ジャーナリスト、元朝日新聞中東アフリカ総局長)、最相葉月さん(ノンフィクション・ライター)、関野吉晴さん(探検家)、野中章弘さん(アジアプレス・インターナショナル代表)、吉田敏浩さん(ジャーナリスト)。

なお、5月26日に予定されていた今年度の授賞式、および受賞者を交えたシンポジウム「ジャーナリズムと民主主義」は、新型コロナウイルス禍における状況をふまえ、開催時期を決めずに延期と決定されました。今後の状況の推移を見つつ、改めて開催時期を検討のうえ、発表される予定です。

 

「第7回山本美香記念国際ジャーナリスト賞」選考委員講評

 
■坪井兵輔さん『歌は分断を越えて 在日コリアン二世のソプラノ歌手・金桂仙』

この作品は、在日コリアン問題が国際ジャーナリズムの重要なテーマであることを再認識させてくれた。朝鮮半島と日本の国境を越え、社会の偏見・差別による分断も越えて、懸け橋となるべく懸命にその歌を届けようと試行錯誤する姿が丹念に描かれ、引き込まれる。

日本と韓国・北朝鮮、在日という国や社会の関係性の中で生きる。しかし個人の中に多様性を抱えることが実はどれほど苦しいことか。ヘイトや社会の分断が顕著化するいま、旧来のテーマでありながら現代性と普遍性を持つこの作品は受賞にふさわしいと考える。

 
■大矢英代さん『沖縄「戦争マラリア」―強制疎開死3600人の真相に迫る』

沖縄戦における防諜対策で強制疎開させられた八重山地方の島民が、3600人以上もマラリアで死亡した。現地に長期滞在する中で住民と交流し、丹念に取材を重ねて戦時下の歴史を掘り起こした。近年の八重山への自衛隊配備が再び島民に戦争の犠牲を強いかねない状況にも警鐘を鳴らす。将来性に大いに期待が持てるジャーナリストの登場を感じた。

 

山本美香記念国際ジャーナリスト賞について

山本美香記念国際ジャーナリスト賞は、2012年8月20日、シリア取材中に凶弾に倒れたジャパンプレス所属のジャーナリスト・山本美香さんの遺志を継ぐべく創設。

世界中で起こっている様々な紛争や抑圧、災害や貧困などの下で暮らす様々な人々の生きる姿を伝える優れた国際報道を担うジャーナリストの支援、育成を目的とします。

 
世界の不正義や不条理に対して何がどのように不正義で不条理であるのか、伝聞ではなく自分自身の目と耳でとらえ、世界中に発信しようとするタフな行動力。
また、それらの国々や地域において、生死のはざまをそれでも懸命に生きていこうとする人びとの姿を深い共感をもって世界中に伝えようとするヒューマニスティックな視座。

――本賞はその二つを併せ持つ国際報道をおこなったジャーナリストを選考の対象とし、受賞者には楯と賞金30万円を贈呈します。

★一般財団法人山本美香記念財団ウェブサイト:http://www.mymf.or.jp/

 

歌は分断を越えて―在日コリアン二世のソプラノ歌手・金桂仙 (阪南大学叢書)
坪井 兵輔 (著)

「歌で”故郷”を届けたいと願っています」
大阪生まれの在日コリアン二世のソプラノ歌手として、朝鮮半島や日本に伝わる曲を歌い続ける金桂仙(キム・ケソン)。妻として、母として、嫁としての役割を生き、若き日に歌の道を諦め、48歳で音楽大学に入学し、歌手として再生した。元毎日放送ディレクターである著者がロングインタビューに基づく取材をおこない、そのライフヒストリーをはじめてまとめた。
朝鮮半島と日本、韓国と北朝鮮の「分断」。歴史の痛みに、歌で寄り添うことはできるのか。ひとりの在日女性の波乱万丈の生涯を通じて、多文化共生のあり方を問う。

沖縄「戦争マラリア」―強制疎開死3600人の真相に迫る
大矢英代 (著)

日本で唯一の地上戦が起きた沖縄。しかし戦闘のなかった八重山諸島で3600人もの住民が死んだ。誰によって、なぜ、これほどの住民が死に至ったのか?
映画『沖縄スパイ戦史』の共同監督が沖縄戦の最暗部に迫ったルポルタージュ。
そして、明らかになったのは、軍命による強制移住、住民のためではなく、軍のための強制移住、住民からは「マラリア有病地」と恐れられていた地への強制移住、それが引き起こしたマラリアによる膨大な病死。
これが沖縄で「もうひとつの沖縄戦」と呼ばれてきた「戦争マラリア」だ。
10年にわたる長期取材で迫った、75年前の住民犠牲の実態。それは地下水脈のごとく、今現在、私たちの足元へと続いていた…。
「戦争マラリア」の事実を多くの方に伝えるための大労作であると同時に、ジャーナリストとしての誠実さ、気概が伝わる一冊、そして、ジャーナリズムの社会的責務を考え合う一冊でもある。
推薦:金平茂紀、望月衣塑子、ジャン・ユンカーマン

 
【関連】
第7回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」 決定 | 財団法人 山本美香記念財団(Mika Yamamoto Memorial Foundation)

 


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