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『難民の人類学 タイ・ビルマ国境のカレンニー難民の移動と定住』難民や支援のあり方を文化人類学の観点から問い直す

『難民の人類学 タイ・ビルマ国境のカレンニー難民の移動と定住』難民や支援のあり方を文化人類学の観点から問い直す

『難民の人類学 タイ・ビルマ国境のカレンニー難民の移動と定住』難民や支援のあり方を文化人類学の観点から問い直す

大妻女子大学准教授・久保忠行さん著『難民の人類学 タイ・ビルマ国境のカレンニー難民の移動と定住』が清水弘文堂書房より発売中です。

 

ビルマ山岳部のカヤー州に暮らす民族の多くが難民化

「首長族」としても知られ、ビルマ(ミャンマー)のタイ国境付近に暮らす「カヤン」の人びとの多くが、難民化していることをご存知でしょうか。

カヤンを含む、ビルマ山岳部のカヤー州に暮らす諸民族の人びとは「カレンニー」と呼ばれています。このうち国内外の難民キャンプへ避難している人は10万を超え、カヤー州総人口の27%に及ぶとも報告されています(2008年)。

本書は、日本ではほとんど知られていないビルマ・タイのカレンニー難民キャンプやアメリカの再定住地を丹念にフィールドワークし、難民や支援のあり方を文化人類学の観点から問い直す研究書です。

 

「問題は、難民というラベルが突きつける固定観念である。」

ビルマ(※)は複数の難民問題を抱えていますが、本書ではとくにタイ国境に接するカヤー州を出身とする「カレンニー難民」に注目しています。カレンニーには、「首長族」として知られるカヤンの人びとも含まれています。

本書では、一般に「難民」と呼ばれている人びとに直接話を聞き、生活や状況、考え方、歴史的背景や難民となった経緯などを丹念に検討しています。そして、目前にいる困難な状況にある人と、「難民」というラベルとを一度引き離し、改めて「難民」とは何なのか、彼らへの支援とはどういうことなのかを、人類学の観点から捉えなおします。

ビルマ国内の難民キャンプ、隣国タイの難民キャンプ、米国の再定住地域、そのどこにもカレンニー難民が暮らしています。住んでいた場所を離れ、困難な状況にあることは共通していますが、筆者の調査からは、それぞれの生活や置かれた状況、故郷との関係など、近くへ寄りそうことではじめて見える細かな違いが浮かびあがってきます。

本書は、2004~2013年にかけて、タイ、ビルマ、アメリカでおこなった現地調査にもとづいています。

(※)本書では「ミャンマー」ではなく「ビルマ」を使用しています。これは、本書のインフォーマントである難民がビルマと呼んでいることや、元々ビルマとミャンマーは口語と文語の違いでしかないことなどによります(本文には選択の理由についてさらに詳細な説明があります)。

 

『難民の人類学』の本文より

「迫害される少数民族」が難民になるという図式は、書物から学んだものと一致する。そうした話に触れるたびに、まるで自分が歴史の証人になったような気になり、背筋が伸びる思いをした。
しかし、困難な経験を自ら語る「迫害される少数民族」に出会うたびに、違和感を覚えることもあった。それは、まるで迫害の経験が定型化されているのではないか、というものである。〈中略〉難民に無力さがともなうことには違いはない。しかし、それを主張するという行為に、人間が生きるうえでのたくましさを感じるとともに、一般的な難民イメージでは難民を適切に理解できないのではないかと考えるようになった。
〈中略〉そこで、本書では難民というラベルの意味を検討しつつ、当事者が難民であることを受容し、ときに利用しながら生きる姿を明らかにする。
――緒言「問題の所在」より

 

『難民の人類学』 目次

 
■第一部 分離 ―― 越境する難民
第一章 難民研究の視座
第二章 紛争と難民の越境
第三章 難民キャンプという社会空間

■第二部 過渡 ―― 難民として生きる
第四章 難民の生活世界
第五章 故郷とのつながり
第六章 難民の帰属意識

■第三部 再統合 ―― 国民国家のなかの難民
第七章 庇護国で暮らす難民
第八章 第三国への再定住
第九章 難民帰還の可能性

 

久保忠行さん プロフィール

著者の久保忠行(くぼ・ただゆき)さんは、1980年兵庫県生まれ。2001年、はじめての海外旅行先のタイでカヤン観光村を訪問したことがきっかけで難民について知る。人びとの生き抜くちからに魅了されて難民の定住地で調査を実施。これまでに、タイ、ビルマ(ミャンマー)、日本、アメリカでフィールドワークをおこなう。

神戸大学大学院総合人間科学研究科博士課程修了(博士・学術)。日本学術振興会・特別研究員PD(京都大学東南アジア研究所)、立命館大学衣笠総合研究機構・専門研究員を経て、現在、大妻女子大学比較文化学部・准教授。専攻は、人類学、移民・難民研究、東南アジア地域研究。

著書に『ミャンマー概説』(めこん、2011年、共著書)、『ミャンマーを知るための60章』(明石書店、2013年、共著)、『社会的包摂/排除の人類学:開発・難民・福祉』(昭和堂、2014年、共著)、『衣食住からの発見』(古今書院、2014年、共著)など。

 

難民の人類学: タイ・ビルマ国境のカレンニー難民の移動と定住
問題は、難民というラベルが突きつける固定観念である。

故郷を追われ、難民キャンプや遠く離れた国で暮らす難民たち。ビルマ(ミャンマー)、タイ、アメリカでたくましく生きる姿を丹念に追い、その姿に新しい光をあてるフィールドワーク。

タイ・ビルマ(ミャンマー)国境の難民キャンプや再定住先のアメリカで暮らすカレンニー難民を丹念に追ったフィールドワーク。「分離」「過渡」「再統合」の三段階を記述し、見過ごされてきた難民の側面を明らかにする。

日本図書館協会選定図書(第2929回 平成26年11月19日選定)

 


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