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『さいごの散歩道』この手で母を介護し、この手で母を殺めた─―実際の介護殺人をもとにした社会派絵本 社会が抱える介護問題について各専門家の解説付き

『さいごの散歩道』(著:長嶺超輝さん/イラスト:夜久かおりさん)

『さいごの散歩道』(著:長嶺超輝さん/イラスト:夜久かおりさん)

2006年に京都市伏見区で発生した介護殺人をもとに、約1年を費やして制作された社会派絵本『さいごの散歩道』(著:長嶺超輝さん/イラスト:夜久かおりさん)が、雷鳥社より刊行されました。

この事件は、被告人である息子の行動に裁判官が涙し、「地裁が泣いた」と各メディアで大きく取り上げられました。

 

介護の悩みは、どの家庭でも起こりうる

現在、日本国内の要介護(要支援)認定者数は649.3万人(2018年9月 厚生労働省)で、増加の一途を辿っており、介護はほとんどの家庭で身近な問題となっています。

その上、約60万人といわれている、ひきこもりの中高年と後期高齢者の親が抱える「8050問題」。今後、親が介護状態になった時に、孤立や困窮に苦しむ家庭が急増することが予想されます。

 
人とコミュニケーションが取れない状態で、親の介護を背負い、金銭的余裕もなく、誰にも相談ができない─―。介護殺人の7割が息子による犯行という調査もあります(日本福祉大・湯原悦子准教授 1998年~2015年)。

 

介護はもはや個人的問題ではなく、社会問題

事件が起こるまでに一体何が起きていたのか、なぜ誰にも相談ができなかったのか?
問題に対してすこしでも理解があると、この先何か解決の糸口が見つかるかもしれません。

 
<本書による問題提起>

◎「他人に迷惑をかけたくない」と誰にも相談できずに孤立する人に対し、話を聞ける環境をどのように設けるのか?
◎介護殺人の加害者はほとんど男性であるという事実。女性と比べて心理的にSOSを出しづらいと予想される。
◎介護保険を使えたとしても、仕事を失った場合、自己負担すら支払えなくなる恐れがある。
◎介護離職の状態で生活保護を申請しても、就労可能なことを理由に認められない場合がありうる。

 
巻末には、弁護士・臨床心理士・介護離職防止アドバイザーによる解説も付いています。それぞれの立場から事件を立証し、「どうすれば防げたのか?」と、根本的な原因を追及します。

 

さいごの散歩道
長嶺 超輝 (著), 夜久 かおり (著)

もしも大切な人が『要介護』になったとき、あなたはどうしますか?
本書は、大人と子どもが一緒に読んで、これからを考えるための絵本です。

この手で母を介護し、この手で母を殺めた。
キリッと澄みわたる寒空の下、ある冬の日のことだった。
駆ける列車、揺れる車内。
窓を流れる風景を、無邪気に楽しむ母。
母が腰かける車いすを、背後で支えるハル。
ハルは、すでに限界を感じていた。
精神的に、肉体的に。
そして、経済的にも。
だが、これ以上、誰にも迷惑は掛けられない。
終点の駅名がアナウンスされた。
幾重にも連なる人の壁をかすめるように、車両がホームへと滑り込んでいく。
扉が開き、ハルはホームへ車いすを押し出し、エレベーターで改札階へ降りる。
ふたりにとって、さいごの散歩道の始まりだった。
◇この絵本は、2006年に京都で実際に起きた事件をモチーフにした物語です。
現実の事件をもとに、家庭内介護や生活保護行政のあり方など、現代の日本社会が抱える歪みが、最悪の形で噴出したものといえます。
なぜこのような悲しい事件が起こってしまったのか、どうすれば同じような事件が起きることを防げるのか、そういった課題や解決策を考えるきっかけになる「大人の絵本」です。

◆「どうすれば事件が起きずに済んだのか」
弁護士、臨床心理士、介護離職防止コンサルタントによる解説つき

 
【関連】
さいごの散歩道……書籍の前半43ページ分をWeb公開しています。

 


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