『ARTBOX 鈴木春信』きれい、かわいい、へんてこ!鈴木春信ワールド!現代人の心に響く春信の浮世絵を集めたポップな一冊
講談社より、『ARTBOX 鈴木春信』が発売中です。
鈴木春信は、今から250年ほど前の江戸時代中期に活躍した浮世絵師。主な活躍期間は1760年頃からの10年ほどととても短いのですが、当時誕生したばかりの錦絵のジャンルで、独自のスタイルの作品を数多く発表し、絶大な人気を博しました。
そして今、あらためて春信の浮世絵を見てみると、本当にきれいで、かわいくて、そしてときに「へんてこ」な作品がたくさんあって、思わずその世界に引き込まれてしまいます。
本書では、数ある春信作品の中から、現代を生きる私たちの心に、グッとくる作品ばかりを集めた「小さな春信全集」です。
おかしな状況ばかり
春信の絵を見ていると、ときどき「え、何これ?」というへんてこな状況が現れ、驚かされます。美人が鳥に乗って空を飛んでいたり、唐傘を持ってジャンプしたり、あるいは大黒さんが胴上げされていたり、大きな甕から子どもが飛び出てきたり……。
不条理漫画のひとコマと見紛うような世界ですが、じつは、どれもちゃんと意味があるのです。本書では、その隠された意味も丁寧に解説されています。
恋する風景
春信の浮世絵の見どころは、何といっても恋人たちのいる情景です。ほとんどがまだ少年・少女と言えるような若い男女。肉感をできるだけ排したその中性的な描写で描かれる恋人たちはとても可憐で、「夢見るような」と評される美しさです。
また、二人で蛍狩りに出かけたり、手紙をめぐって諍いをしていたり、蹴鞠をきっかけに出会ったりと、その状況の面白さもポイントです。江戸時代もあったんですね、スポーツがきっかけの出会い。
かわいい子ども
春信が活躍したのは、子どもを主役とした「子ども絵」というジャンルが確立した時代。春信の浮世絵にもたくさんの子どもが登場します。
章のタイトルは「かわいい子ども」となってますが、見ていると、「かわいい」という単純なひと言では形容できないような子どもたちもいて、それもまた、人物の表情を極力抑えた春信の浮世絵ならではの魅力に思えます。
四季の江戸
春は観梅、観桜、潮干狩り、夏は花火に川遊び、秋は観菊、観月、そして冬の雪あそび……。
春信の作品を見ていると、江戸時代の人がいかに四季の移ろいに敏感で、そしてそれぞれの季節を愛でていたかがよくわかります。冬が主題の浮世絵には雪が描かれていることが多いのですが、雪の表現に「きめ出し」というモコっとした押しがされているのが多く、とても魅力的です。
美人図鑑
浮世絵といえば、美人画。とりわけ、春信の美人画は、今も昔も不動の人気を誇る美しさです。
本書では、茶屋の看板娘から吉原の花魁まで、江戸時代の“アイドル”ともいえる実在の美女たちにクローズアップしているほか、春信のイマジネーションから生まれた夢見るような美少女まで、さまざまな美人画を紹介しています。
浮世絵というと、ずいぶん昔の古臭い絵だと思われるかたもいるかもしれません。けれども、この本をご覧いただければ、春信ワールドは、その美しさとかわいさ、そしてへんてこな面白さで私たちの心を打つ“新しさ”に満ちていることがおわかりいただけるはずです。