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『オスとは何で、メスとは何か?』「性スペクトラム」という最前線

諸橋憲一郎さん著『オスとは何で、メスとは何か? 「性スペクトラム」という最前線』

諸橋憲一郎さん著『オスとは何で、メスとは何か? 「性スペクトラム」という最前線』

諸橋憲一郎さん著『オスとは何で、メスとは何か? 「性スペクトラム」という最前線』がNHK出版より刊行されました。

 

「性」の本質を捉えなおす驚きの研究

生物にはオスとメスという、異なる生殖器官をもった性が別個に存在するのではなく、オスとメスとはじつは連続する表現型である――生物の「性」の本質をそのように捉える驚きの研究が、生物学の最前線で進んでいます。

 
逆の性に擬態して生きる鳥やトンボ、何度も性転換する魚、ホルモンで組織を操るネズミ……。興味深いいくつもの事例と、私たち生物の雌雄が形作られる仕組みとともに明らかになるのは、「生物の性は生涯変わり続けている」「全ての細胞は独自に性を持っている」という驚きの事実。ヒトを含めた生物の体の精密な構造とそれを駆動するメカニズムを平易に解き明かします。

 
最終章では「脳の性」に焦点をあて、性自認と性指向のスペクトラムについても説明します。多様性についての議論が盛んな今日に、基礎生物学の最前線からきわめて真摯に「性」を捉えなおした本書は、まさに今読むべき一冊といえるでしょう。

 

外見で雌雄が判別できない、少々変わった生物種たち (第1章 雌雄は果たして分けることができるのか? より)

 
◆エリマキシギには3種類のオスがいる

オスには縄張りを有するこげ茶色の襟巻きのオス(上)と、羽色に白い部分のある縄張りを持たない「サテライト型」のオス(中)、さらにメスと形態がほとんど同じ「メス擬態型オス」の3種が存在します。

「サテライト型」はこげ茶色のオスに負けてしまうので、メスと交尾することはできませんが、縄張り内に複数のメスがいる場合には、交尾のチャンスが巡ってくるのです。

「メス擬態型オス」はメスにそっくりなので、縄張りを持つオスから追い出されることもありません。そしてそれをいいことに、強そうなオスの目を盗んでメスと交尾することで、自身の子を残すのです。

 
◆メスに擬態するオス、オスに擬態するメス――トンボ

◎アカトンボ
鮮やかな赤色をしているのがオスで、メスは黄色がかった橙色をしています。アカトンボのメスの中にはあたかもオスのように赤くなった個体=オス擬態型メスが存在します。 交尾後のメスは池や沼などに産卵しますが、このときにオスが交尾をしようとメスに近づくことで、メスの産卵行動を妨害することがあります。オス擬態型メスはそうしたオスの行動を受けにくくする効果があるため、効率の良い産卵行動が可能になるようです。

◎ニホンカワトンボ
オスは橙色の翅(はね)を持つのに対し、メスは透明の翅。そしてこのトンボには透明の翅を持つオス、つまりメス擬態型のオスが存在します。エリマキシギと同じく、ニホンカワトンボのオスは縄張りを持っており、他のオスの個体が縄張りに入ってくると追い出しにかかります。ところが、メス擬態型のオスは縄張りを持つオスから追い出されません。

 

「性スペクトラム」からのメッセージ(第6章「脳の性」という最後の謎 より )

わたくしたち研究者は長い間、性(オスとメス)を、あたかも対立する2つの極として捉えてきました。そして、お互いの異なる部分を際立たせるような比較を行うことで、雌雄を理解しようとしてきました。このように雌雄を理解することが間違っていたわけではありませんが、これだけでは性の本来の姿を理解することは不可能だったのです。メスに擬態することで自身の子孫を残すことに成功してきた鳥や魚、トンボなどの存在は、生物をオスとメスの2つに分けることの困難さを示すものでした。

 
そして、そのような生物の性の姿をもとに登場したのが「性スペクトラム」という新たな性の捉え方でした。性は2つの対立する極として捉えるべきではなく、オスからメスへと連続する表現型として捉えるべきであるという考え方で、従来の性の捉え方に変革を迫るものでした。わたくしたちはこの「性スペクトラム」という性の捉え方が、性本来の姿を捉えていると考えています。

 
多くの方が「性スペクトラム」の考え方のもとに多様な性の存在を認識し、受け入れてくださったとすれば、きっとわたくしたちの社会はさらに豊かになるはずです。本書が少しでもそのような役目を果たすことができたとすれば、望外の喜びです。

 

本書の構成

第1章 雌雄は果たして分けることができるのか?

第2章 性は生涯変わりつづけている

第3章 オス/メスはどのように決まるのか? ――「性決定遺伝子」の仕組み

第4章 オス化とメス化はどう進むのか ――「性ホルモン」の力

第5章 全ての細胞は独自に性を持っている

第6章 「脳の性」という最後の謎

 

著者プロフィール

著者の諸橋憲一郎(もろはし・けんいちろう)さんは、1957年生まれ。九州大学大学院医学研究院教授。

九州大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)。九州大学大学院基礎生物学研究所教授を経て現職。
「性スペクトラム」という新学術領域研究の第一人者として研究活動を行いながら、NHKスペシャル「男と女 最新科学が読み解く性」「人体 ミクロの大冒険」などの番組監修に携わる。本書が初の著書。

 

オスとは何で、メスとは何か?: 「性スペクトラム」という最前線 (NHK出版新書)
諸橋 憲一郎 (著)

一気読み必至。常識が変わる生物学講義!

生物にはオスとメスという、異なる生殖器官をもった性が別個に存在するのではなく、オスとメスとはじつは連続する表現型である――生物の「性」の本質をそのように捉える驚きの研究が、生物学の最前線で進んでいる。逆の性に擬態して生きる鳥やトンボ、何度も性転換する魚、ホルモンで組織を操るネズミ……。興味深いいくつもの事例と、私たち生物の雌雄が形作られる仕組みとともに明らかになるのは、「生物の性は生涯変わり続けている」「全ての細胞は独自に性を持っている」という驚きの事実だ。第一人者である著者が、生物の体の精密な構造とそれを駆動するメカニズムを平易に解き明かす。

 


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