「別に、自分の国が2つや3つあってもいいじゃないか」ちゃんへん.さん『ぼくは挑戦人』が文庫化
河出書房新社は、在日コリアン3世のプロジャグリングパフォーマーが語る涙と笑いと痛みと喜びの挑戦記、ちゃんへん.さんの自伝ノンフィクション『ぼくは挑戦人』を文庫化し、河出文庫より刊行しました。
生まれ育った京都ウトロ地区、少年期のいじめと差別、運命の仕事と共に旅したアメリカ、アフリカ、ブラジル、パレスチナの光景。ルーツを辿り訪れた韓国・北朝鮮・サハリンでの奇跡
ちゃんへん.さんは、15歳のときにアメリカのコンテストで優勝し、それ以来プロジャグリングパフォーマーとして世界の舞台で活躍しています。本書『ぼくは挑戦人』では、運命の仕事に出会うきっかけとなった中学2年の出来事から、各国で公演するようになったキャリアが詳細に描かれています。
ちゃんへん.さんの本名は金昌幸(キム・チャンヘン)、日本名は岡本昌幸。在日コリアン3世として京都府宇治市にあるウトロ地区で生まれ育ち、韓国、北朝鮮、日本、3つの故郷を持ちます。小学校では苛烈な暴力と差別に直面しますが、祖父母や母の強く明るい言葉によって乗り越えていきます。飛び蹴りする祖母、教師を喝破する母…、強く生きるために想像を超えていく家族の姿に、感動と笑いがこらえられない読者も多いことでしょう。
そして成長し、著者は運命の仕事・ジャグリングとともに世界各地を旅します。ニューヨーク滞在中に目の前で起こった9.11。アフリカやブラジルのスラムと、そこで触れ合ったギャングや子どもたち。パレスチナで目撃した惨劇。アイデンティティを求め、自身のルーツを辿って訪れた韓国・北朝鮮・サハリンで気づかされたこと。世界各地にある偏見と分断を目にし、そこで葛藤する著者の体験が凝縮した言葉たち。
今回の文庫化にあたっては、2021年8月に発生したウトロ地区放火事件についても思いの丈を綴っています。自身や家族、故郷がヘイトスピーチ・ヘイトクライムに晒されながらも、決して対話を諦めようとしないちゃんへん.さんは、日本と朝鮮半島の「架け橋」として活動を続けます。
九月さん(芸人)による解説より
「最近友達になったすごい奴と、飲みながら一晩語り明かしたような読後感である。本書についてはそうとしか言いようがないので、そういうふうに解説を書くことにする。」
「僕は散々笑うのだけど、それは楽しいのだけど、彼のエピソードの随所に、彼の深い悲しみや、世界の大きなひずみや、それがもたらす痛みがじっと張り付いていることにも気付く。そのことを笑うたび忘れ、笑い終わるたび思い出す。こんなにも世界は痛ましさのうえに成り立っているのか、とか、それでもこんなにも笑えるのかとか、思う。」
本書の目次
はじめに……
1 いじめと差別……
最初の記憶/ウトロ地区/「岡本昌幸」になった/おばあちゃんの跳び膝蹴り/無視/「ちょうせん人死ね!」/暴力の日々/おかん、校長室に登場
2 ジャグリングとの出会い……
月刊コロコロコミック/ミニ四駆と工夫/「ポケモン」が学校生活を変えた/ハイパーヨーヨーに夢中/初めてのステージ/ジャグリングとの出会い/国籍を選ぶということ/おかん、職員室で啖呵切る
3 世界的プロパフォーマーへ……
入国でひと騒動/まさかの結果/9・11の衝撃、アメリカとヨルダン/韓国への揺れる想い/大道芸ワールドカップ その1/大道芸ワールドカップ その2/ヨルダン再び/北野武さんの言葉と、テレビの反響/ケニア・南アフリカ編/マイケル・ジャクソンの「そっくりさん」?/ブラジルのファベーラ編/パレスチナの難民キャンプ編
4 ルーツを辿る旅……
チベット編/ネパールからインド/韓国編/北朝鮮編/金正恩に話しかけられた/サハリン編
5 僕の「役割」……
ハラボジの遺言/パフォーマーの苦しみ/哀しみのハンメ/ヘイトデモの青年/学校の講演会で
エピローグ― 家……
ウトロ放火事件
あとがき……
解説 九月……
著者プロフィール
■ちゃんへん.さん
プロジャグリングパフォーマー。1985年、京都府宇治市・ウトロ地区に在日コリアン3世として生まれる。本名は金昌幸(キム・チャンヘン)。
中学2年時にジャグリングと出会い、翌2000年にはアメリカのパフォーマンスコンテストで優勝、同年からプロキャリアをスタートさせる。「大道芸ワールドカップin静岡2002」では、最年少17歳ながら観客からの人気投票で1位を獲得。高校卒業後は海外で本格的にパフォーマーとして活動し、これまで世界82の国と地域で公演。現在は日本を拠点に、国内外で年間100を数える公演を行うとともに、学校講演にも力を入れている。
■構成:木村元彦(きむら・ゆきひこ)さん
ジャーナリスト、ノンフィクションライター。1962年生まれ、愛知県出身。
著書に『誇り』『悪者見参』、『オシムの言葉』(第16回ミズノスポーツライター賞)の旧ユーゴスラビア三部作や、在日サッカー選手の群像を描いた『橋を架ける者たち』のほか、『争うは本意ならねど』『13坪の本屋の奇跡』『コソボ 苦闘する親米国家』など多数。
ぼくは挑戦人 (河出文庫) ちゃんへん. (著), 木村 元彦 (著) いじめと差別、家族、世界を訪ねて知ったこと、アイデンティティ……プロジャグリングパフォーマーの在日コリアン3世が語る半生記。 |
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