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『沈黙の春』レイチェル・カーソンの第一作『潮風の下で』が復刊

レイチェル・カーソン著『潮風の下で』(訳:上遠恵子さん)

レイチェル・カーソン著『潮風の下で』(訳:上遠恵子さん)

山と溪谷社は、レイチェル・カーソン著『潮風の下で』(訳:上遠恵子さん)を復刊し、ヤマケイ文庫より刊行しました。

 

レイチェル・カーソンの処女作『潮風の下で』

本書は海洋学者であり環境問題への警告の書『沈黙の春』や『センス・オブ・ワンダー』の著者として名高いレイチェル・カーソンの第一作であり、アメリカで1941年に出版されました。

 
翻訳を担当した上遠恵子さんの解説には、レイチェルの才能が見出され、公務員生活の合間に書かれた本書がベストセラーとなるまでの軌跡が詳しく描かれています。出版後は専門家から高く評価されただけでなく、大勢の読者の心を捉え、歴史を変えた書ともいわれる『沈黙の春』を書くに至るきっかけとなった本でもあります。

 
本書は、続編の『我らをめぐる海』『海辺』とともに「海の3部作」と呼ばれ、出版から実に80年という長きにわたり愛読され続けています。

その魅力は、たくさんの生き物が生き生きと描写され、あたかも目の前で海鳥や魚たちを主人公とするドキュメンタリーを観ているかのように、多様な生命のドラマに引き込まれるところにあります。1930年代後半はテレビもなく、潜水技術も進んでいない時代にもかかわらず、その科学的で豊かな描写力のおかげで、読者は広大な洋上の空や川の流れの中に、あるいは船の下や深い海底にいる気持ちになれるのです

 
本書には実にさまざまな生き物が登場します。ミサゴ、アジサシ、ワタリガラス、ウナギ、アンコウ、サバ。イラストレーターの本山賢司さんのイラストと、レイチェル自らが著した巻末の「本書に登場するおもな生き物」という解説文が、私たちの想像力を補ってくれるでしょう。

 

出版から80年後に復刻する意味とは?

レイチェル・カーソンは『沈黙の春』の出版後、サンフランシスコで「環境の汚染」という講演をしています。DDTなど化学物質による汚染についての警告を語ると思いきや、その大半は放射性物質による海洋汚染について語っています。この1963年に行なわれたレイチェルの最後の講演で語られたのと同じ状況が、今を生きる私たちにもあることをつい忘れてしまいがちです。

 
日本を取り囲む海は、さまざまな問題を抱えています。漁獲量が大きく減り、持続可能ではない資源利用の問題が指摘されています。マイクロプラスチックや海洋汚染はもちろん、温暖化による磯焼けやサンゴの白骨化も私たちの暮らしと無縁ではありません。

 
「多くの生命とともにこの地球に生きる生き物としての私たち人間は、どう生活すべきかを考える時が来ていると切実に思います」
――上遠恵子さんがあとがきで記されたメッセージは、レイチェルが本書で最も伝えたかったことでもあります。海を通じた環境教育やSDGsの実践につながるきっかけとなる一冊です。

 

本書の構成

はじめに

一部 海辺――海のドラマ
第一章 上げ潮
第二章 春の飛翔
第三章 北極圏の出会い
第四章 夏は終わった
第五章 海へ吹く風

二部 カモメの道――カモメが俯瞰する海のなか
第六章 春の回遊
第七章 サバの誕生
第八章 プランクトンの狩人
第九章 港
第十章 海路
第十一章 小春日和の海
第十二章 網あげ

三部 川から海へ――生命の回遊
第十三章 海への旅
第十四章 海の越冬地
第十五章 回帰

本書に登場するおもな生き物
訳者あとがき
解説・阿部治

 

著者プロフィール

 
■レイチェル・カーソン(Rachel Carson)

1907年5月27日 – 1964年4月14日。アメリカ合衆国のペンシルベニア州に生まれ、1960年代に環境問題を告発した生物学者。
アメリカ内務省魚類野生生物局の水産生物学者として自然科学を研究した。

農薬で利用されている化学物質の危険性を取り上げた著書『沈黙の春』(Silent Spring)は、アメリカにおいて半年間で50万部も売り上げ、後のアースディや1972年の国連人間環境会議のきっかけとなり、人類史上において、環境問題そのものに人々の目を向けさせ、環境保護運動の始まりとなった。

没後1980年に、当時のアメリカ合衆国大統領であったジミー・カーターから大統領自由勲章の授与を受けた。

 
■訳:上遠恵子(かみとお・けいこ)さん

1929年生まれ、東京都出身。東京薬科大学卒業。 大学研究室勤務、学会誌編集者を経て、現在エッセイスト、レイチェル・カーソン日本協会理事長。

1974年、ポール・ブルックス『生命の棲家』(後に『レイチェル・カーソン』と改題)を訳出。以来カーソン研究をライフワークにする。訳書にカーソン『センス・オブ・ワンダー』『海辺』『潮風の下で』などがある。

 

ヤマケイ文庫 潮風の下で
レイチェル・カーソン (著), 上遠 恵子 (翻訳)

『センス・オブ・ワンダー』『沈黙の春』で名高いレイチェル・カーソンの処女作であり、原点となる作品。
エコロジーの時代に誰もが一度は読むべき不朽の名著を復刊!

北極圏まで渡るアジサシ、捕食者たちから逃れるサバのドラマ、産卵場所である深海に帰るウナギの長い旅路。
古典的ベストセラー『沈黙の春』、『センス・オブ・ワンダー』の著者レイチェル・カーソンが、海のエコロジーの魅力を伝えた処女作、待望の復刊。
アメリカ漁業局に勤めながら綴った科学と詩情を織り交ぜた名文により、誰もが海辺に生きる生き物の視点で世界を見ることの豊かさと、見事な命のつながりのドラマに引き込まれていくであろう。

 


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