小川糸さん選考「第1回 おいしい文学賞」受賞作、白石睦月さん『母さんは料理がへたすぎる』が刊行
ポプラ社が開催した第1回「おいしい文学賞」を受賞した、白石睦月さん著『母さんは料理がへたすぎる』が1月9日に刊行されました。
本作品は、働く母親と三つ子の妹たちのためにご飯をつくるのが仕事になった高校生男子・山田龍一朗くんの、苦悩や成長を描いた物語。多数の応募作の中から、選考委員の小川糸さんが“圧倒的に良い!”と選んだ、あたたかく元気が出る小説です。
食いしん坊な編集部が企て、『食堂かたつむり』『ライオンのおやつ』の小川糸さん選ぶ「おいしい文学賞」とは
「おいしい文学賞」は、かねてより『食堂かたつむり』(小川糸さん)、『四十九日のレシピ』(伊吹有喜さん)、『真夜中のパン屋さん』(大沼紀子さん)など数々の「おいしいもの」が登場する名作を刊行してきたポプラ社が創設した短編小説の賞で、2017年に第1回を開催しました。
選考委員は、『食堂かたつむり』でデビュー以来、ヒット中の近刊『ライオンのおやつ』を含め、食と人生を絡めて物語を綴ることに長けた小川糸さん。
多数の応募作の中から選ばれたのが、白石睦月さんの『母さんは料理がへたすぎる』です。短編の受賞作に、続く物語を書き加えて長編となりました。
<小川糸さん講評>
『母さんは料理がへたすぎる』は、正直なところタイトルだけ見たときはあまりピンとこなかったのですが、本文まで拝読すると、圧倒的にこの作品が良いと思いました。
何を書きたいかが明確で、短い枚数の中で世界がきっちりと完結されていて、もっと読みたくなります。長編にしたらいいのに、と感じました。
文章の骨格がしっかりしていて、書くための健康的な体ができあがっているように思います。
父親をなくした後の日常や、椿原さんへの恋心、妹たちへの優しい眼差し、母親との微妙な距離感など、「僕」の等身大が描かれていて、とても魅力を感じました。
「おいしい」の本質と意味に気付いていく、主人公の成長物語
<『母さんは料理がへたすぎる』あらすじ>
主人公・山田龍一朗は、この春、なんとか志望高校に入学した15歳。
山田家の父親は三年前に事故で他界。会社勤めの母親と、幼稚園に通う三つ子の妹たちの食事を用意し、面倒をみるのが龍一朗の役目。
タイトルの通り、料理はからっきしダメな母親。加えて子どもたちを養うために会社員として忙しく働きます。一方、小料理屋を始める予定だった父の影響もあり、もともと料理は好きだった龍一朗ですが、学校に通い、クラスメートに片思いしながら、自分の時間がなく家のことに振り回される日々に悩みがなくはありません。
自由で生意気で個性的な妹たち、家族に想いを残す父親、見合い話が持ち上がる母親、進路を決める幼なじみやライバルなどの視点・エピソードを通じ、日々を刻んで変化する龍一朗が描かれます。
つまづいたり、悩んだりしても、料理をしながら自分が感じるのは何か。龍一朗が「おいしい」ということの本質に気付いた時、静かな感動があふれてきます。
とても後味がよく、未来へ向けて元気をもらえる作品です。
<本書の目次>
◎母さんは料理がへたすぎる
◎ないないづくしの女王さま
◎待ちぼうけの幸せ
◎プレゼント
◎ウソつきたちの恋
◎春が生まれる
◎母さんの料理がへたすぎて
著者・白石睦月さんメッセージ&プロフィール
「応募作は短編でしたが、ふだんは長編を書くことが多いため、大幅な書き足しはたいへんではありませんでした。ただ、受賞のご連絡をいただいたときが妊娠八か月。その後出産、はじめての育児、てんてこまいで執筆の時間がなかなか確保できず、時間がかかってしまいました。
『母さんは料理がへたすぎる』には、七つのおいしいお話がギュッとつまっています。
たのしい、かなしい、うれしい、さみしい……さまざまな気持ちを読者の皆さまそれぞれの感覚でじっくり味わってみていただきたいです。このお話がひとりでも多くの方の心の中を、小さな灯火であたためられますように。
これからも真摯に物語とつきあい、ひとつでも多くのお話を届けていきたいと思っています。」
<プロフィール>
白石睦月(しらいし・むつき)さんは、1982年、山口県生まれ。現在山口県在住。山口大学人文学部卒業。美術史専攻。
10年在住した群馬県で独学で小説を書きはじめ、主に長編を執筆。本書にてデビュー。趣味はバードウォッチング。
母さんは料理がへたすぎる 白石 睦月 (著) 山田家の父親は三年前に事故で他界。会社勤めの母親と、幼稚園に通う三つ子の妹たちの面倒を見るのが高校1年生の龍一朗の役目。もともと料理は好きだけど…。それぞれつまずいたり、悩んだり、助けられたりしながら日々を刻んでいく山田家と龍一朗を、こまやかで確かな筆致で描いた青春と成長の物語。第1回おいしい文学賞受賞作。 |
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