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『実録・銀行』トップバンカーが振り返る銀行60年史「その時、何が起きていたのか」

『実録・銀行』トップバンカーが振り返る銀行60年史「その時、何が起きていたのか」

『実録・銀行』トップバンカーが振り返る銀行60年史「その時、何が起きていたのか」

ディスカヴァー・トゥエンティワンより、前田裕之さん著『実録・銀行 トップバンカーがみた興亡の60年史』が刊行されました。

 

あるトップバンカーが歩む激動の銀行史!

1950年代に銀行員となった一人の男がいた――。
その名は橋本徹。後に富士銀行頭取、日本政策投資銀行社長、全国銀行協会連合会会長などを歴任したトップバンカーです。

高度経済成長、オイルショック、バブル崩壊など、60年に渡る激動の銀行史をこの一人のトップバンカーの人生と照らし合わせ綴られたのが本書です。

敬虔なクリスチャンでもある橋本氏が、自らの思想、信条とどのように折り合いをつけながら金融マン人生を送ってきたのかという視点も交えながら、現在のグローバル金融資本主義の台頭とどのように向き合っていけばいいのかを探る著作となっています。

 

内需が押し上げた高度経済成長

「日本の高度成長は外需に依存し、輸出主導で実現した」と見る向きもありますが、実際は国内市場の急拡大が経済をけん引しました。それに伴って輸出競争力も強まっていったのです。

したがって中国が1990年代以降に、外資系企業を誘致して輸出主導で急成長した姿とは大きく異なります。銀行の資金調達の柱は預金でした。どの銀行も全国の支店網を通じて預金の獲得を競いました。
それでも、企業の資金需要は預金の増加分を上回り、銀行は貸し出しが預金を上回る「オーバーローン」に悩まされていました。

やがて高度成長期も終盤にさしかかると、内需主導の成長モデルだけでは通用しなくなってきます。そこで1970年代に入ると、日本企業の海外での活動は単なる貿易取引だけでなく、現地生産、現地販売、あるいは海外での資源開発といった段階に入り、海外での資金調達がさらに活発になっていったのです。

 

高度成長期の銀行の風景

富士銀行に入行した橋本氏がバンク・オブ・アメリカの本店での研修で驚いたことがあります。
営業時間が終わると計算書類と現金の残高を突き合わせるのですが、小さな誤差であれば資金不足の金額を記録するだけで作業は終了となりました。
彼が新宿支店で出納係をしていたとき、1円でも合わないと、原因を突き止めて完全に合うまで残業するのが当たり前でした。

日本と比べるとずいぶんおおざっぱだなという感想と、よく考えてみれば合理的だなという感想を同時に持ちました。帰国後に提出したレポートにも、この出来事を書いています。また、当時ファックス、テレックスはなく国際電話も高くて使いませんでした。海外とは暗号を使用したレターでやり取りしていました。そんな時代だったのです。

 

バブル期の銀行で起こっていたこと

経済の低成長期が続いた1980年代に「総本部制」を取り入れる銀行が増えました。総本部制は、各部門が独立した会社のような存在となり、担当役員が融資と審査の二つの権限を束ねる形をとっていました。

融資部門がアクセルだとすれば、審査部門はブレーキでしたが、担当役員が同時に所管すればブレーキが弱くなるのは当然でした。
やがてこの組織改革は、不動産担保の融資が急拡大する装置となったのです。

当時、常務となっていた橋本氏に審査担当は、担保の掛け目が100%でも融資を了承するよう求めてきました。担保が預金の場合は、担保を差し押さえたときに回収できる確率が高いので100%とする場合が多い。一方、土地を担保に取る場合、地価が変動するリスクを勘案して時価評価額の70?80%に設定するのが常識とされていました。

不動産担保の掛け目が100%は高すぎるではないかと指摘すると、地価が上がっているので、掛け目は実質70%だと反論されました。
やむなく、掛け目100%の案件を認めるときは、仮に当該案件がだめになっても体力があると判断できる会社に限定しました。

バブル崩壊の引き金となったのは、1990年3月の「土地関連融資の総量規制」です。投機的な土地取引が横行している現状をにらんだ規制でした。1986年3月以降、6大都市市街地価指数が毎年2桁の伸びを示していましたが、1991年以降はマイナスに転じはじめました。

 

銀行とは定期的にトラブルに巻き込まれるもの?

2017年11月に3メガバンクは厳しい中間決算とともに、店舗や人員を削減する計画を明らかにしました。

背景にあるのは、日銀が2016年に導入したマイナス金利政策です。メガバンクは、もはや大量の銀行員を抱えきれなくなっているのです。
しかも、インターネットバンキングの普及で、多くの店舗を構える必要性が薄れています。
さらに、金融とIT(情報技術)を融合した「フィンテック」が拡大すると人手や設備が不要になっていきます。たとえば、AI(人工知能)でローン審査ができるようになれば、融資担当者の仕事は大幅に減るわけです。

クリスチャンとして自己抑制の感覚を持つ橋本氏は、60年に渡る金融マン人生のなかで「後追い」や「横並び」に走ろうとする同僚たちに危うさを感じ、しばしばブレーキをかけようとしました。

しかし、銀行全体の流れはなかなか変えることができませんでした。橋本氏は「銀行は定期的にトラブルに巻き込まれる性質を持っている」とみています。
経済が順調だと銀行は競争に走り、行き過ぎとなります。そのうち景気が悪くなると不良債権が発生します。これが10年周期で起きているというのです。

そこで、橋本氏はこう考えます。銀行の拠って立つところは信用であり、サウンドバンキング(健全な銀行)を堅持することがいつの時代でも大切である。大勢の個人から大切な資金を預金という形で預かり、それをもとに金融仲介や決済、信用創造をしているのが銀行である。そのことをけして忘れてはいけないのだ、と。

 

本書の構成

第1章 手探りの国際化―終戦から内需主導の高度成長へ

第2章 オイルダラー争奪戦―石油ショックで成長に急ブレーキ

第3章 つかの間の「オーバープレゼンス」―バブル急膨張でモラル喪失

第4章 縮小に追い込まれた国際業務―バブル崩壊で不良債権が急増

第5章 海外市場で再起を期す―危機の連鎖で金融再編が加速

 

前田裕之さん プロフィール

著者の前田裕之(まえだ・ひろゆき)さんは、1986年東京大学経済学部卒。日本経済新聞社に記者職で入社。2012年から編集局経済解説部編集委員(現在は同編集委員室編集委員)。経済学の視点を取り入れながら経済現象を分析し、背景を解説する記事などを執筆している。専門はマクロ経済、金融。

著書に『激震 関西金融』『地域からの金融革命』『脱「常識」の銀行経営』『ドキュメント 銀行』『ドキュメント 狙われた株式市場』、共著に『松下 復活への賭け』『アベノミクス考える』『経済学の宇宙』、論文に『経済危機における日本人の意識と行動』ほか。

 

実録・銀行 トップバンカーが見た 興亡の60年史
2016年日経「エコノミストが選ぶ経済図書」入賞 『ドキュメント 銀行』著者、最新作!

 


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