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『神様がくれたピンクの靴』香川県の小さな靴会社が起こした大きな奇跡

佐藤和夫さん著『神様がくれたピンクの靴』

佐藤和夫さん著『神様がくれたピンクの靴』

佐藤和夫さん著『神様がくれたピンクの靴』が、あさ出版より刊行されました。

 

「あゆみシューズ」と利用者の心温まる物語

いま、全国の介護施設等で高齢者に話題になっている靴があります。

その靴の名は「あゆみシューズ」。オシャレで、軽量、歩くのが楽しくなるような仕掛けがそこかしこにちりばめられています。その靴を作ったのが香川県さぬき市にある小さな会社「徳武産業株式会社」です。

徳武産業は、日本で初めて片方だけの販売や、左右サイズ違いの靴の販売を行った会社です。お年寄りや障がいのある人の中には、足や体の状態によって片方だけが痛んだり、左右の足の大きさが異なる人もいます。そうした人々の要望に応えて、業界の常識を破る片方、左右サイズ違い販売に踏み切ったのです。

 
徳武産業の会長・十河さんが「あゆみシューズ」の開発を決意したのは、早くに亡くなったお母さんへの思いからでした。奥さんのヒロ子さんと試行錯誤の末に「お年寄りが本当に喜んでくれる靴」の開発に成功。

お年寄りが届いた靴を寝るときに枕元に置いて「この歳でこんなピンクの靴をはけるなんて。神様がくれたピンクの靴…」などのメッセージが寄せられるようになりました。

 
高齢者や普通の靴を履くことができない足に悩みをもつ方が、数あるケアシューズの靴の中かからなぜ「あゆみシューズ」を選ぶのか?

本書では「徳武産業株式会社」の会長である十河(そごう)さんと奥さんのヒロ子さんの「あゆみシューズ」開発の経緯とともに利用者との心温まる交流を紹介しています。

以下、本書内のエピソードを一部掲載します。

 

歩けない年寄りに靴を売りつけるとは何事だ!

ある時、老人ホームの職員の人から突然電話がかかってきました。「お宅は歩けない人に靴を売りつけるんですか! そうまでしてお金を儲けたいんですか!」と。靴を購入したのは、歩けない90歳になる女性のホームの入所者の人でした。それなのに、徳武産業が販売したピンク色の「あゆみ」を購入したというのです。

 
十河さんはおばあさんになぜ「あゆみ」を買ったのか、理由を聞いてみました。すると、おばあさんは笑顔で答えたのです。「同じホームでピンクの靴を履いている人を見かけたの。その靴が可愛らしくてね。いつも見てたら、そのうち靴が私に語りかけてくる気がしたの。『私を履いて。一緒に歩こう』って。

それから半年後のことです。そのホームから突然電話が入りました。「奇跡が起きました! あのおばあさんが歩いたんです!」「うん。そうなの。私は死ぬ前に、ピンクの靴を履いて、歩かせてください、と神様にお願いしたの。毎日、毎日。そしたらね、神様が願いをかなえてくださったの。ほら、この通り、歩けるようになったのよ」と。

 

車椅子の青年がこぼした涙のわけ

ある時会社見学に来た青年が、靴下のまま車椅子に乗っていることにすぐに気がつきました。車椅子に乗っていて、自分で歩けない方でも、外出するときは、たいてい靴を履いているものです。理由を尋ねると「病気で足が変形していて、履ける靴がない」とのことでした。十河さんはすぐにパーツオーダー担当の社員を呼び、彼の足の採寸をさせました。

 
そして、その場で足に合う靴を作りました。「履けるかなあ」最初、青年は半信半疑でした。でも社員が彼の足に靴を履かせた瞬間、彼の目がみるみる潤んで、涙がこぼれ落ちたのです。14年間、外出のときもずっと靴下のままですごした足。その足に靴が履けた瞬間、万感の思いがこみあげたのでしょう。

それからしばらくしてからです。会社に大きな包みが届きました。差出人を見てみると、車椅子に乗ったあの青年です。「何だろう?」と包みの中を見てみると、1枚の水彩画が入っていました。車椅子に乗った青年が靴を履いて笑っている絵と、その横に「ぼくのはけるくつが見つかったよ」という文章が添えられていました。

 

日本の靴業界で初めて片足販売に挑戦する

徳武産業は、靴業界で初めて片足販売を実施しました。
それは、リウマチや外反母趾などの病気で足が変形した人し左右靴のサイズが合わない人や、病気で体に麻痺が残ったお年寄りだと、片足をひきずって歩くので、そちら側の靴が極端に傷んでしまうためです。

通常靴は同サイズをペアで販売していますから、左右別々のサイズで靴を履きたければ、2足購入して、それぞれ片足は捨てなければいけません。戦争でモノのない時代を経験しているお年寄りたちは、そんなことさせられません。たとえコストがかかろうともお年寄りが本当に必要としているなら、たとえ非常識なものだろうと、つくるべきだとという思いから片足販売が、生まれました。

 

5ミリのためにすべての商品を交換

あるときカリスマのベテラン看護師の方から「お宅が『あゆみ』のヒールを、あと5ミリ削ってくれるなら取引します」と言われました。

しかし、すでに「あゆみ」は少なからぬ人たちが購入しており、品質的にも履き心地に関しても問題ないと、高い評価をもらっている状態でした。
それでも介護のプロから見ると、靴底が5ミリ高いというのです。まだお金もなく、信用もない時期でしたが、十河さんは「お年寄りのためなら」と「あゆみ」のリニューアルに踏み切りました。

倉庫にある1300足の在庫はすべて廃棄処分し、お客さんのところにある商品も順次、靴底を5ミリ削ったリニューアルのものに交換していったのです。

 

昔の取引先への恩返しも忘れない

十河さんが社長なったとき徳武産業の売上のほとんどはアキレスのシューズの製造でした。
時が流れ、製造拠点が続々とコストが安い海外になり、突然契約を切られる会社も多い中、アキレスは、製造を打ち切るまで4年という猶予を与えてくれました。

その間、徳武産業では、ほかの事業を柱として確立することができました。その後「あゆみ」が大ヒットし、本社工場だけでは製造が間に合わなくなった際には、十河さんはすぐにアキレスの国内外注先工場に、「あゆみ」のアッパーの縫製をお願いすることにしました。お世話になったアキレスに、ほんのわずかでも、恩返しがしたいと思ったからです。

 

本書の構成

第1章 「とんでもない考え」から生まれたこと

第2章 この靴を枕元に置いて寝ています

第3章 だからみんなキラキラできる

第4章 もっと「ありがとう」をいただきたい

第5章 誰もが幸せな会社をつくるために
・原点は家族で始めた手袋の内職
・24歳で韓国の工場長に就任し、未知の世界へ
・反日運動が激化しても工場は平穏だった
・重利さんから徳武産業の継承を打診される
・お世話になった方々や取引先への恩返し
・6対4のフェアな競争でみなが幸せになれる
・特許をとらず、恩恵は全員に
・理念と利益の両立を求め

【発刊に寄せて】坂本光司

 

佐藤和夫さん プロフィール

著者の佐藤和夫さんは、1952年生まれ。北海道出身。株式会社あさ出版代表取締役。

慶應義塾大学文学部卒業後、出版社勤務。 経営雑誌編集長、社団法人事務局長などを経て出版社設立。2000社を超える企業取材を通して、人間としての経営者と企業経営のあり方を洞察してきた。

現在「人を大切にする経営学会」常務理事。一般社団法人「豊島いい会社づくり推進会」会長。「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 審査委員。

 

神様がくれたピンクの靴
どうして車椅子のお年寄りが、歩けるようになったのだろうか。『日本でいちばん大切にしたい会社』掲載企業・徳武産業の心に染み入るエピソード。

 


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