あの瞳に射抜かれて、私は1億円盗んだ――川村元気さん3年ぶりの長篇小説『私の馬』が刊行
国際的に活躍する映画プロデューサー・映画監督であり、『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』『百花』などのベストセラー作家でもある川村元気さんが3年ぶりに書き上げた長篇小説『私の馬』が新潮社より刊行されました。
言葉があふれる世界で、言葉のない愛に生きる――感動の疾走エンタテインメント!
実際に起きたとある横領事件に着想を得た本作は、造船工場で事務員として働く瀬戸口優子が運命的な出会いを果たした一頭の馬と通じ合い、のめり込み、転落していく様を描いたサスペンスフルな悲喜劇です。
ひとめ惚れした愛馬のため、1億円という巨額の横領に手を染めていく彼女の行き着く先は?
日常やスマホの中に言葉があふれているのに、人間同士がわかりあえず、傷つけ合う。そんな現代社会で、言葉のない愛にのめりこんでいく生きざまを、150ページに詰め込んだ感動の疾走エンタテインメントです。
なお、装画を担当したのは、ピカソ生誕地美術館や京都市京セラ美術館での個展が大きな話題となり世界から注目を集める画家の井田幸昌さんです。
【あらすじ】
造船所で事務員として働く瀬戸口優子は、通勤途中の国道で、馬運車から逃げ出した元競走馬と運命的な出会いを果たす。「彼」の名はストラーダ。街のはずれにある乗馬クラブで「彼」に跨った優子は、誰よりも「彼」と心を通わせる感覚を味わい、その馬にのめり込んでいく。ストラーダの栄光の復活のため、優子は組合の金に手をつけ始める。帳簿を改ざんして「一時的に借りるだけ」だったはずの横領額は、気づけば億を超えていた……。
情熱も金も、持てるすべてを「彼」に注ぎ込んだ優子が行き着く先とは? 言葉が氾濫する現代の本質を問い、通じ合えない人間たちの悲喜劇を描く、著者最高の文芸作品。
<推薦コメント>
◆桜木紫乃さん(作家)
こころが通じているという錯覚。そして、生きることの愛(かな)しみ。
◆岸田奈美さん(エッセイスト)
ウワァ~~~ッ! わたしたちの本性を、あばいて、走り去っていく、恐ろしすぎる喜劇!
◆カツセマサヒコさん(作家)
ふたりの前では、言葉はオワコン。心通じ合う瞬間に、憧れました。
◆ふかわりょうさん(タレント)
メリーゴーランドで無理やり口角をあげる。回っているのは世の中の方だとわかっているのに。
◆中森明夫さん(作家)
馬と女性との感動的なラブストーリーだ。新たな令和文学の誕生! 必読!!
◆三宅香帆さん(書評家)
SNSの濁流に疲れたら、この小説を読んでほしい。言葉の力を取り戻すために。
著者・川村元気さん コメント
「わかりあう」ために発明された言葉をあふれさせながら、私たちは有史以来もっとも「わかりあえない」時代を生きている。スマートフォンで交わされる言葉は無限に増えていくのに、コミュニケーションの実感は薄れている。SNSにあふれる言葉に疲れ果て、メッセージを送った数分後には、それがどんなものだったかを思い出すことができない。
他方で近年、人間と濃厚なコミュニケーションを獲得しているものたちがいる。猫や犬などの動物たちだ。そこに言葉はないけれど、人間は動物と「わかりあっている」と思う。誰よりも「心が通っている」と感じる(私も例外ではない)。
本作は、五年前に起きた、とある女性の数億円にも及ぶ横領事件から着想を得た物語だ。彼女は、ギャンブルもやらず、男にのめり込むこともせず、粗末なアパートにひとりで住みながら、横領した金を乗馬用の“馬”に注ぎ込んだ。
なぜ彼女はそれほどまでに馬にのめり込んだのか。どんなコミュニケーションがそこにあったのか。彼女が“彼”に見ていたものは何なのか。馬との「言葉のない世界」にのめり込んでいく女性を、「言葉を信じて」描いていった。これから私たちが、言葉やお金の手綱をどのように引いて生きていけばいいのか。思わずスマホを放り出したくなるような、かなしくもおかしい物語が、一気に走りだした。
本書の装画を担当した井田幸昌さん(画家・現代美術家)のコメント
本作の装画制作は、私にとって実に困難を極めるものでした。
なぜなら、小説の内容から浮かんできたテーマが「人を惑わすほど美しい馬」であったからです。それは同時に「美とはなにか」と、根源的な問いを私に突きつけました。
描き上げた三枚の絵を、私は川村氏にお送りしました。その中の一枚には、特に異質な作品がありました。それが本作の装画となる「顔のない馬の絵」でした。
「なぜこの絵は馬の顔がかかれていないのですか」という川村氏の問いに、私は「美しい顔を読み手が想像することが一番重要である」と答えました。川村氏は一息ついた後、「井田さん、素晴らしいです。この絵でいきましょう」。そう言ってくださったのでした。
小説を読むとき、登場人物の顔は読者によって異なるでしょう。特に美しい顔というのは、単に整っている顔に限らない。その表情がわからないからこそ、人は物語に没入し、狂わされることもある。小説を読み進めるあなたにとっての最高に魅惑的な馬を、心から惑わされてしまう表情の馬を、イメージしながら読み進めていただきたい。そこには人が思う美の本質なるものがあろうと私は考えます。
このような一画家の思いを汲み取っていただいた川村氏に深く敬意を表するとともに、読者の皆様にも届くことを願っています。
小説のなかでは、「馬は人に夢を見せる」という言葉があります。この言葉は、芸術にも通じています。人の持つ「欲」、それは恐ろしく魅惑的であり、時に誰かを狂わせてしまう。その血生臭さは人間と芸術を語る上でも切り離せないものであり、それがこの小説にはありました。
「馬は芸術そのものなのだ。そして人はその存在の美しさに狂うのだ。だからこそ芸術は恐ろしい」
一画家の視点からこの小説を読み終えて、そう感じています。
〈井田幸昌(いだ・ゆきまさ)さん プロフィール〉
1990年生まれ。画家・現代美術家。主な個展に「Panta Rhei パンタ・レイ ? 世界が存在する限り」(米子市美術館、京都市京セラ美術館、2023)、「YUKIMASA IDA visits PABLO PICASSO」(ピカソ生誕地ミュージアム、マラガ、2022)など。
著者プロフィール
川村元気(かわむら・げんき)さんは、1979年生まれ、横浜出身。上智大学文学部新聞学科卒業。「告白」「悪人」「モテキ」「おおかみこどもの雨と雪」「君の名は。」「怪物」などの映画を製作。2011年に「藤本賞」を史上最年少で受賞。
2012年、小説『世界から猫が消えたなら』を発表し、同作は32カ国で翻訳出版された。他著に小説『億男』『四月になれば彼女は』『神曲』、対話集『仕事。』『理系。』、翻訳を手がけた『ぼく モグラ キツネ 馬』等。2022年、自身の小説を原作として、脚本・監督を務めた映画「百花」が公開。同作で第70回サン・セバスティアン国際映画祭「最優秀監督賞」を受賞。
私の馬 川村 元気 (著) 『世界から猫が消えたなら』『四月になれば彼女は』の川村元気 3 年ぶりの長篇小説! 共に駆けるだけで、目と目を合わせるだけで、私たちはわかり合える。造船所で事務員として働く瀬戸口優子は、通勤途中の国道で、馬運車から逃げ出した元競走馬と運命的な出会いを果たす。「彼」の名はストラーダ。街のはずれにある乗馬クラブで「彼」に跨った優子は、誰よりも「彼」と心を通わせる感覚を味わい、その馬にのめり込んでいく。ストラーダの栄光の復活のため、優子は持てるものすべてを「彼」に注ぎ込むが、いつしか禁じられた一線を越え……。 言葉が氾濫する現代の本質を問い、わかりあえない人間たちの魂の悲喜劇を炙り出す、圧倒的な長編小説。 |
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