ジェイムズ・ジョイス〈翻訳不可能とされた迷宮的奇書〉『フィネガンズ・ウェイク』が柳瀬尚紀さん画期的訳業により復刊!
河出書房新社は、世界文学を代表する作家・ジェイムズ・ジョイスが最後に遺した文学の最終到達点であり、その難解さから「翻訳不可能」といわれた文学史上最大の迷宮的奇書に、翻訳家・柳瀬尚紀さんが挑んだ画期的訳業『フィネガンズ・ウェイク Ⅰ・II』、同『III・IV』を復刊しました。
文学の極北『フィネガンズ・ウェイク』、個人完訳という空前絶後の偉業
《僕は夜の本を書こうとした。曖昧になるのはあたりまえだ。》
──ジェイムズ・ジョイス
『フィネガンズ・ウェイク』は、『ユリシーズ』が刊行された翌年、1923年3月より執筆を開始。1924年「トランスアトランティック・レヴュー」4月号で作品の一部が「進行中の作品」(Work in Progress)という仮題で初めて発表され、以降「トラジション」他、様々な雑誌で断片的に掲載。執筆開始から約17年を経た、1939年5月『フィネガンズ・ウェイク』としてロンドンとニューヨークで刊行されました。
他のジョイス作品と同様、アイルランド首都ダブリンを舞台に、酒場経営者ハンフリー・チンプドン・イアウィッカーの一家を中心に展開する本作は、パートⅠからパートIVの四部構成。日本国内では1991年9月『フィネガンズ・ウェイク Ⅰ・II』、1993年10月『フィネガンズ・ウェイク III・IV』2分冊での刊行となりました。
本作には、英語による小説ながら、フランス語、ドイツ語からゲール語、日本語まで、60を超える言語が散在し、『ユリシーズ』でも用いられる独特の言語表現、語法が随所に見られます。もじり、語呂合わせといった言葉遊び、意味が重なる合成語、頭韻、擬声語などを自在に操り、聖書、神話伝説、過去の文学作品といった要素が縦横に入り交じる「ジョイス語」は、読者の理解を一層困難にさせるのみならず、翻訳を完全拒否しているともいわれています。
「名訳者と言える人は何人もいるが、化け物と呼べるのは柳瀬尚紀だけだ。」
──柴田元幸さん(『フィネガンズ・ウェイク III・IV』帯文より)
「柳瀬さんの翻訳は、日本語の表記の多様性をじつにダイナミックに利用しています。はじめ意味において不連続に感じられた文章が、それでもひとつごとの言葉に向けての楽しみにみちた集中のおかげで、そのうち意味のしっかりした脈絡がつかめてきます。」
──大江健三郎さん(「門前の構造」『フィネガンズ・ウェイク Ⅰ』文庫版序文より)
「柳瀬尚紀氏から『フィネガンズ・ウェイク』翻訳の詳細を聞かされたのは他の読者に味わえぬ至福であった。」
──筒井康隆さん(『フィネガンズ・ウェイク Ⅰ・II』帯文より)
柳瀬尚紀さんは、文明史、世界史、地誌、夢の記録、宗教哲学といった重層的なテーマ、物語が絶えず変幻し、循環し続ける「文学の極北」と評される本作と20年以上向き合い続け、漢字・ひらがな・カタカナ・ルビという日本語表現を駆使しながら、意味と同時に音・リズムを重視した日本語独自の訳を見事に完成。
個人による完訳という当時世界初の偉業を成し遂げた柳瀬さんへ、国内外から惜しみない賛辞が贈られました。
本作の雑誌発表から100年、日本語での全訳完結から30年を記念しての今回の復刊では、『フィネガンズ・ウェイク III・IV』巻末に、文庫版刊行時に寄稿された、大江健三郎さん「門前の構造」(文庫版Ⅰ巻序文)、小林恭二さん「フィネガンの迷宮」(文庫版II 解説)、高山宏さん「この訳、機知甲斐ざたにつき」(文庫版III・iV 解題)を収録。
数千年にわたる人類の全歴史を、ダブリン郊外で酒場を営む家族の一夜に圧縮した抱腹絶倒、複雑怪奇な大迷宮を存分にご堪能ください。
著者プロフィール
[著]ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)
1882年生まれ、アイルランド出身。20世紀の世界文学を代表する作家。ダブリンのユニヴァーシティ・カレッジ卒業。22歳で母国を出てからは、パリ、トリエステ、チューリヒなどを転々とする。
おもな著書に『ダブリナーズ』『若い芸術家の肖像』『ユリシーズ』『フィネガンズ・ウェイク』など。1941年没。
[訳]柳瀬尚紀(やなせ・なおき)さん
1943年生まれ、根室市出身。早稲田大学大学院修了。英米文学翻訳家。
主な訳書に、J・ジョイス『ユリシーズ1-12』『フィネガンズ・ウェイク』『ダブリナーズ』、L・キャロル『不思議の国のアリス』、J・L・ボルヘス『幻獣辞典』、E・リア『完本 ナンセンスの絵本』、R・ダール『チョコレート工場の秘密』、D・バーセルミ『雪白姫』、D・R・ホフスタッター『ゲーデル、エッシャー、バッハ』など。おもな著書に、『日本語は天才である』『翻訳はいかにすべきか』『フィネガン辛航紀』『辞書はジョイスフル』『ユリシーズのダブリン』『翻訳困りっ話』など。2016年没。
フィネガンズ・ウェイク I・II ジェイムズ・ジョイス (著), 柳瀬 尚紀 (翻訳) 『ユリシーズ』に続いて死の間際まで書き継がれ、20世紀最大の文学的事件とされる奇書の画期的全訳。ダブリン西郊の居酒屋を営む一家と、現実・歴史・神話が絡みあう重層的物語。 装幀:鈴木成一デザイン室 |
フィネガンズ・ウェイク III・IV ジェイムズ・ジョイス (著), 柳瀬 尚紀 (翻訳) 海に流れこむアナ・リディアの美しい独白で夢の言語は閉じられる。死と再生、墜落と上昇、循環と回帰。数千年の人類の歴史を一夜の夢に凝縮した、抱腹絶倒・複雑怪奇な円環的物語。 装幀:鈴木成一デザイン室 |
フィネガンズ・ウェイク I・II/III・IV セット ジェイムズ・ジョイス (著), 柳瀬 尚紀 (翻訳) ジョイスが17年をかけて書きあげた究極の小説、世界初の完訳! 日本語表現の可能性を最大限に切り開いた渾身の訳業として大きな話題を呼んだ。30周年記念復刊。セット函入・分売不可。 【復刊記念限定セットケース入り】 原書雑誌掲載 100周年! セットケースデザイン:鈴木成一デザイン室 |
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