天文学者と「宮沢賢治の星空」を旅しませんか?『賢治と「星」を見る』が刊行
宮沢賢治は夜空を見上げ、何を思ったのだろう?
見つめる星々の先には、何が見えたのだろう?
――天文学の楽しさをわかりやすく伝え続けてきた天文学者・渡部潤一さんが、賢治の作品に描かれた天体を案内する『賢治と「星」を見る』がNHK出版より刊行されました。
宮沢賢治の生涯を天体で物語るプラネタリウム『賢治と「星」を見る』と一緒に星空の旅に出ませんか
孤独を感じたとき、私たちは月や星に慰められることがある。少年時代の賢治もそうだったのではないか。そうして次第に天体への興味を深め知識を吸収していったのではないか。
――アマチュア時代から賢治の天体に関する記述の正確さに幾度となく驚かされてきた、著名な天文学者・渡部潤一さん(国立天文台上席教授)が、賢治が作品に映し出した天体に私たちを招待します。
渡部さんは、2023年8月7日から11日まで福島県郡山市で開催された、国際天文学連合(IAU)の「アジア太平洋地域の天文学に関する国際会議(APRIM=エイプリム)」 の組織委員長を務めたこともメディアで報道され、話題となりました。
賢治の代表作でもある『銀河鉄道の夜』だけでなく、十数点の童話のほか手紙や詩なども取り上げ、「星」や「月」といった天文学の素材を切り口として賢治作品を読み解いていく、賢治文学愛好家も天文学ファンも、もちろん初めて賢治の世界に触れる読者でも楽しめる一冊です。
2023年9月21日は宮沢賢治没後90年の命日でもあります。この機会に今までと違った切り口から、宮沢賢治作品を味わってみてはいかがでしょうか。
本書「旅のはじめに」より
旅に出ようと思う。
足を使って、どこかに行く旅ではない。宮沢賢治の残した作品の宇宙や星空に関する記述をたどり、そこから賢治という人物をたどる思索の旅である。
芸術作品には、その作り手のそれまでの生き方、興味関心、宗教観や世界観が反映されている。それらは受け手によってさまざまに見え隠れするものだ。作品は、作家の人生の経験から発せられる、叫びにも似た強い思いが昇華したものである。それだから、作品を深く読みこめば、その人を知ることができる。その作品の魅力に惹かれて、これまで多くの人がこうした思索の旅に出て、賢治に触れてきた。
私は改めて先人たちと同じことをしようとは思っていないし、そんなことをしようとしても非力な私には無理だろう。それは多くの賢治研究者に任せることにして、先人たちが読み解いてきた論考を参考にしながら、私なりに星や月といった天文学の素材を通して、賢治の作品に触れる旅をしてみたいと思っている。
たとえば、代表作である「銀河鉄道の夜」。天の川がよく見える田舎町に住む主人公は、銀河の祭りの夜、友人といっしょに天の川を下る鉄道に乗って、数々の不思議な体験をする。その物語の底流にあるのは彼の思想であることはもちろんだが、わき役あるいは物語の舞台となる宇宙の役割も大きい。そのうえ、登場する数々の星たちや星座に関する記述は、天文学者の目から見ても、かなり正確で、賢治の宇宙に関する知識が当時としては、半端なものではなかったことがわかる。
知識に裏づけされて書かれた作品は「銀河鉄道の夜」に限らない。「双子の星」「月夜のでんしんばしら」あるいは「東岩手火山」などの詩にも、星や月が登場して、一定の役割を果たしている。賢治は宗教や農業だけでなく、天文学にもかなり造詣が深かったことは確かである。彼の人生をたどりながら、彼がいかにしてこうした知識を得て、それをどのように表現してきたのか。それを考えることで、彼に触れてみたい。彼の作品に出会い、感動した天文学者として、読者といっしょに、星めぐりの夜汽車に乗って、彼に会いにいこう。
本書の構成
旅のはじめに
第一章 賢治の生きた時代へ
石っこ賢さん/理科少年と星空/中学生の賢治が見上げた星/詩歌への目覚め/文学と天文/さそりの赤い眼/星に見つめられて/賢治の信じる心/親友、保阪嘉内/傷心/帰郷
第二章 教師、宮沢賢治の星空
月夜のでんしんばしら/東岩手火山/かしはばやしの夜/烏の北斗七星/シグナルとシグナレス/雪渡り/水仙月の四日/よだかの星/永訣の朝/青森挽歌/冬と銀河ステーション
第三章 賢治、大地に根ざす
草野心平との出会い/心平への手紙/迷い道の苦悩/教職との決別/嘉内の影を追って/羅須地人協会の設立/大地と向きあう/理想を追いもとめて/理想と現実/揺れる思い/運命のいたずら
第四章 ふたたび石に向きあう
志を同じくする人との出会い/生きる意欲/ビジネスマン、宮沢賢治の誕生/猛烈社員の手帳/遺書をしたためて/雨ニモマケズ手帳/グスコーブドリの伝記
第五章 そして、宇宙へ
星座早見/幻想の世界への旅立ち/カムパネルラとの旅/天の野原/りんどうの花/はくちょう座/プリオシン海岸/鳥たちの星/アルビレオの観測所/四次元空間/わし座/神の国へ/幻想空間のりんご/からす座からくじゃく座へ/いるか座/ジョバンニと賢治/インディアン座/ふたご座/さそり座/ケンタウルス座/南十字星/天の川の向こう/石炭袋/もうひとつの「銀河鉄道の夜」、すばるの謎/カムパネルラとの別れ/現実世界の悲しみ/賢治、宇宙へ
旅の終わりに――あとがきにかえて
著者プロフィール
著者の渡部潤一(わたなべ・じゅんいち)さんは、1960年生まれ、福島県出身。天文学者、理学博士。
東京大学、東京大学大学院を経て、東京大学東京天文台に入台。ハワイ大学研究員となり、すばる望遠鏡建設推進の一翼を担う。2006年に国際天文学連合の惑星定義委員として準惑星という新しいカテゴリーを誕生させ、冥王星をその座に据えるなど世界的に活躍。自然科学研究機構国立天文台副台長を経て、現在は、同天文台上席教授。総合研究大学院大学教授。日本文藝家協会会員。
賢治と「星」を見る 渡部 潤一 (著) 天文学者と旅する宮沢賢治の星空 少年、宮沢賢治は夜空を見上げ、何を思ったのだろう? |
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