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1972年発表の名作童話、三木卓さん『お月さまになりたい』が「100%ORANGE」及川賢治さんのイラストでオールカラーの新装版に! 犬と「ぼく」のかわいらしいやり取りの中に、浮かびあがる普遍的なテーマ

三木卓さん作『お月さまになりたい』(絵:及川賢治さん)

三木卓さん作『お月さまになりたい』(絵:及川賢治さん)

1972年に発表された三木卓さんの童話『お月さまになりたい』が半世紀を経てオールカラーの新版になって偕成社より刊行されました。新装版の挿画は及川賢治さんが手掛けています。

 

発表から50年、オールカラーのイラストでよみがえった新版

本作は、今からちょうど半世紀前の1972年に、『おつきさまになりたい』としてあかね書房から刊行されました。当時の絵を手がけたのは、佐野洋子さんでした。

 
作者の三木卓さんは、詩人、小説家として数多くの賞を受賞しており、子どもの本の分野では、「がまくんとかえるくん」シリーズ(アーノルド・ローベル作、文化出版局)の翻訳者としても著名です。同シリーズの第1作『ふたりはともだち』と同じ年に出版された『おつきさまになりたい』は、童話作家としての三木さんの才能があふれた傑作です。

 
今回刊行された新版『お月さまになりたい』では、人気イラストレーター、100%ORANGEの及川賢治さんが全ページにカラフルでポップなイラストを描き、同作の魅力を新しい形で引き立てています。

 

どうしても、お月さまになりたい! 切なる願いを持つふしぎな犬と「ぼく」のお話

本作は、男の子「ぼく」と、ふしぎな犬のやり取りで進むお話です。

▲「学校のかえりに、へんな犬にであいました。どうの長い、白と茶のぶちの犬です。」(本文より)

▲「学校のかえりに、へんな犬にであいました。どうの長い、白と茶のぶちの犬です。」(本文より)

ぶちの犬と出会った男の子が、かわいい犬だなあ、でも、ぼくが好きなのは真っ白い犬なんだ……と思ったとたん、犬は急に、真っ白になります。「こうなれば、かってくれますね」。その犬は、姿を自由に変えられて、男の子の考えていることがわかり、言葉も話せる、ふしぎな犬だったのです。
「ぼくは、じぶんがなりたいものになれるんです。そう思いさえすれば」

 
犬とのやり取りで、すっかりこの犬を好きになった男の子は、犬と楽しい時間を過ごします。
そして、日暮れが近くなったころ、犬は男の子にとある告白をします。
「なんにでもなれるって、いいましたけど、あれは、すこしちがっています。まだ、うまくなれないものがあります。それになりたいために、毎日ここへきて、練習しています」
「それは、なに?」
「お月さま」

 
なんにでもなれる犬が、どうしてもなれない、お月さま。でも男の子には、冷たい岩のかたまりであるお月さまになりたいという犬の気持ちが、どうにもわかりません。それにお月さまになったら、犬はひとりぼっちになってしまいます。男の子は孤独の寂しさを説明し、犬もそれを理解しますが、やはりどうしてもお月さまになりたいのだといいます。
「それでも、ぼく、やってみます」
犬は真っ白い海鳥になって、空へとはばたいていくのですが……。

 

「孤独」「友情」「信念」、重要なテーマが、かわいらしいやり取りの中に

「ぼく」と「犬」、ふたりの会話はテンポがよく、生き生きとして楽しげなのですが、その端々には、幼い子どもたちも含めた誰もが持っている、普遍的な感情が見え隠れします。

 
犬の、どうしてもお月さまになりたいという、理屈抜きの「願い」や、でもひとりぼっちはこわいしいやだ、という「孤独感」。
「ぼく」の、わがままで信念を曲げない犬に対する「反発心」、一方で無茶な挑戦をする犬を心配し、犬が犬であることを慈しみ、そばで見守る「友情」。

 
さまざまなテーマが平易な言葉でつづられており、奇想天外な物語ながら、読者は自然にその世界に入り込み、その本質を感じることができます。

まさに、童話という表現が本来持っている奥深さを感じさせる物語です。

▲物語の最後、やはりお月さまになれず、落下傘(パラシュート)になって落ちてきた犬に呼びかける「ぼく」。

▲物語の最後、やはりお月さまになれず、落下傘(パラシュート)になって落ちてきた犬に呼びかける「ぼく」。

わ、つめたい! 氷のよう。「おい。犬う。ぼくは、お月さまよりも、犬のきみのほうがすきなんだ。はやく犬にもどってよ」でも、犬はきまりがわるいのか、まだ、らっかさんのままです。(本文より)

 
半世紀を経てなおみずみずしい名作の新版を、どうぞお楽しみください。

 

著者プロフィール

 
■作:三木卓(みき・たく)さん

1935年生まれ、東京都出身。小学校2年までの6年間を旧満州大連で過ごす。早稲田大学卒業。詩人としてH氏賞、高見順賞、小説家として芥川賞、谷﨑潤一郎賞、読売文学賞、伊藤整文学賞など受賞多数。

子どもの本の作品に『ぽたぽた』(野間児童文芸賞)、『イヌのヒロシ』(路傍の石文学賞)、『ばけたらふうせん』『おおやさんはねこ』などがあり、アーノルド・ローベルの「がまくんとかえるくん」シリーズや『ふくろうくん』など絵本の翻訳も数多く手がけている。

 
■絵:及川賢治(おいかわ・けんじ)さん

1975年生まれ、千葉県出身。多摩美術大学卒業。90年代半ばから100%ORANGEとして活動を開始。イラスト、絵本、漫画など幅広い分野で活躍している。

『よしおくんがぎゅうにゅうをこぼしてしまったおはなし』で日本絵本賞大賞を受賞。絵本に『ぶぅさんのブー』『コップちゃん』『ねこのセーター』『まるさんかくぞう』『バナナのはなし』『よ・だ・れ』『まちがいまちにようこそ』『ここは』などがあり、漫画に『SUNAO SUNAO』(全4巻)がある。

 

お月さまになりたい
三木卓 (著), 及川賢治 (イラスト)

学校の帰り、ぼくは1ぴきの犬と出会った。どうの長い、白と茶のぶちの犬だ。口ぶえをふくと、うれしそうにとんでくる。ぼくは白い犬が好きだから、そうだったら、かってやるんだけど……と思ったとたん、犬はまっ白に! そのうえ「こうなれば、かってくれますね」なんて話しかけてくる。
ぼくと犬のユーモラスな会話と意外なストーリー展開にひきつけられて読み進めるうちに、孤独と友情をめぐるせつない思いに胸を打たれる珠玉の童話。
1972年に発表されてから半世紀をへてなおみずみずしい名作が、魅力的なオールカラーのイラストにより新たな絵童話に。

 


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