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写真家・初沢亜利さんがコロナ禍、五輪、選挙…首都を覆う緊急事態の東京の変貌を撮り続けた写真集 『東京 二〇二〇、二〇二一。』を刊行

初沢亜利さん著『東京 二〇二〇、二〇二一。』

初沢亜利さん著『東京 二〇二〇、二〇二一。』

徳間書店は、ドキュメンタリー写真家・初沢亜利さんが、史上稀な緊急事態宣言下での五輪開催となった東京の街と人の営みを撮った最新写真集『東京 二〇二〇、二〇二一。』を刊行しました。

 

マスクと自粛に覆われ、「匿名化」していく街と人――写真家はパンデミックの中、東京を彷徨い撮影を続けた。

ドキュメンタリー写真家として、初沢亜利さんはこれまでイラク戦争前後のバグダッド、2011年3月11日に発生した東日本大震災の被災地東北、国際社会に刃を向ける北朝鮮、民主化運動に揺れた香港など、常に時代の爆心に身を置き撮影を続けてきました。

手触りのある空気感、人々の営みと喜怒哀楽など、報道写真では決して伝わってこない現地のリアル。独自の美意識で切り取る、初沢さんのスナップならではの写真力です。

 
本書で初沢さんが挑んだモチーフは、2020年、2021年の東京。この2年、首都東京には、新型コロナウイルスによるパンデミック、人々に活動の自粛を半ば強制した史上初の緊急事態宣言、56年ぶりの開催となる東京オリンピック、衆議院議員選挙など有事が連続しました。

活気あふれる街の声は、人流の抑制、自粛の号令によって消え去り、人々は外出時はマスクで口元を覆い、距離を取った。法的拘束力はないが、誰もが目に見えない同調圧力によってあらゆる活動を控えました。

外出さえはばかられる中を、初沢さんは連日、都内各所でカメラを構え続けました。居住地であり、故郷でもある東京。仕事としての依頼を受けたわけではない。ある心境の変化が彼を衝き動かしました。

 
「2010年からおよそ10年の間に、北朝鮮、被災地東北、沖縄と廻り4冊の写真集を制作しました。その過程は東京から見渡した際の周縁をめぐる長い旅のようでもあり、その過程で見返す東京という土地は、巨大な権力都市に見えたものです。東京目線が持つある種の権力性は、僕自身の眼差しそのものではないかと思い、自戒する年月でもありました。
長旅を終えた僕が次に撮るべきは、幼少期より居住し、今なお拠点とし、半ば同一化している東京ではないかと」(初沢さん)

 
そこには、移住先の沖縄で知り合った写真家・石川竜一さんから言われた「初沢さんが東京を撮ったものが見たい」という言葉が響いています。

「被災地東北や沖縄、北朝鮮を、東京人として見て消費する側の一人という前提で巡ってきた。それが政治、経済、マスメディアの中枢である東京に帰った時、あなたはそこで何を撮るんですか?という本質的な問いかけとして僕は彼の言葉を受け止めたんです」(初沢さん)

 
腰を据えて東京と向き合い出したところでコロナ禍が発生した。感染者および死者数が突出していた東京都民の自粛ぶりは驚異的だった。初沢さんと近しいジャーナリストの多くも自粛しました。不要不急か否かを決めるのは自分自身と考え、初沢さんは街に出ることを選びました。

 
満開の桜に春雪が舞う無人の花見の名所・上野公園、営業自粛要請に従う店と抗う店、マスクの下は満面の笑みであろう無邪気に遊ぶ子供たち、五輪の狂騒、コロナ禍とは無関係に晴れ渡る空、バブルの中に納まりきらなかった外国人選手たち、愛する気持ちを自粛できない恋人たち、路上の人々の変わりなき日常、グータッチを求める前首相……写真家は時間も場所も問わず、彷徨い続け、東京の今を記録したのです。

 
「コロナ禍とは何なのかを言葉で総括することはまだできません。写真家の仕事は、現実の中で5秒前にも5秒後にも存在しない瞬間から歴史を抽出する作業です。本書所収の168点は様々な判断を躊躇し、右往左往した我々自身の自画像であり、そこには撮影者である私自身の迷いも含まれます。コロナ禍を通じ相互監視は強化されました。誰もが隙を見せたらつけ込まれてしまう神経質な社会はこれからも続くのでしょう。この2年を通じて何が変わり、何が変わらなかったのか。記憶の手引き、次世代に語り継ぐ資料として、この写真集がわずかでも役に立てば幸いです」(初沢さん)

緊急事態宣言下で人流が消えたJR原宿駅前。

緊急事態宣言下で人流が消えたJR原宿駅前。

2020年5月29日、東京タワー上空を飛ぶ、医療従事者への感謝と 敬意を示すブルーインパルス。

2020年5月29日、東京タワー上空を飛ぶ、医療従事者への感謝と 敬意を示すブルーインパルス。

日本橋三越前、ライオンのコスプレをしたゴールデンレトリーバー。

日本橋三越前、ライオンのコスプレをしたゴールデンレトリーバー。

マスク姿で晴れ着の成人式。

マスク姿で晴れ着の成人式。

2021年4月18日、早朝の高円寺駅前。

2021年4月18日、早朝の高円寺駅前。

2021年4月30日、酒類の提供を禁じられた阿佐ヶ谷の居酒屋。

2021年4月30日、酒類の提供を禁じられた阿佐ヶ谷の居酒屋。

2021年5月8日、立川相互病院とその前を通過する多摩モノレール。

2021年5月8日、立川相互病院とその前を通過する多摩モノレール。

2021年7月23日、東京五輪開会式、花火が上がる国立競技場。

2021年7月23日、東京五輪開会式、花火が上がる国立競技場。

2021年10月3日、銀座の歩行者天国での全身金粉まみれの紳士と少女。

2021年10月3日、銀座の歩行者天国での全身金粉まみれの紳士と少女。

都内在住の古今の日本のマスクコレクターの逸品たち。

都内在住の古今の日本のマスクコレクターの逸品たち。

 

著者プロフィール

初沢亜利(はつざわ・あり)さんは、1973年、フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒業。第13期写真ワークショップ・コルプス修了後、イイノ広尾スタジオを経て写真家としての活動を開始する。

東川賞新人作家賞、日本写真協会新人賞、さがみはら賞新人奨励賞を受賞。
写真集に『Baghdad2003』(碧天舎)、『隣人。38度線の北』『隣人、それから。38度線の北』(共に徳間書店)、『True Feelings 爪痕の真情』(三栄書房)、『沖縄のことを教えてください』(赤々舎)、『東京、コロナ禍。』(柏書房)。

★Twitter:https://twitter.com/arihatsuzawa
★Facebook:https://www.facebook.com/ari.hatsuzawa

 

『東京 二〇二〇、二〇二一。』刊行記念写真展が開催決定!

初沢亜利「匿名化する東京」

■会期:2022年1月11日(火)~2022年1月30日(日)

■時間:12:00-19:00(最終日は16:00まで) ※月曜休廊

■会場:RooNee247
[住所] 東京都中央区日本橋小伝馬町17-9 さとうビルB館4F
[TEL] 03-6661-2276
[URL] http://www.roonee.jp/

 

東京 二〇二〇、二〇二一。
初沢亜利 (著)

マスクと自粛に覆われ、「匿名化」していく街と人。
写真家・初沢亜利はパンデミックの中、東京を彷徨い撮影を続けた。

北朝鮮、被災地東北、沖縄への撮影の旅から帰還した彼の目が捉えたのは、巨大な権力都市の姿、そして右往左往する我々の「自画像」だった――。

史上稀な危機下で営まれる東京の日常、人間模様。次世代に残すべき全168カット。

<後記「東京の自画像」より抜粋>
2010年からおよそ10年、北朝鮮、被災地東北、沖縄と廻り4冊の写真集を制作した。
東京から見渡した際の周縁をめぐる長い旅のようだった。
その過程で見返す東京という土地は、巨大な権力都市に見えた。
東京目線の権力性は、自身の眼差しそのものではないかと自戒する年月でもあった。
長旅を終えた私が次に撮るべきは、幼少期より居住し、今なお拠点とし、半ば同一化している東京ではないか。
しかし、そこには自身の内面を覗き込むような不快さがあり、気が重かった。(略)

2016年から2018年にかけて、政権が移行した北朝鮮の変化を写した。
2019年後半は民主化運動に沸く香港も3度撮影した。(略)

居住地をスナップするためには、日常的にカメラを持ち歩き写真脳を常にオンにしておく必要がある。
2019年末からウォーミングアップ期間に入り、年始から意識的に都内を徘徊した。
心身ともに街へのアンテナを張る体勢が整った頃、コロナ禍に突入してしまった。
2020年は56年振りにオリンピックイヤーを迎えるはずだった。
1964年のような高度成長期の高揚感はないものの、インバウンドに拍車がかかり、観光産業をバネに日本経済再浮上を夢想した日本人は少なくないだろう。
春になれば、オリンピックへのカウントダウンをメディアが煽りまくり、国民はいつしか漠然とした高揚感に包まれたことだろう。
空気のように押し流される群衆心理に逆らえず、オリンピックを喜ばなければ非国民であるかのような同調圧力も生じたかもしれない。
オリンピック開催により東京がどう脚色されるか。
様々な日本人像も垣間見られるこの機会にタイミングを合わせ、撮影を開始したはずだった。(以下、略)

 


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