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初めてのお客さんは泥棒!? ルワンダでタイ料理屋を開業した日本人シングルマザーによるノンフィクション『ルワンダでタイ料理屋をひらく』刊行

唐渡千紗さん著『ルワンダでタイ料理屋をひらく』

唐渡千紗さん著『ルワンダでタイ料理屋をひらく』

大手キャリアを手放し、5歳の息子とルワンダでタイ料理屋を開業した日本人シングルマザー・唐渡千紗さんによるノンフィクション『ルワンダでタイ料理屋をひらく』が、左右社より発売中です。

 

IT’S RWANDAFUL LIFE!(素晴らしき哉、ルワンダライフ!)

人生このままでいいのか? 思い悩んだ著者は30歳の誕生日に突然「ルワンダでタイ料理屋をひらこう」と決意します。5歳の息子とともに新天地へ渡り、タイ料理屋「ASIAN KITCHEN」をオープンさせるも日本の常識が通用しない状況に日々困惑するばかり。そんな不安な毎日を支えてくれたのは息子・ミナトと、どんな過酷な状況もたくましく生きるルワンダの人々でした。人生の岐路に立つすべての人を応援するノンフィクション作品です。

 
◆はじめてのお客さんは泥棒!?

スタッフと仕込みをしていると、キャッシュカウンターのあたりに誰かが来たことに気づいた。お客様第一号ご来店! と一瞬沸き立ったのも束の間、何だか様子がおかしい。いらっしゃいませ、と声をかけると、ルワンダ人の若い男性二人組は、店内をキョロキョロ見回しながら、「ドリンクは何があるの?」と聞いてくる。(中略)
エブリンが、ルワンダ語で奥にいる男のシェフに声をかけつつ、表の警備員を呼びに行く。店側が警戒心を見せると、男性二人組はそそくさと出て行った。
「泥棒だねぇ」
エブリンは、またいつものように平然と言った。
「え? アー・ゼイ・シーブズ?」
「イエス、ゼイ・アー。ゼイ・アー・シーブズ」
中学生の英文法の練習問題のように、数回繰り返してしまった
(CHAPTER2「珍事は続くよ、どこまでも『はじまりは珍客から』」より)

 
◆虐殺の過去を語るスタッフ、イノセント

でもイノセントは話しながら何度も、「アイ・アム・ラッキー。イッツ・ミラクル」と挟んだ。
きっと彼は、心底そう思っている。身寄りがない自分に食料を分けてくれたり、一つ屋根の下に寝かせてくれたりした人たちへの感謝の気持ちは、五年しか彼のことを知らない私が言うのもおこがましいが、彼の言動の端々からにじみ出ている。確かに、奇跡だ。この状況で、希望を捨てずに明日を信じて一日一日を生き抜いてきたイノセントの強さが、奇跡だと思った。
(Chapter5「2020年、春『イノセントのキセキ』より)

 

本書「Chapter1 アフリカでタイ料理屋を開くのだ」より

「あなたの人生これでいいの」?という心の声が止まない。その問いに、「イエス」がどうしても出てこなかった。「ノー」じゃないならいいじゃない、そうやって日々を過ごす。遠くに行きたくて社内制度のリフレッシュ休暇をとった。そう、「リフレッシュ」して、また元の生活に戻るはずだった。ところが、この旅行でのルワンダとの出会いが、私の人生を変えたのである。

 
心を空っぽにして、ただただ夜明け前の空気に包まれる。いつからか機能制御がかけられていた五官が解放されていくような感覚。思考を止めても、体の細胞一つ一つが自然界と共鳴し、目覚めていくかのようだった。6時頃の日の出に向けて空が白み始めるのと並行して、声たちも少しずつ増えていく。近くからも遠くからも、ポポポポポポ……キョキョキョキョキョキョ……といろんな小鳥がしきりにさえずり始め、峰々は徐々に輪郭を現していく。

 
うん。そーね。ルワンダに引っ越そう。三十歳の誕生日を迎えながら、私は決めていた。ごくごく自然な流れに感じた。 そんな風に、導かれるようにルワンダ行きを決めた私だけれど、一応プランはある。それもズバリ、タイ料理屋を開く! え? どういうこと? と驚くのもわかる。私も他人からそんな話を聞いたら、きっとそう思う。

 

本書の目次

Chapter1 開店準備は珍事の連続
アフリカでタイ料理屋を開くのだ
廃墟とケニア人エリック
ミナト、おぼっちゃま幼稚園に通い出す
集団食中毒は神の思し召し
すったもんだのビザ申請
どうしても赤くなるグリーンカレー
エブリンの94年
脱廃墟に東奔西走
死にものぐるいで施工監督
ノープロブレム!しか言わない求職者たち
レシピってなんですか?

Chapter2 珍事は続くよ、どこまでも
はじまりは珍客から
何をそんなにお急ぎで?
日本を忘れる修行
注文の多いお客さん
スタッフはタイ料理が嫌い
陸の孤島の物流問題
水も出ないし電気も来ない
雨はまだか
大雨季
ジェノサイド・アゲインスト・ザ・ツチ
ミナト、卒園おめでとう

Chapter3 貧しいって、ツラいよ
起こさねばならない奇跡
スロー・ラーナー
シングルマザーばっかり
ザッツ・ライフ
脅迫電話
はねられたのは、エマーブルだ!

Chapter4 歩き続ける
慈善事業じゃないんだよ
もう、店なんてやめる
親離れ、子離れ
ミナトに謝れ
出産事情
一時帰国の風物詩
四年ぶりの日本の桜

Chapter5 2020年、春
新型コロナ、ルワンダ上陸
帰るか、残るか
ロックダウン開始
通勤は冒険
新型コロナvsマラリア
この国の底力
越えられない国境
門限までに、突っ走れ!
イノセントのキセキ
見えてきたもの

おわりに

おまけページ:ルワンダを知る
基本情報&地図
観光情報
食生活&ルワンダ語
ルワンダ年表

 

著者プロフィール

著者近影

著者近影

?著者の唐渡千紗(からと・ちさ)さんは、1984年生まれ。東京都出身。早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに就職、人材事業に従事。30歳で退職し、当時5歳の息子を連れてルワンダへ移住。

日本とは全く異なる環境であるルワンダで、ゼロからタイ料理屋 ASIAN KITCHEN を立ち上げ、経営に奮闘している。

 

ルワンダでタイ料理屋をひらく
唐渡千紗 (著)

日本人シングルマザー、アフリカで人生を変える!

突然の思いつきから、五歳の息子とともにルワンダへ渡り、タイ料理屋「ASIAN KITCHEN」をひらくことにした著者。
ルワンダには旅行で訪れたことがあるだけで、飲食店での勤務経験もなし。そんな突然の決意に驚く周囲を振り切って、無事にお店をオープンさせるが、はじめてのお客さんはまさかの泥棒!?しかも、スタッフは電子レンジを水洗いして壊すし、突然の停電と断水なんて日常茶飯事だし……あ?もう発狂寸前!
常に困惑しながらも、息子ミナトや、過酷な状況でもたくましく生きるルワンダの人々に背中をおされて奮闘する日々を描く。人生という「旅」の醍醐味が味わえる傑作ノンフィクション。

 


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