『親の「死体」と生きる若者たち』ひきこもりの若者たちは50歳を越え、親が80歳を過ぎても、まだ居場所を見つけられずにいた
50代になったひきこもりと80代の親が社会的に孤立し困窮する「8050問題」に関する、山田孝明さんの著書『親の「死体」と生きる若者たち』が、青林堂より刊行されました。
40代50代のひきこもり支援組織「市民の会 エスポワール京都」を主宰、長年当事者とその家族のケアにあたってきた著者が、50代のひきこもりとその家族の厳しい現状と、我々はこの問題にどう向き合うべきかを綴ったノンフィクションです。
80代の親が50代のひきこもりの子供を養う
平成27(2015)年度の内閣府調査によると、ひきこもりの総数は約52万人となっており、その5年前の平成22年度の調査では約70万人でした。
この数字においては、情況は改善されているかのように見えますが、統計には40歳以上が含まれていません。つまり平成22年度の段階で約17万人いたとされる35~39歳の当事者は、平成27年度の調査では対象から外されていたのです。
KHJ全国ひきこもり家族会連合会によると、ひきこもりの相談件数のうち、4割以上が40代以上となっており、平成27年度に対象から外れた約17万人の大半は、いまだひきこもりから抜け出せない状態であるとのことです。
東京都など40代以上も調査対象にした都道府県では、40代以上のひきこもりが全体の半数前後という、驚くべき結果も出ています。
内閣府が4月に発表を予定している調査では、40~59歳も対象としており、その結果が注目されています。
親子ともに高齢化の行き着く先
若者のひきこもりは昭和末期から平成初期にかけて、徐々に社会問題となっていきました。それから約30年の時を経ても当事者の多くが未だ抜け出せずにいます。
しかし、いつまでもこの状態を続けることは不可能で、親が病死し、その死体を放置したことで、子供が逮捕されるという悲劇的な結末も、今後ますます増えるだろうと山田さんは警告します。『親の「死体」と生きる若者たち』というタイトルはまさにひきこもり家庭の置かれた、厳しい現状を表した言葉でもあります。
ただ彼らには、一部報道に見られるように年金目当てで親の死を隠したのではなく、親がいなくなるということが受け入れられず、また社会経験がないために親の死にしかるべき対処ができなかったという事情があります。つまり彼らはあえて、あるいはやむなく親の死体と一時を生きるという選択をしたのです。
高齢化するひきこもりの親子にこうした結末を迎えさせないために山田さんが始めたのが「市民の会 エスポワール京都」です。
十人十色のひきこもり事情と希望
山田さんはこれまで、数百名に及ぶ当事者やその家族を支援してきました。ケースによっては遠く石垣島まで当事者を連れて行き、傷ついた心を癒したり、昼夜を問わず駆け付けたりするなど、当事者とその家族に寄り添ったサポートをしています。特に孤立無援の状態だった40代50代のひきこもりの親に対して、真摯に向き合い、親身になって相談を受けてきました。
「もはや手遅れ」と山田さん自身が痛感する、40代50代のひきこもりの問題ですが、「市民の会 エスポワール京都」の活動の中で一筋の光明も見えてきています。
何より当事者が苦しい胸のうちを切々と訴えるようになったのは、本人にとっても親にとっても大きな前進です。本書の中には、もがき、苦しみながらも必死に現状から抜け出そうとする当事者の声と、それに応える山田さんの温かい言葉も綴られ、それが救いとなっています。
彼らの「親より先に死ぬ方が親孝行」「親が死んだとき、ちゃんと通報できるようにしたい」という言葉は壮絶ですが、これを言えるようになったこと自体が大きな進歩と言えるでしょう。
本書は、あとがきで著者が述べているように、これから先、このことが社会現象化するであろうと思われる中、「8050問題」の本質を考察する一助として書かれました。
本書の主な内容
●統計の対象外になっている40代以上のひきこもりは17万人以上。
●社会に認識されない40代50代ひきこもりの親たちのやりきれない思い。
●8050問題は、高齢の親を死ぬまで苦しめ、子供も苦しむ。
●母と娘が誰にも気づかれず……。孤立する親子の行き着く先。
●親が亡くなり、息子は死体遺棄で逮捕。親子心中で懲役刑というケースも!
●親より先に死ぬことが親孝行!? 50代ひきこもりの悲痛な本音。
●支援活動の現場から。50代ひきこもりも変わることができるか。
山田孝明さん プロフィール
著者の山田孝明(やまだ・たかあき)さんは、1953年生まれ。名古屋出身。
1994年、京都市東山区に若者の居場所「ライフアート」を設立する。京都・大阪・神戸・名古屋と各地に「オレンジの会」を立ち上げる。奥山雅久さんと共にKHJ全国ひきこもり家族連合会を設立する活動に参加する。現在は40代50代のひきこもりの子供を持つ家族に特化して「市民の会 エスポワール京都」を主宰。京都・名古屋・岡山・兵庫・広島と関西西日本を中心に家族の勉強会・講演活動をしている。
親の「死体」と生きる若者たち 著者は40代50代ひきこもり家庭支援組織「市民の会 エスポワール京都」を主宰。 80代親と50代引きこもり! ともに高齢化する親子の行き着く先には、親の死体とともに一時を生きる子供たちがいた! |