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少女失踪事件を追ったリアリティショーが全米中に衝撃を与えてから10年……いま明らかになる事件の真相とは? 『キル・ショー』が刊行

アメリカで新人にして異例の初版10万部スタートで上梓され、全米中で大きな反響を呼んだダニエル・スウェレン=ベッカーさんによるミステリー第一作『キル・ショー』(訳:矢口誠さん)が扶桑社より刊行されました。特異な叙述形式と意想外の展開で、著者の優れた才覚があふれ出る「実録犯罪」ミステリーです。

 

少女失踪事件を追ったリアリティショーが全米中に衝撃を与えてから10年……関係者26人の証言からいま明らかになる事件の真相とは……!?

「大量の伏線が緊張感と疾走感を支え、独特の声とユニークな視点を持つ鋭く描写されたキャラクターたちが物語に立体感と真実味を加味する。アメリカのトゥルー・クライムに対する執着についての痛烈な社会批評を包含した、魅力的なフィクション。」
――カーカス・レビュー

 
【あらすじ】

4月の朝、突然失踪した16歳の少女。
サラに何が起こったのか?

アメリカ東部の田舎町フレデリックで、16歳の女子高生サラ・パーセルが失踪した。手がかりゼロ、目撃者ゼロ。家族の同意のもと、大手テレビ・ネットワークによってその事件をリアルタイムで報道する連続リアリティ番組が制作され、全米は不安と熱狂の渦に叩きこまれる。

 
いくつもの悲劇とスキャンダルを引き起こした番組の放送から10年――。26人の事件関係者の証言から謎に包まれた事件の真相が浮かびあがってくる。

 

「訳者あとがき」より抜粋「わたしはこの設定を読んで著者の才能に感心し、物語世界に一気に引きこまれてしまった」

わたし自身がここで読者にお伝えしたいことはただひとつ、「この小説は面白い」という点のみだ。

とはいえ、最初に読んだときは、それほど期待をいだいていなかった。本書は純粋に事件関係者の証言だけで成り立っている。謎の手記だとか、被害者の日記、当事者同士が交わしたメールなどといったものは、いっさい挿入されない。とすれば、ミステリー的な凝った仕掛けはあまり期待できないのではないか、と思ったのである。

ところが、この予想は大きく裏切られた。本書は物語のあらゆる場所に驚きとひねりが仕掛けられている。しかもその多くは、うっかり内容紹介をするとネタバレとなり、読者の楽しみを奪ってしまいかねない。

たとえば、である。冒頭でご紹介した本書の設定を読んで、「現在進行形の犯罪事件をリアルタイムで報道するリアリティ番組など、現実には制作されるはずがないのでは?」と思った方はいないだろうか。これは素朴な疑問だが、同時に非常に重要な点でもある。もしここで読者を納得させられなければ、作品はリアリティを持ち得ない。ただの絵空事になってしまう。とはいえ、リアリズムを重視した作品の設定として、これはかなりの無理筋だ。では、いったいどうやって成立させるのか?

この難関を、著者のスウェレン=ベッカーは巧みなアイディアでクリアしてみせる。番組制作のきっかけとなるのは、ある人物がなにげなくやった行為なのだが、これは設定に無理がないだけでなく、「それに似たことは、すでに現実世界でも起きているのでは」と思わせるリアリティと説得力がある。わたしはこの設定を読んで著者の才能に感心し、物語世界に一気に引きこまれてしまった。

各章の終わりに必ず意外な展開が仕掛けられた本書が、圧倒的なスピード感に溢れたエンターテインメント小説であることだけは保証しておこう。

もうひとつ、これはやや蛇足かもしれないが、本書は一読してからすぐに再読すると、「おお!」と思うような発見が随所にある。たんに伏線が巧妙なだけでなく、「ネタバレ寸前の大胆な描写がこんなところに!」という驚きが、あちこちに隠されているのだ。すでに本文を読み終わった方は、冒頭の数十ページだけでも再読すると面白いと思う。

 

著者プロフィール

ダニエル・スウェレン=ベッカーさんは、作家、テレビ脚本家。コネティカット州のウェスリアン大学を卒業後、ニューヨーク大学で美術学修士号を取得、現在はロサンゼルスに在住。

2016年、ヤングアダルト小説『The Ones』 を発表、翌年その続篇『 Equals』を刊行し、いずれも高い評価を得る。本書は彼のミステリー第一作。新人にして異例の初版10万部スタートで上梓され、全米で大きな反響を呼んだ。

 

キル・ショー (海外文庫)
ダニエル・スウェレン=ベッカー (著), 矢口 誠 (翻訳)

 


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