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アイデンティティもわからない、イデオロギーも失われた国の焦燥はどこから来るのか?『ロシアとは何か』が刊行

民族弾圧、他国への実効支配を拡大し続けるロシア、そして中国の野望とは――モンゴル史を専門とする東洋史家・宮脇淳子さんがユーラシア的視点からその動機と深層を説く『ロシアとは何か』が扶桑社より刊行されました。

 

ロシアを紐解けば、世界がわかる!

「偉大なるロシアの復活」を標榜してウクライナ侵攻を続けるプーチンのロシア。
習近平の中国もまた「一帯一路構想」を提唱するが、その実体はともにユーラシア大陸全体を支配する世界覇権をめざしているに等しい。

 
「文明と文明の衝突の戦場では、歴史は、自分の立場を正当化する武器になる」と著者は説きます。

ところが、イスラムについては、「イスラム文明の内部では歴史学は意義の軽いものにすぎず、地理学の補助分野」であり「いまでもイスラム諸国は、イスラエルやヨーロッパ・アメリカ諸国との関係において、自分の言い分がなかなか通せず、つねに不利な立場に立たされている」。

また、日本では、自虐史観に反発する人は対抗するものとして「日本神話」を持ち出したりするように、「歴史とは自分たちが納得できるように過去を説明するストーリーであり、文化や立場、国ごとの世界感や歴史認識により、その筋書きが違ってくる。よって、史実が明らかにさえなれば、紛争の当事者双方が納得し、問題が解決するというようなものではない」…と本書には、現代の不安定な世界情勢を読み解く「歴史認識」への示唆が凝縮されています。

 
<いまなぜユーラシアから見た世界認識が必要なのか>

(本書プロローグより抜粋)

「世界史からロシアを見る、とは、どういうことでしょうか? また、いまロシアの歴史を考えることにはどんな意味があるのでしょう? 
二〇二二年二月に始まったロシアによるウクライナ侵略はいまも戦闘が続き、世界を大きく揺さぶっています。こんなとき、悠長に昔のロシアの話をすることにどんな意味が? と思う人もいるかもしれません。
いいえ、正確に言うと、揺さぶられているのは私たちの”世界認識”ではないでしょうか。
この現代に、大国の軍隊が隣国に攻め入り、掠奪や虐殺をしている。それを私たちの民主主義は止めることができない……これが私たちに不安と恐怖をもたらしているのではないでしょうか。
ロシアがいまのようなロシアになり、二十一世紀のこんにち戦争を起こした、その理由を、動機を知りたい、考えたいと思いませんか。
それには私たちの”世界認識”をアップデートすることから始めるべきではないのか。
それが本書の企画の始まりでした。」

 
著者の夫であり師である、日本を代表する東洋史の碩学、故岡田英弘さんの学説(岡田史観)のエッセンスを紐解きながら、ユーラシアを俯瞰することで見えてくる、日本人に必要な世界史理解、世界で果たすべき役割に導く一冊です。

 

本書の構成

プロローグ いまなぜユーラシアから見た世界認識が必要なのか―

二〇一四年、ロシアのクリミア侵略に失望した私たち日本人―
なぜ日本人のロシア・中国への予測ははずれてばかりなのか―
学問の真髄は「疑うこと」と「修正」―
学問とは何か、よい学問・悪い学問とは―
だまされないように、自分をだまさないように、自分の頭で歴史を学問しよう―

第一章 巻頭特別講義 入門・岡田史学―
日本の歴史学を少しずつ、しかし大きく動かしている岡田英弘―
岡田史学の問題提起―世界中どこにでも歴史があるわけではない―
岡田史学の前提―歴史とは何か、歴史は文化である―
歴史のない文明―インド文明、イスラム文明、アメリカ文明―
アメリカ文明に歴史がない理由―アメリカは現在と未来にしか関心がない―
日本の「世界史」教育―始まりから問題をはらんでいた―
西洋史のもとになった地中海(ギリシア・ローマ)文明―ヘーロドトスが書いた世界―
西ヨーロッパ文明の重要な世界観―変化と対決こそが歴史―
「歴史」は日本語の熟語―代々つながっていく「史」―
東洋史をつらぬく大原則―天が命ずる「正統」の観念―
日本の西洋史の矛盾―背景にあるシナ型の正統史観―
モンゴル帝国から世界史が始まったという理由―
中国、ロシア、インド、トルコ、東欧はモンゴル帝国の後裔で、それ以外にも強い影響―
日本史はどうつくられたか―シナの圧迫に対抗したナショナリズム―
「よりよい歴史」を書ける個人とは―
四つの課題―「歴史認識」「歴史戦」に負けない「よりよい歴史」のために―
自虐史観・日本中心史観を超えて―大日本帝国史を日本史として扱うべき―

第二章 ロシア史に隠された矛盾―ユーラシア史からロシアの深層を見る―
ボロディン「ダッタン人の踊り」―世界史は思わぬところに顔を出す―
コサックの子孫であるウクライナが「もともとロシアの一部」?
つくられた民族的トラウマ「タタールのくびき」―
アイデンティティもない、歴史もない、ないない尽くしのロシア―
人には「神話としての歴史」が必要―

第三章 国境を越える相互作用―
ヨーロッパ文化の粋「フレンチのフルコース」が、じつはロシア生まれ―
シナ・台湾のラーメンがどうも日本と違う、と感じてしまう理由―
お酒を蒸留したのは遊牧民―
ふたたびトルコ料理について―文明の十字路とは―
モンゴル帝国の飽食―
シンガポール成長の鍵―華僑の旺盛な「食欲」―
バレエがロシアで進化した理由―
外国の文化を受け容れると、身体の使い方まで変わってしまう―
モンゴル帝国が西洋に広めた、権力者のための娯楽―

第四章 中国がめざす「モンゴル帝国の再現」―「一帯一路」とは―
日本人に焼きつけられた「シルクロード」のイメージ―
つい最近まで中国人は「シルクロード」に興味がなかった―
「ユーラシアは意外に狭い」というのがモンゴル帝国的な感覚―
政治力・経済力・軍事力と、歴史を捏造する力がセットになった「一帯一路」―
中・ロが得意な「サラミ戦術」、なぜ日本やアメリカは苦手?―
モンゴル帝国を準備した中央アジア―非遊牧民のイスラム商人―
チンギス・ハーンを”教祖”としたモンゴル帝国―
モンゴル帝国がつくりあげた「近代帝国」のかたち―
マルコ・ポーロと「海のシルクロード」―
アメリカがいま「モンゴル帝国」を研究する理由―
「中華思想」とは”漢字を読めるかどうか”にすぎなかったのに―
東西ユーラシアに広がっていた”非漢字文化圏”―
日本人が事実を、シナ人が実利を追い求めるのはなぜか―
帝国支配のかなめ―新疆ウイグルの人びとをなぜ弾圧し続けるのか―
ハンバントタ港の「九十九年」と、香港の「九十九年」―
アメリカが世界覇権を握った、世界史的に見て奇妙な理由―
「一帯一路」を「八紘一宇」と比べてみると―
歴史的真実と「よい歴史」を、私たちは武器とすべき―

第五章 ロシア、中国はモンゴル帝国の呪縛から解放されるか?―
モンゴル語の「勅令」がロシア語では「荷札」へと変わってしまった―
ロシア農奴制の謎―近世にやっと成立したのはなぜ?―
コサックは”逃亡農奴”ではない―プーシキン「プガチョーフ叛乱史」に描かれた姿―
強力なコサック兵力を欲したロシア―コサックの歴史的扱いの変遷―
ロシア史は偽造された―
「ユーラシアニズム」という名のロシア・ファシズムの発生―
弱点は美徳、後進性は特別な運命―ロシア人の歴史的な諦め―
ロシア人とは誰か―「ルースキー」と「ラシアーニン」―
「カリスマ的指導者」と「巨大な地理的領域」を切望するネオ・ユーラシアニズム―
歴史を改竄する動機にある民族的思想とは―
ロシア、中国がそれぞれ夢想する「モンゴル帝国再興」は可能か―
「よい歴史」を書く勇気を―

 

 


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