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【第33回吉田秀和賞】藤原貞朗さん『共和国の美術―フランス美術史編纂と保守/学芸員の時代―』が受賞

水戸市芸術振興財団は、優れた芸術評論に贈る「第33回吉田秀和賞」の受賞作を発表しました。

 

第33回吉田秀和賞の受賞作が決定!

第33回吉田秀和賞には、候補書籍149点の中から、次の通り受賞作が決定しました。審査員は片山杜秀さん(評論家・慶應義塾大学法学部教授)、堀江敏幸さん(作家・早稲田大学文学学術院 文化構想学部教授)。

 
<第33回吉田秀和賞 受賞作品>

藤原貞朗(ふじはら さだお)さん
『共和国の美術―フランス美術史編纂と保守/学芸員の時代―』(名古屋大学出版会)

 
受賞者の藤原貞朗さんは、1967年生まれ、大阪府出身。大阪大学大学院文学研究科博士課程退学。大阪大学大学院文学研究科助手を経て、現在、茨城大学人文社会科学部教授。著書に『オリエンタリストの憂鬱』(めこん、2008年/渋沢・クローデル賞本賞、サントリー学芸賞受賞)、『山下清と昭和の美術』(服部正さんとの共著/名古屋大学出版会、2014年)、訳書にダリオ・ガンボーニ『潜在的イメージ』(三元社、2007年)、タルディ『塹壕の戦争1914-1918』(共和国、2016年)、タルディ/ヴェルネ『汚れた戦争1914-1918』(共和国、2016年)など。

藤原さんには、表彰状と副賞200万円が贈られます。なお、贈呈式は11月11日(土)14時から水戸芸術館会議場にて開催。

 
「審査委員選評」「受賞者からのコメント」など詳細は、https://www.arttowermito.or.jp/topics/article_41283.html をご覧ください。

 

吉田秀和賞について

吉田秀和賞は、水戸芸術館開設を記念して、音楽を中心に芸術評論に多大な功績のあった吉田秀和さんの名を冠し1990年に創設された文化賞です。

芸術文化を振興することを目的として、音楽・演劇・美術などの各分野で優れた芸術評論を発表した人物に贈られます。

 

共和国の美術―フランス美術史編纂と保守/学芸員の時代―
藤原 貞朗 (著)

王なき世俗国家で人々は芸術に何を求めたのか。戦争に向かう危機の時代に、中世宗教美術や王朝芸術から、かつての前衛までを包摂するナショナルな歴史像が、刷新された美術館を舞台に創られていく。その過程を、担い手たる学芸員=「保守する人」とともに描き、芸術の歴史性を問い直す。

◆『アートコレクターズ』(2023年5月号、著者インタビュー)
“―― 現在でも影響力を持つ当時の活動がなぜ研究の俎上に載らないのでしょうか。
第二次大戦後に自由主義陣営となる上で、保守的なフランス美術史が黒歴史だったからです。事実当時の学芸員の中にはナチスの芸術政策を支持した人も少数ながらいますし、保守的な美術史観の構造もかなり似通っていました。そのため、自由フランスが真のフランスだと自称するためには、当時の美術史観を直ちに捨て去る必要があったのです。
しかし、当時作られた美術史やルーブル美術館の展示方法などは基本的に継承されています。結果として保守的な政治思想が忘却され形だけが残っている歪な状態が現在です。研究でもこの分野は真空地帯になっており、文字通り何もなかったかのように見做されていますが、そのような状況こそが最も恐ろしいのではないでしょうか。
確かに、美術家においても批評家においてもこの時期のフランスには際立った天才がいませんでした。この時期の美術家個人の研究は盛んですが、より大きな全体意思を相手にすると、研究のハードルはかなり上がります。だからこそ、本書では作家や批評家の思想を追うのではなく、様々な人物の具体的な行動を歴史の主要なファクターにすることで、自ずと浮かび上がってくる時代の空気を捉えようとしました。……”(p.137)

 
【関連】
「第33回吉田秀和賞」受賞者決定のおしらせ|水戸芸術館

 


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