【第1回日伊ことばの架け橋賞】森下典子さんが『日日是好日』が受賞
イタリア外務省が設立した伊日財団が、イタリア国内に日本の近代文学を広めることを目的に「日伊ことばの架け橋賞」を創設し、第1回にあたる本年の受賞作が、エッセイストの森下典子さんが執筆した『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』に決定しました。日本特有の文化と紹介されることの多い「茶道」ですが、森下さんの文章からは、イタリア文化と日本文化の共通性が浮かび上がり、今回の受賞へとつながりました。
累計68万部を突破、映画化もされた「お茶」の物語が、イタリアで大きな注目を集め、第1回日伊ことばの架け橋賞を受賞
世の中には、「すぐにわかるもの」と、「すぐにはわからないもの」の二種類がある。そして、すぐにはわからないものは、何度か行ったり来たりするうちに、後になって少しずつじわじわとわかりだし、「別のもの」に変わっていく――。著者である森下典子さんは、お茶を通しさまざまな「気づき」を経験します。
季節ごとの雨音の違い、風の香り、一期一会の本当の意味など多くのことを教えてくれたお茶は、やがて森下さんの心の支えとなっていきます。それらの気づきと自身の半生を重ねながら執筆した『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』は多くの人たちの心を打ち、2002年の単行本発刊以来、日本国内では累計68万部を突破するベストセラーに。2018年には黒木華さん・樹木希林さんらの出演で映画化され、大きな話題にもなりました。
本作の人気は日本国内にとどまらず、現在までに英語やスペイン語、フランス語など世界8カ国語に翻訳されています。イタリア語版がエイナウディ出版社から発刊されたのは2020年のこと。イタリア語版の訳者であるラウラ・テスタヴェルデさんは、茶道にかかわる言葉を日本語のまま残すなどの手法をとることで、日本の伝統や森下さんの気持ちの変化を、イタリア語版読者に非常に高い精度で伝えることを可能にしました。
そしてこのたび、『日日是好日』の「日伊ことばの架け橋賞」受賞が決まりました。今回は、過去2年間にイタリアで翻訳された日本現代文学作品30点以上を対象に、研究者や作家、ジャーナリストらからなる審査委員会による選考が行われました。そして、本書のほか、柳美里さんの『JR上野駅公園口』(21レッテレ出版社)、伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』(エイナウディ出版社)が最終候補作として選出されました。
『日日是好日』については、茶道によって徐々に人が成長する「道」を語りつつ、70年代以降の日本社会の変遷を伝えている点が注目されました。女性の立場は大きく変わり、社会の分断が進んだという変化は、イタリア社会にも多くの類似点があったといいます。
『日日是好日』の中では、茶道とイタリア映画の『道』(監督:フェデリコ・フェリーニ)が比較されています。冒頭で触れた「すぐにわかるもの」と「すぐにはわからないもの」の例として「茶道」と映画『道』が挙げられており、この点はイタリア人読者にとり、とても興味深い点になりそうです。審査委員会からは、〝2つの「道」は地理的に遠方にある場所で生まれたにもかかわらず、本当は極めて近いのでしょう〟とコメントされています。そして、2つの「道」に橋を架けたラウラ・テスタヴェルデさんの翻訳も、高く評価されました。
本賞の授賞式は、2022年12月10日にイタリア・ローマで行われる予定です。授賞式には、著者の森下典子さんと訳者のラウラ・テスタヴェルデさんが招待されています。これをきっかけに、イタリアでの日本文学や茶道への関心が、さらに高まっていくことが期待されています。
授賞理由、審査員のコメントなど詳細は、https://www.italiagiappone.it/pdf/premio_tokyo_roma.pdf をご覧ください。
著者プロフィール
■著者:森下典子(もりした・のりこ)さん
1956(昭和31)年生まれ、神奈川県出身。日本女子大学文学部国文学科卒業。『週刊朝日』の人気コラム「デキゴトロジー」の取材記者を経て、エッセイストとして活躍。
2018(平成30)年、ロングセラー『日日是好日』が映画化される。同年、続編となる『好日日記』、2020年『好日絵巻』を出版。他に『猫といっしょにいるだけで』『前世への冒険』『いとしいたべもの』『こいしいたべもの』『青嵐の庭にすわる 「日日是好日」物語』などの著書がある。
■イタリア語版訳者紹介:ラウラ・テスタヴェルデさん
極東アジア文明研究者(ナポリ東洋大学)。日本語・文学修士(東京、学習院大学)。
翻訳作品:三島由紀夫、小川洋子さん、平野啓一郎さん、宮下奈都さん、夏目漱石、横山秀夫さん、芥川龍之介、平出隆さん、ドリアン助川さん、森下典子さん。
日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ― (新潮文庫) 森下典子 (著) 「人生のバイブル! 」 毎日がよい日。雨の日は、雨を聴くこと。五感で季節を味わう歓び。 お茶を習い始めて二十五年。就職につまずき、いつも不安で自分の居場所を探し続けた日々。失恋、父の死という悲しみのなかで、気がつけば、そばに「お茶」があった。がんじがらめの決まりごとの向こうに、やがて見えてきた自由。「ここにいるだけでよい」という心の安息。雨が匂う、雨の一粒一粒が聴こえる……季節を五感で味わう歓びとともに、「いま、生きている!」その感動を鮮やかに綴る。(解説・柳家小三治) |
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▼日伊ことばの架け橋賞〔PDF〕
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